誕生日が命日?
12月24日。この日、街はクリスマスイブで盛り上がっていた。俺にとっても、自分の誕生日だからめでたい日なんだろう。しかし俺は、この日が嫌いである。
小学生の頃、みんなは、誕生日とクリスマスにプレゼントを貰っていただろう。ケーキも、誕生日とクリスマスに食べているだろう。
しかし俺は、誕生日プレゼントもクリスマスプレゼントも、誕生日ケーキもクリスマスケーキも全部、一つずつしか貰えなかった。他の子が、誕生日にゲーム機を買ってもらい、クリスマスには別の物を買ってもらっていて、年に2回欲しい物を買ってもらっていても、俺の場合は、年に1回である。
この時から思っていた。俺は不幸なんだと。それを裏付けるかのように、今の俺には彼女がいなくて、一人寂しく街をさまよっている。
俺の名前は、酒井 和義。大学生だ。現在彼女いない歴、20年…つまり、生まれてこのかた、彼女ができたことがないってことだ。周りの友達はみんな彼女がいるから、このクリスマスの日はデートしてるんだろうよ。
「はぁ……」
ため息が出る。
こうして街を歩いていると、周りはカップルだらけで嫌になってくる。
なぜ、俺がぶらついているかと言うと、家に帰ってもやることがないからである。
まあ、俺は今一人暮らししてるから、いつも暇なんだけど…バイトはしてるけど、今日は休みにしてる。
なぜかって? 同じところでバイトしている連中にみえをはって、彼女とデートするからとか言ってしまったからである。そりゃ、何か人に自慢したいって気持ちがあったからなんだけど…今となっちゃ、後悔してる。毎年そうなんだ……バイトは2年前からやってるから、その時一回彼女がいると嘘をついてから、こういうイベントの日には、デートがあるからとバイトを休んでいた。
「くそ……」
そう、さっきも言ったように、俺には彼女なんていない。寂しい大学生だ…両親は両親で、久しぶりにデートしましょうとかなんとかで、二人して出掛けるし、兄貴は兄貴で仕事があるからって働いてるし…
「ちょいとお兄さん」
はぁ……声かけてくるのは、どっかのバアサンだし……って、え?
「自分の人生を、占ってはみんかね?」
そこに、見知らぬ…は当たり前だけど。変な老人が座っていた。
「俺、金ないっすよ?」
「安心せい、金は取らん」
金を取らないで、商売になるのか?
「本当にタダなのか?」
「ああ、わしはただ、お主のこれからの人生というものを占いたいだけじゃ」
……変な占い師もいるもんだな。
「わかりました。どうぞ占ってください」
「ちょいと、待っとくれよ」
そう言い、老人はいかにもという、水晶玉を取り出した。
「…………」
自分のこれからについて考えてみる。このまま彼女もできず、結婚もできずに一生を終えてしまうのか…などと考えていた。
「終わったよ」
「もう、いいんすか?」
俺の人生って、あっけないな…なんてぼやいていると
「……よ〜く、聞くんじゃぞ」
なんか、深刻そうな顔で老人が俺を見る。
「お主は今日……」
今日のこれからか……どうりで早いこった。もっと未来を知りたかったかな…
「死ぬ」
そうかぁ、これから死ぬのか……って、へ?
「あ、あの〜、もう一度言ってもらえませんかね」
「お主は今日、死ぬ」
「…………はは」
笑ってしまう。今日、俺が死ぬって? 12月24日は不幸な日だと思っていたけれど、ついに命日までいってしまったのか、俺の人生は……それが可笑しくて笑ってしまう。本日をもって、俺の人生は終了するのか……不幸な日々ともおさらばかぁ……
「って!!」
俺は叫ぶ。
「いくら俺が不幸な日々を送ってるからって、いきなり占いで今日死にますって言われて、誰が信じるかってんだ!」
「信じるも信じないも、お主のかってじゃ」
「ああ、俺は信じないからな」
信じたら、それこそ人生の終わりだ。
「そうか…では、残りの時間をお幸せにな」
「それでは、失礼します」
俺はできるだけ早く、老人から離れるために、早足で歩き出した。
「ふんっ。何が今日死にますだ。いきなり人生終わってたまる――」
ガシャンッ
突如、目の前に植木ばちが降って来た
「……………」
なぜ植木ばちが落ちて来るんだ? ここはコンビニの前で植木ばちなんてあるわけが……
「あ………」
上を見上げると、コンビニの2階に人が住む部屋があった。ちょうど俺の真上の部屋に植木ばちがいくつかあった。
「……っぶね〜」
今更だが、ほっとする。こんなのが頭に落ちて来たらと思うとゾッとする。
『お主は今日死ぬ』
さっきの老人の言葉が頭を横切る。
「こ、こんなの偶然だ」
俺は構わず歩き出した。
「…………」
マジでシャレにならない。今日はなんなんだ? 厄日か?
あの後、交差点を渡ろうとしたら、いきなり信号無視のトラックが俺めがけて突っ込んで来たり。歩道橋の階段を降りようとしたら、誰かとぶつかって、落ちそうになるし…まるで本当に俺が今日死ぬようになっているみたいな感じだ。
「これも…偶然なのか?」
もはや偶然ではない。俺は今日、本当に死ぬんだ…今から数分前に、ヤクザに絡まれた。しかも武器まで持ってるし…逃げ切れたのは、奇跡と言えよう。
「逃げ切れたので、俺の運が尽きたとか言わないよな…?」
さっさと帰ろう。俺は急いで家に向かった。
「もうすぐだ……」
心臓がバクバク鳴ってる。そういや最近、この辺に通り魔が出るってニュースで言ってたような…
まあ、それは若い女性を狙っての事だけど。
ドンッ
「わっ」
「きゃっ」
突然、角の道から誰かが出て来て、ぶつかった。
「だ、大丈夫ですか?」
俺は尻餅ついてる女の子に手を差し出す。
「あ、は、はい…すいません…」
女の子は俺の手を掴み、立ち上がる。
「か、かわいい……」
第一印象がこれだ。しかも、声に出して言ってしまったことに、後悔した。いきなり何を言っているんだ俺は…
「……はい?」
女の子には、俺が何を言ったのかわからないようだ。女の子と言うと、幼い感じがするだろうから、訂正しておくが、年齢的には俺とそんな大差はない。むしろ、同じくらいだろう。でも、どこか幼さが残っているような感じだ。だから女の子と言っている。
「あ、あの、す、すいませんでした。ちょっと急いでいたもので……」
「い、いや、別に大したことないよ」
ああ、神様。俺は感謝します。人生最後にこんな天使みたいな美少女と出会うことができるなんて……もう死んでも未練はありません………って! なに人生終了宣言しちゃってんだよ俺ってやつはぁ!! 心の中でツッコム
「ど、どうか、しました…か?」
「い、いや何でもないよ僕は至って正常さ」
って、なに言ってんだよっオレ〜〜〜〜!? 僕って誰だよっ
「は……はあ…」
ほらみろ! どん引きされてるよ〜〜っ。こんな美少女と出会ってなに浮かれてるんだよ
「あ〜、おほんっ」
「だ、大丈夫…ですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。この通り元気です」
俺は、そんなに筋肉のない腕を振り上げてみせる。
「そ、それは良かったです」
あれ? やっぱり引かれてる? やっぱダメな男なんだな…俺
「あ、あの、そろそろ行かないと…」
「え。あ、ああ、急いでるんでしたよね。すいませんね、時間取らせちゃったみたいで」
「い、いえ……そ、それでは失礼します」
そう言って、女の子は去って行った。
「…………あ」
名前聞いとけば良かった……今更後悔する俺だった。また、会えたらいいなあ……そんな事を思いながら、再び家に向かって歩き出した。
ピリリリリ(着信音)
「んだよ、こんなときに」
そう言いながら、携帯を取る
ピッ
「はい、もしもし」
『酒井か? 孝司だけど、今暇か?』
「暇だつったら?」
『合コンやるんだけどさあ、メンバーが一人足りないんだ。お前来いよ』
「合コンって、お前彼女いんだろ」
『彼女も一緒だよ』
じゃあ何か? 彼女いない俺への冷やかしか?
「……やなこった」
『別にからかったりしねえからさ、それに今回来るメンバーに彼氏無しの女の子が来るんだよ。きっとお前にピッタリだぜ』
前にもこんなことあったよな……合コンじゃなかったけど、彼氏無しの女の子がいるつって、俺とくっつける為に勝手に呼び出して、強制的に告白させられて…見事にフラレた。
「どうせ、また何か企んでるんだろ」
まあ、こう言って企んでるなんて言う奴はいないだろう。
『かわいい娘だったら、告っちまえよ』
否定はしないのか
「まあ、いいけど」
帰ってもどうせ暇だしな…この不幸を誰かに移してやりたい
『んじゃ、場所教えるな――』
「ちーっす」
俺は指定された場所、カラオケに来た。
『おー来た来た、ここ座れよ』
ストン、言われた通りに座る。
「あ……」
そこでようやく気付いた。
「あ、さ、さっきはどうも…」
さっきぶつかった女の子だった。
「い、急いでたとこって、ここだったんだ…」
「え、ええ…まあ」
「何だ? 知り合いか?」
「さっき、ちょっとね」
そうか…彼氏いないんだ…なら、俺にもチャンスが…って、さっき引かれたんだよなあ、何とか挽回しないと
「ねえ、名前何てーの?」
「え、え…と」
なぜ黙る。もしかして、俺に知られたくないっていうのか?
「ああ、この娘ね、男性とあまりというか…全く会話とかした事ないの。だから、女の子以外だと上手く話せないのよ」
そこで、女の子の隣に座っていた、友達が説明してくれた。
「へー、男と会話した事ないんだ」
孝司も参加していた。おいおい…俺はこの娘と話したいんだけどな…
「お、俺もさ、女性と付き合った事ないんだよね、全く」
「そ、そう…なんですか」
何とか会話になってるぞ。そりゃ初対面でこんなに話しかけて来る奴なんて、どう対応していいのかわからないだろう。まずは、相手の名前から知っていかないと…
「俺、酒井 和義って言うんだ。君は?」
もう一度質問してみる。
「………七川 香織…です」
七川 香織……
「へー香織ちゃんか、いい名前だね」
「おいおい、今日はどうしたんだよ、酒井。やけに積極的じゃねえか」
「そ、そうか?」
考えてみりゃそうだ。過去に女子に酷いフラレ方してから、女子が苦手とまではいかずとも、少し避けるようになっていた俺にしては、やけに積極的だ。おそらく、今日死ぬとか言われてやけになっているんだろう。
「…………」
もし、本当に今日死んだら、ここで上手くいっても無駄になるかも知れない…
「酒井、なに急に黙ってんだよ」
「………いや、何でもない」
言い忘れていたが、このカラオケボックスの部屋には、俺を含めて6人いる。男女3人ずつという奴だ。
「あれ?」
しかし、一度も喋らないうちに、二人がいなくなっていた。
「ああ、あいつらなら、帰ったみたいだぜ」
せめてみんなにわかるように名乗ってから出て行けよ
そうそう、隣にいるのは、高校時代からの友達の孝司。んで、その前に座っているのが、孝司の彼女だ。言わなくてもわかるだろうけど……
「そういやさっき、女の子と付き合った事がないって言ってなかった?」
孝司の彼女が聞いてくる
「ん? ああ、今までで一度もない。むしろ、恐い存在だって思い込んじまったから、少しの間会話すらしなかった」
「恐い存在?」
「高校時代、つまり孝司と出会った頃、好きな女子がいたんだ。それを孝司に言ったら、俺の知らないうちに、その女子を呼び出して、俺に強制告白をさせたんだ。まだ、心の準備も出来てねえってのに……」
思い出すだけで、嫌な気分になる。
「んで、告ったら、見事にフラレた。しかも、フラレ方が、キモい・ウザイ・死ねばいいのに。だ…しかも呼び出した孝司が告白するのだと期待していたらしく、俺の顔を見たとたんに言われたんだ」
「うわ、ヒド……」
「まあ、こんな暗い話しはおいといて、せっかくなんだから、盛り上げようぜ」
その後、数曲歌って解散となった。
「へー、香織ちゃんの家もこっちなんだ」
俺は今、香織ちゃんと二人きりで帰宅しているところだ。孝司たちは、まだ寄る所があるらしく、カラオケボックスの前で別れた。
「…………はい」
香織ちゃんは相変わらず、返事が小さい。緊張しているんだろうか
「家まで、送って行くよ。この辺に最近、通り魔が出るらしいからね」
自分の家が近くになったけど、構わず香織ちゃんを家に送る方を選ぶ。まあ、男として当然だろう。と俺は思っている。
目の前に、コートを着て帽子とマフラーで顔を隠した人がいた。見るからに怪しい
「こっちの道に行こうか」
「? は、はい……」
返事はぎこちないが、素直に従ってくれるとこをみると、嫌われてはいないだろう。
「ねえ」
突然、声をかけられる。
「はい?」
香織ちゃんが返事を返すと……
「!?」
コートの男が、包丁を突き出して立っていた。
位置的に、俺は香織ちゃんの前にいたため、コートの男からは香織ちゃんの方が近い。
「君、かわいいね。僕はそういう娘、大好きなんだな!」
こいつ、通り魔だ! いや、そんなことはどうでもいいっ。たぶん、こいつと出くわしたのは俺の不運なせいでもあるだろう。とにかく、香織ちゃんが危ない。
「香織ちゃん! 逃げてっ」
しかし、香織ちゃんは恐怖のせいか、体が固まって動けないようだ。
「くっ」
通り魔が、包丁をぐっと引いた。おそらく、力を込めて一気に刺すつもりだろう。
ガッ
俺は香織ちゃんの肩を掴み、後ろに下がらせる。
「このヤ――」
俺は香織ちゃんの前に立ち、庇った状態だった。通り魔はお構いなしに、包丁を俺の腹(位置的に胸の下)辺りにグサッと刺した。
「…………」
「ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
通り魔は俺を刺すと、笑いながら走り去った。
ガクン
力が抜ける。俺はそのまま倒れ込んだ。
『お主は今日、死ぬ』
また、あの老人(占い師)の言葉を思い出す。ああ、俺 死ぬんだ……
「和義さんっ」
ああ、香織ちゃんが初めて俺の名前を呼んでくれた。
「…………」
今日1日を振り返る。確かに、一歩間違えれば死んでいただろう。それは分かっていた、ただ認めたくなかっただけだ。それに、女の子を守って死ねるんなら、いいさ……できれば、付き合いたかった。
「和義さんっ 和義さんっ」
この娘と出会ったことに後悔はない。むしろ、神様に感謝したくらいだ。意識が遠くなっていく……もう…終わり…か。俺の意識は完全になくなった。
12月24日。この日は、クリスマスイブであり、酒井 和義の誕生日でもある。午後10時53分、女の子を家へ送る途中、通り魔と遭遇。女の子を庇い、包丁で腹部を刺され重傷を負う。意識は不明…
「…………」
俺は目を開けた。ここが、死後の世界なのだろうか。目の前には白い天井が見える。ずいぶん現実的だな、と思った。
「っつ……」
身体が、痛くて動かない。手はかろうじて動く、しかし腹部が痛くて起き上がれない。俺は本当に死んだのか?
「………?」
手に暖かいものを感じた。目線で自分の手を見る。
「…………」
誰かが握っていた。少しの間眺めていると、その人物が顔を上げた。
「………和義さん?」
その人物が俺の名前を呼ぶ。その人物とは――
「香織……ちゃん」
俺…生きてたのか?
「ここ…は?」
「病院…です」
「香織ちゃんが、助けてくれたんだな……」
「……いえ、私は何もしていません…和義さんは私を庇ってくれましたし、救急車を呼んだのは、美紀ちゃんだし…」
「美紀……ちゃん?」
誰だ? 初めて聞く名だった。
「え…と、孝司さん? の彼女って言えばわかりますか?」
「ああ……」
孝司の彼女か…って何で?
「ご、ごめんなさい。私、混乱しちゃって…最初に救急車じゃなくて、美紀ちゃんに電話しちゃったんです…」
そういうことね……
「その、美紀ちゃんって娘に電話したのだって、一応俺を助けてくれた内に入ると思うよ」
「そ、そんなことありません……あ、その…助けてくれて、ありがとうございました」
「……香織ちゃん、質問いいかな?」
「? ……はい」
「香織ちゃんから見て、俺ってどうかな?」
「え?」
「彼氏の対象として」
「…………」
香織ちゃんの顔が赤くなってきた。どんな表情もかわいいな…
「俺は…香織ちゃんの事が好きなんだ」
告白するのは何年ぶりだろう…高校入学してからだから、4年ぶりか
「…………あ、あの…まだ、お互いの事を知りませんし…付き合うのは…それからってことで、いいですか?」
「ありがとう」
不幸な1日が終わり、幸せな日々が始まるのはこれからだ。
その後、和義の身に更なる不幸が訪れるのは、また別の話である。
この物語を読んでくれた方、ありがとうございます。命がけの1日にしようと考えていましたが、上手く書けず、大した内容じゃないかもしれませんが、感想などがありましたら、よろしくお願いします。




