歓迎! 転生組ご一行様 (3)
学校の正面玄関から正門までは、森の中をくねくねと縫っていくようなアスファルトの道が続く。これが非常に長い。なんでこんな面倒くさい行程なのかというと、わが校の生徒はたいてい専属運転手の送り迎えで登下校するからだ。登下校時には正面玄関前のロータリーから正門まで大渋滞が起きている。
そんななか、私と美都季は森の道をひたすら歩き、門を出てさらに駅まで十五分、地道に電車と徒歩の通学をしている。
重い荷物があるときは、運転手に教室まで取りに行かせる生徒がほとんどなので、たしかに大仰な荷物をかかえた私たちは目立つだろう。
下校時の渋滞が少し解消された時間ではあるが、ときどきすれ違う送迎車の運転手や後部座席に乗った生徒が怪訝な顔を私たちに向けていく。するとわたしたちはわざと大股になって大声で笑い合いながら歩いてやるのだ。徒歩通学ってなんて愉しい! とアピールするように。
どうして周囲の白い目に晒されながら風潮に逆らっているかというと、『質素倹約、自分のことは自力で』という我が家のモットーによって電車通学を強いられている私に美都季が付き合ってくれているというわけなのだが。
正門を出て少し歩いたところで、私は喉が渇いて道ばたの自動販売機でジュースを買おうとした。お嬢様学校の正門ちかくの閑静な場所、通行人はわが校の生徒しかいない(前述のとおり、ほとんどの生徒が車通学なので、私たちくらいしかいない)こんな場所で、ジュースを買って飲もうとする人がほかにいるだろうか。儲かるのだろうかといつも思うのだが、私はこの閑古鳥の鳴く販売機にかなり貢献していると思う。まるで私のために置かれたような販売機だ。
お気に入りのレモン風味スポーツドリンクを買おうと財布から小銭を出したとき、私の今月の残金150円のうち、100円がちゃりんと地面に転がってしまった。
今月のお小遣いが! しかもぜったい今このスポーツドリンクを買って飲まなければ干からびてしまう! と必死に手を伸ばし、なんとか販売機の下に潜り込む寸前で確保した……が、代わりに勢いよく前屈した私の背中から、矢筒の蓋が外れて30本の矢が派手な音を立てて辺りに転がった。
「あちゃ~~」
今日は踏んだり蹴ったりだ。スポーツドリンクはお預けで今度は矢を拾う羽目になるとは。
「葉月~。まだ動揺してんの?」
溜め息を吐きながら、美都季も一緒に矢を拾い集める。
すると、わたしたちのもの以外に、もう一本ぬっと伸びてきた腕が矢を拾い出したのだ。
「え?」
驚いて立ち上がった私の前に、見覚えのあるユニフォーム姿の男子が居た。
「はい、背中向けて」
キラキランという効果音が聞こえてきそうなくらい爽やかな笑顔を向けて、その男子は拾った矢の束を見せた。私がぼうっと突っ立っていると、「失礼」と言って背後に回り、背中の矢筒に矢を入れ、また残りを拾い出した。
突如現れた人物を、美都季も驚いて見つめている。
結局、呆気に取られている私たちにお構いなしに、ユニフォーム男子はすべての矢を拾って矢筒に収めてくれたのだった。