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歓迎! 転生組ご一行様 (2)


お食事前の方、お食事中の方は、読むのをご遠慮ください^^

 中学部に進学したとき、私は部活動を選ぶのに苦労した。

 どうにか、心の底から溢れてくる闘争心を解消させたい。それにはスポーツがいい。しかし球技などでは満足しない。ヴォールターナーはどんな道具でも器用に使いこなす男だったが、それは戦闘に使うものについてだ。球など扱って何になる。

 考えついたのは、格闘技、武道だ。柔道、剣道、合気道、空手、そしてなぎなたまで、ひととおりの格闘技、武術系の部活に体験入部してみた。

(お嬢様でも文武両道を目指すこの学校では、部活の種類も豊富なのだ)

 どの部活でも、私の実力を少し見るだけで即戦力になると思われ、すぐに先輩相手に合わせ稽古をやらせてもらえたのだが…………その結果、怪我人が続出した。救急搬送騒ぎになった事も、軽く二件ほど……。

 もちろん、かなり慎重に、壊れ物に触るように力を加減していたはずなのに、元勇者対素人(ヴォールターナーにとっては現世の人間はほとんどといっていいほど素人だ)、しかも女子では力の差は大き過ぎたようだ。

 体つきはどちらかといえば華奢なほう。筋肉のつき方も普通の女子とそれほど変わらない。それなのに、勇者の身体能力の記憶だけでここまで爆発的な力が発揮されてしまうのだから、人間の体とは不思議なものだ。

 そんなドキュメンタリー番組の解説みたいなことは、さておき……。


 あらゆる対戦型格闘技の部活から追い出された私は、考えた。

 人間相手でダメなら、馬だ。イニュアックス時代には騎馬戦の経験もあったから、馬の扱いなら慣れている。そして目を付けたのが馬術部だった。

 しかし、これは最大の誤算だった。馬術というのが、あんな狭い空間でちまちまと馬を歩かせるものだとは思ってもいなかった。馬に跨ったら、とにかく広い場所を駆けたい。

 結果、馬場を飛び出して学校内を軽やかに六周ほど疾走してきた私は、速攻退部させられたというわけだ。

 最終的に、武具を扱うことができて、対する相手が人間や動物ではない競技……弓道に落ち着いたというわけだ。


 話が逸れたが、私が馬術部に体験入部した僅かな期間の奇行が、園華には強烈に印象に残っているらしい。それに園華には前世の記憶がないといえ、天敵だったものに対する嫌悪感とか対抗意識だけは残っているようだ。

 そのせいもあって、私の姿を見かけるたびに因縁をつける。何かと目立つ行動を取る私は突っ込みどころも満載なので、園華には好都合だ。

 廊下で見かけただけで、こんな風に何かしら声を掛けてくるのだから。


「関係ないことないわよ。東塔女子の生徒とあろうものが、そんな物騒な物を背負って騒がしく歩いているなんて、はしたないこと! せめて外では校章を外していただけないかしら? 東塔女子の名に傷が付くわ!」


 突ける重箱の隅が無くなってしまったので、このお局様はとんでもないことを言い出したものだ。さも正論だというように、同意を求めるように周囲の取り巻きを見回す。園華と目の合った者は順々に大袈裟なくらい大きく何度も頷く。

 バカらし……。


「…………あの、ねえ……」


 呆れて面倒そうに口を開いた私の前に、ずずいっと美都季が立ちはだかった。 


「わたくしたち、良い選手であるために、常に道具の扱いに気を配っておりますの。この葉月にしても、これだけたくさんの道具を毎日ひとつ残らず丁寧手入れしているんですのよ! だから葉月はいつもこんなにたくさんの道具を残さず持ち歩いているんですの!

 あなたも馬術の選手ならお分かりでしょう? 錦小路さんは優秀な選手だと聞き及んでおりますわ! さぞかし馬の手入れも念入りにされていることでしょうねぇ。

 ば・ふ・ん(・ ・ ・)も、自らの手で丁寧に処理なさっているんでしょうねぇ。大変ですわね!」


 美都季の言葉に、園華にぴったりとくっついていた取り巻きたちが一斉に二歩ほど距離を取ったのが分かった。


「な、なんて、汚らしいことを!」


「汚らしい? うんまあ、ご自分の大切なパートナーがお出しになったものを汚らしいなんて、優秀な選手らしくない発言ですこと!」


「…………!」


 絶句して顔を赤くしたり蒼くしたりしている園華に向かってドヤ顔でホホホと笑い飛ばすと、美都季は私の肩を抱えて昇降口へと歩き出した。

 背後で怒りの炎がメラメラと炎上している気配を感じるが、おそらく追いかけてくる気力は無いだろう。


 そういえば、女王陛下の側付きで、身の回りのお世話をしたり話し相手をしたりしていたエリシュカは、キュリエッタに苛められることも多かっただろう。ましてや夫がキュリエッタの天敵ヴォールターナーなのだ。いわれもない嫌がらせを受けていたことも考えられる。

 前世では内向的で物静かな性格だったエリシュカは、それを戦地から帰ってきた夫ヴォールターナーにぼやくことは無かったが、その胸のうちに相当溜め込んでいたに違いない。

 転生して何でも口にできる強い女になった美都季は、無意識のうちに園華に復讐しているんだろう。


『エリシュカ、強くなって良かったなぁ。そしてあのとき約束したとおり、俺を守ってくれるなんて……』


「こら、葉月! ベソかいてんじゃないの! あんなヤツに言い返せないでどうするのよ! しっかりしろ」


 え? いや、誤解ですが。まあ、美都季に叱られるのも悪くはないので、そういうことにしておきますか。



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