宿敵の正体は? (3)
「ゾル、ヴォールにどこまで話したんじゃ?」
私が勢い込んでまどか少年を質問攻めにしようと構えると、先にまどか少年のほうから、落ち着いた老人口調で鷹介にそう質問した。
それを聞いて私は、二人が私の知らないところで通じ合っていることに驚き、非常に不愉快な気持ちになった。
「ちょっ……待って。私がこんな運命を背負ったのは、二人の策略だってこと?」
「さくりゃくって何?」
まどか少年がキョトンとして訊き返す。私にはそれがわざとらしく思えてしまって、思わず声を荒げてしまった。
「ふざけるな! お前たち二人して、俺が現在のこの姿とのギャップに苦しむことを知りながら、わざと前世の記憶を残すよう仕組んだのか? って訊いてるんだ!」
まどか少年が私の声に、びくんと体を震わせ、見開いた目を潤ませた。
「おい。勝手に想像を膨らませるな。それに今お前が話している相手はマドゥーラじゃない。まだ小学生なんだぞ。マドゥーラが実際に経験したことを、断片的に覚えているに過ぎない。その記憶を呼び覚ますために、マドゥーラの口調になるだけだ。勘違いするな」
鷹介に言われてはっと我に返り、改めてまどか少年の方を見ると、彼は少し俯いて上目遣いに、今にも泣きそうな怯えた目を向けていた。
「あ、あ。ご、ごめんなさい。まどかくんに話しているのか、マドゥーラに話しているのか、分からなくなっちゃって。
私が訊きたいのは、こんな女の子の姿をしながら、何で前世の男臭い勇者の記憶に悩まされなくちゃならないのかってことなのよ。二人がわざとそうしたというなら、その理由を訊きたいの」
私があたふたと弁明するのを、まどか少年はじっと聞いていた。しばらくはそのまま訝し気に私を見つめていたまどか少年だが、やがてさっと顔を上げると、にっこりと笑った。
「分かってますよ。多分そうだろうなと思ってました。その理由はゾルも知っているけれど、別にヴォールを困らせようとしたわけじゃないんです。
………………仕方なかったんじゃよ。緊急事態じゃったからの。いくらこのわしでも、他の方法を考えている暇は無かった。これしか思いつかなかったのじゃ。ともかく、同じ記憶を持った勇者が二人いれば、なんとかなると思ってな……」
まどか少年は、小学生になったり、老人になったりしながら、一所懸命、記憶を辿っているようだ。
それを助けるように、鷹介が話し始めた。
「その通りだ、ヴォール。問題は差し迫っていたから、二人で知恵を絞って出た答えが、お前の記憶と力を残すということだったんだ。
マドゥーラ、俺は、こいつの記憶が残っているのは俺がマドゥーラに頼んだからだということと、クリヌラップの王子が転生して女王を狙っているかもしれないということしか話していない。俺から説明してもいいが、俺が転生した後のことを知るのはマドゥーラだけだ。できれば、お前から思い出せるかぎりのことを話してやってほしい」
鷹介が、まどか少年にそう説明を求めるのだが……。
さっき私には、小学生だから気を遣えと言っておきながら、ずいぶん無理なことを頼むじゃないか? そんな難しい言葉でお願いしても、まどか少年には伝わらないのでは?
しかし、まどか少年はあっさり答えた。
「よかろう。わしから全部説明しよう」
ズコッ!
私はその場で思わず仰け反った。
『一体、どこまで小学生で、どこまで老人なんだよ! その区切りが、まったくわからんわ!』
何とか姿勢を立て直したところで、まどか少年……いや、その時点では完全にマドゥーラに戻って、彼が説明を始めた。
「わしは、薬を飲んでもうすぐ命が尽きようとしているヴォールとエリシュカに、転生の呪術をかけているところじゃった。
すでに、他のイニュアックスの者たちは転生しており、残るはヴォール夫婦と女王様だけ。しかし、クリヌラップの軍勢はもう間近まで迫っていて、わしは焦っておった。
ちょうどエリシュカへの施術を終えた、その時じゃった。わしの部屋にゾルザックが駆け込んできたのは……」