歓迎! 転生組ご一行様 (1)
グワラン、グワラン、グワラン……
廊下に賑やかに響き渡るのは、背中の大きな筒から聞こえる音。
直径約30センチ、長さ約1メートル。その中に入った30本の矢が、早足の歩調に合わせて中で転がっているのだ。
小柄な身体に背負った大きな筒はかなり目立つ。さながらバズーカ砲だ。さらに長い弓を肩に担いだ姿に、すれ違う誰もが警戒して道を空けていく。
弓道場から昇降口へ続く長い廊下を、私は美都季と弓道具を抱えて歩いていた。明日は試合なので道具を持ち帰らねばならない。
美都季は弓や矢筒を抱えた姿が自然と様になっているが、私の重装備にはみんな異様なものを見るような目を向ける。
「そこのあなた!」
突然、背後から甲高い声に呼び止められた。
ふたりが同時に振り返ると、そこには5、6人の取り巻きを周囲に侍らせた女子が睨みをきかせていた。
「そんな物騒な物を持って、騒がしく歩かないでいただきたいわ!」
先ほどまで組んでいた腕を反対に組み直し、少しはすに構えて顎を上げる。そして、これでもかというくらい蔑んだ目で私を見た。
「仕方ないでしょ。明日は試合なんだから」
「試合のたびにその大騒ぎ? なんとかならないのかしら? だいたい葉月さん、なんでそんな大きな道具を持ち歩かなくてはならないの?」
「そんなこと、あなたに関係ないでしょ?」
まったく面倒なヤツに捕まったものだと思いつつ、私は溜め息まじりに答えた。
そういえば、私の周囲には美都季以外の転生人(面倒なのでイニュアックス出身の者はまとめてこう呼ぶことにする)で、これまで近しい者はいなかったといったが、こいつのことをすっかり失念していた。
この女子 ―― 東塔女子学院の生徒会である『大和撫子の会』で会長を務める錦小路園華も転生人のひとり。
仲は相当よろしく無いが、ヴォールターナーに近しいといえば近しい人物だった。
彼女の前世はイニュアックス城内の使用人を取り仕切る侍女頭キュリエッタ。女王陛下が幼い頃には躾け係として召されていたこともあったという。
ともかく全てにおいて厳格で、細かく、潔癖症。それに城内に仕える者の中で彼女に逆らえるものはなく、女王陛下でさえ彼女の顔色を窺っていたくらいだ。
兵士たちはみな泥や血で穢れているという偏見をもち、城内で兵士を見かけようものなら「城内が穢れる!」とヒステリックに騒いだり、嫌味を言ったりする。
もちろん勇者ヴォールターナーなどその最たるものだから、ヴォールターナーは特に目の敵にされていた。勇者の姿を目にしただけで「おお、汚らわしい!」と口を手で覆って蔑むように見るのだ。
しかしヴォールターナーのほうも負けていなかった。通りすがりにキュリエッタのドレスの裾を踏んで転ばせたりと、姑息な手で復讐したものだが。(どっちもどっちだ!)
確かに二人は天敵で、顔を合わせれば必ず騒動が起こしていたから、近しいといえば近しいといえる。
この学校の女王様気取りでいる園華。
私は、園華がキュリエッタの生まれ変わりだと知ったとき、なるほどと頷いた。キュリエッタのことだから、さしずめ「多くの者にかしずかれる存在になりたい」などと転生先を希望したに違いない。
知らない者はないほど有名な大物政治家の娘で、自分専属の執事や召し使いを幾人も従え、さらに学校でも多くの取り巻きに囲まれて過ごす毎日。さぞかし気分がいいだろう。
しかし、あの陰険ババ……(こほん…)が同学年とは解せない。同じ頃に転生したから仕方ないのだが、同じ学校の同じ学年とは、なんというくされ縁なのだと、園華と出会ったときに己の運命を呪ったものだ。
そう、私が園華に出会ったのは、園華の所属する馬術部に体験入部したときだった。