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宿敵の正体は? (2)


日曜日、行楽地へ向かう電車はどれも超満員で、同じ方向にあるまどか少年の家へ向かうまでにだいぶ体力を消耗してしまった。

さらにまどか少年の指定した公園というのが、さっぱり分からない。

住所から探した彼の家は、広大な住宅地の真ん中に建つマンションだった。彼の家を直接訪ねるわけにはいかないので、そこから教えてもらった公園を探し始めたのだが……。辺りはどれも似たような家やマンションばかりなのだ。都市計画で秩序正しく整備された街のようで、その一帯には大小さまざまな公園がいくつもある。広い公園になると、その両端に原田さんと青木さんの家があるかどうかを確かめるのも至難の業だ。


「こっちは中村さんだったよ」


「公園の隣の隣は青木さんだったが、すぐ隣は安田さんだった」


「じゃあ、ここは違うね」


鷹介ようすけと同時に大きなため息を吐く。こうやって、ふたりで手分けして公園の両端に建つ家を確認して回って、どれくらい経っただろうか。公園の両端といっても、公園には入り口がいくつもあるのだから、ぐるりと一周確かめなくていけない。


「……お前な。もう少しマシな目印を訊き出せなかったのか?」


「そうは言っても、小学生にもっと詳しくって言っても難しいでしょ。実際、どの公園の周りも家ばっかりで、目印になりそうなものなんて無いし」


「こうなったら、もう一度マンションに戻って近くの人に訊いてみるか」


「そうだね。それが一番早いかも」


私たちが元来た道を振り返ったとき、目の前にまどか少年が立っていた。


「あ、葉月お姉さん!」


「まどかくん! 良かった! 約束の公園が見つからなくて。やっぱりここだったのね!」


「あ、ごめんなさい。ここじゃなくて、隣の公園です」


そう言って、私たちの先に立って歩き出したまどか少年に着いて行くと、さっき鷹介が見つけた青木さんのお宅の裏手に、小さな公園があった。

植え込みに挟まれた小さな入り口の向こう側の家には、大きな表札が掲げられていて、『原田』と書かれている。


「なんだ。もう少し探せば見つかったじゃない、原田さん!」


思わず鷹介に文句を言うと、彼は「わかるかよ!」と私を睨みつけた。

確かに、公園多すぎでしょ。なのに、今まで探した中で一番目立たないし、見つけにくい。


「あんまり人の多いところじゃ話せないし。ここなら滅多に人が来ないから」


植え込みに挟まれた狭い入り口は、確かに中まで入るのを躊躇わせる。さらに、公園の中は狭いわりに周囲を高い木が囲っていて薄暗く、ふらっと中まで入るには、かなりの勇気が要りそうだ。


突き当たりに古いベンチがあり、まどか少年はそこに腰を下ろした。私がその隣に座るともういっぱいで、鷹介は私たちの正面に立った。


「今日は葉月お姉さんの彼氏も一緒なんですね」


まどか少年の言葉に、何か返事をしかけた鷹介を遮るように、私は立ち上がって甲高い声を上げた。


「彼氏じゃない! 彼はゾルザックだ!」


まどか少年は目をまん丸くして固まった。


「あ、そ、う、だったんですね。そんなに叫ばなくても……」


ハッと我に返り、恥ずかしくなって俯くと、私はまた、ベンチに腰を下ろした。

そんなに全力で否定したら、かえって私が鷹介を意識しているみたいじゃないか。自分のバカバカ!


「ヴォールの言う通りだ。マドゥーラ。久しぶりだな。再会出来て嬉しいよ」


鷹介は冷静に言って、まどか少年に握手を求めた。まどか少年もにこやかにその手を取る。そして、あっさりマドゥーラの口調になって答えた。


「ほう、なかなか立派な青年じゃ。お主が一番前世の姿に近いのう。ゾルは前世でも自信溢れる男だったからの。なるべくそのままの姿で転生させたのじゃ」


「マドゥーラ! 全然小学生のアタマじゃないじゃないか! 普通に大人として会話できるじゃないか!」


私は今まで気を回していたのが馬鹿らしく思えてきた。


「いや、普段の能力は小学生じゃよ。ただ、魔法の力の名残りが残っているのと、老人マドゥーラの記憶がはっきりと蘇ることがあるということじゃ。その記憶の通りだったら、大人として話が出来る」


まだあどけない顔とは裏腹に、老人のような語り口で、まどか少年、すなわちマドゥーラがそう言って、ふぉっふぉっふぉっと笑った。


「ならば、話が早い!

マドゥーラに聞きたいことがいくつかあるんだが、小学生に話して理解できるか悩んでいたんだ。そのまま聞いても答えられそうだな」


途端にマドゥーラから、まどか少年の口調になる。


「えー? お姉さん、あんまり難しいこと、僕分からないかもしれないよ?」


「……」


とうやら、私はすっかりからかわれているようだ。

悔しいが、鷹介を連れてきて良かったと、その時つくづく思ったのだ。



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