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お嬢様女子高生のヒミツ(3) 



 そう、すべての悲劇はあの瞬間に始まったのだ。

 私が何度となく思い出し、身悶えるほど後悔するあの場面!


 異世界、イニュアックス王国は、強大なクリヌラップ帝国に攻め入られ、いま、まさに崩壊せんとしていた。

 最後まで抵抗を試みていた国民たちは、最後の砦であるイニュアックス城に集まっていた。聡明な女王陛下はそこで重大な決断を下す。


「もうわれわれに為す術はありません。イニュアックスの運命はあと少しで終わります。しかしここに残された民たちをみすみす敵の刃に掛けたくはない。

 そこで大魔術師マドゥーラの力を使って、皆の命を新たな生として異世界に送ってもらうことにしました。マドゥーラと彼の弟子たちが力を合わせれば、異世界でもわれわれが何らかの繋がりを持って暮らせるようになるのです。それも戦いのない幸せな世界で。

 皆が幸せな世界で再会することが、私の望みなのです」


 女王陛下の思いやりに民たちは涙した。 

 しかし戦って国を守る事を身上としてきた勇者ヴォールターナーだけは、最後まで主張した。


「陛下、どうか陛下と民は無事に転生されますように。私はその間クリヌラップの邪魔が入らぬよう、城門の外で見張っております。敵が攻めてきたら、ひとり残って最後まで戦います」


 すると女王陛下は勇者に鋭い視線を投げ掛けた。


「それはなりません! これまで国の為に先頭に立って戦ってきたそなたこそ、転生して平和な世で暮らしてほしいのです。

 それに、そなただけが頼りのエリシュカはどうなるのですか? そなたがここに残るというと、エリシュカも運命を共にすると言い張ることでしょう。ふたりの民を見捨てなくてはならないわたくしの辛さはどれほどのものだか、考えて御覧なさい。

 ヴォールターナー、そなたこそ次の世で何の不自由もない幸せな人生を送るのです! これは女王としての最後の命令です」


 陛下の命令は絶対だ。ヴォールターナーはそれに従うしかなかった。



 大魔術師マドゥーラとその弟子たちの力を持ってしても、数千人の人の命を異世界に飛ばすなど容易なことではない。それにひとりひとりに合った転生先を探すのは至難の業だった。 

 そこでマドゥーラは、魔術の施された羊皮紙を全員に配り、転生後はどんな人間になりたいか、どんな暮らしがしたいか、希望を書かせることにした。そうすれば、その文字が呪文となり、自動的に願ったとおりの転生先が見つかるというわけだ。


 ヴォールターナーは、妻のエリシュカと相談しながら羊皮紙をしたためた。

 エリシュカは言った。


「私、この世では体が弱くてあなたに心配と迷惑ばかり掛けてきたわ。次の世では丈夫な身体になりたいの。それもあなたみたいに何でも器用にこなせる人になりたいわ。それで、次の世ではあなたを守ってあげるのよ!」


「それは頼もしいな。それなら逆に、俺はのんびりとした性格の優しい女の子がいいかな。今の俺とは正反対だ。それで困ったときにはお前に助けてもらうんだ。守ってもらうというのも悪くない。

 小さい頃から両親を知らず、その日の食い物を手に入れるだけで精一杯の生活だった。女王陛下が俺を取り立ててくださって、ようやく人らしい生活が送れるようになったがな。どうせ生まれ変わるなら、幼いうちから両親の愛情がたっぷりあって、食い物もたっぷりある豊かな生活をしてみたいものだ。

 そう、大金持ちのご令嬢とかな」


「そうね。あなたは不自由のない暮らしをするべきよ。

 私も小さい頃ろくに食べ物もない生活だったから、こんな身体になってしまったの。やはり豊かな暮らしがしたいものだわ。

 それにね。あなたが女の子に生まれ変わるなら私も女の子を希望するわ。そして親友になるの。

 だってわたしたち、夫婦であっても一緒にいられる時間は少なかったわ。あなたが戦いに出ている間、わたしはずっとひとりで待っていなくてはならなかった。

 友だちなら、ずっと一緒にいられるでしょう? 友だちとして守ってあげられるのなら、どちらかが負い目に感じることもないわ」


 異世界なんて、夢の世界だ。夢でさえ見ることができないくらい、想像を超えた世界だ。

 それなら好き放題の夢を語ってしまったほうがいい。

 どちらにしても、ヴォールターナーとエリシュカとしての人生は終わってしまうのだから。異世界での暮らしなど、絵空事と同じだ。

 最後の夜に楽しく笑い合いながら、ふたりは軽い気持ちで羊皮紙をしたためたのだった。



 しかし……。

 ヴォールターナーの叫びが聞こえてくる。


 さすがは大魔術師! マドゥーラはふたりの願いにぴったりと合った転生先を選んでくれた。

願いは叶った! 魔術師に感謝こそすれ、恨むのは筋違いだ。分かってる。 

 でも、根本的なことが間違っている! 

 転生しても前世の記憶がそのままなんて、苦しいだけじゃないか! 虚しいだけじゃないか!

 そういえば、所用でマドゥーラの部屋を訪ねたとき彼は留守で、帰りを待っている間、机の上の高級菓子を失敬したことがあったっけ? 


 マドゥーラ、教えてくれ! あのときの恨みなのかー? 



 



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