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対決! ヴォールVSゾル (4)

対決!


弓道の名門、翠泉寺(すいせんじ)高主将

神部 鷹介(ようすけ)


VS


大和撫子、東塔女子学院

沢渡 葉月


両者とも甲乙付け難い実力の持ち主!

普通の弓道とは違った手に汗握る対決!

観覧無料! この試合を見逃すな!


⚪︎月×日(日) 10時開始

翠泉寺高校 遠的用射場にて


※観覧の際は、必ず係員の指示に従ってください。






「何これ! いつの間にこんなこと決まっているわけ? しかも、翠泉寺高がある街じゃなくて、私が住んでる街のスーパーに、わざわざチラシ貼るなんて、完全に私の囲い込みでしょ!」


アドルに連れられて行ったスーパーの、入り口に貼られたチラシを見て、私は頭に一気に血がのぼるのを感じた。


すぐさま鷹介にメールをする。本当は直接電話で怒鳴りつけてやりたいところだが、不覚にも電話番号を聞いていなかった。


『一体、どういうことだ!

なんで俺の都合も聞かずに勝手に決めた!

いくら敵とはいえ、先ず相手に直接試合を申し立てるのが筋だろう!

戦士の風上にも置けないヤツだな!』


ゾルの前では、もうお嬢様などと気取ってられない。本性、いや前世むき出しの言葉でいきなり噛み付くような文面になったが、落ち着いた文面など考えている余裕はなかった。

鷹介からは即、返信が来た。


『心配するな。この間の試合の後、すぐにお前のところの部長にオフの日を確認しておいた。お前の学校にも確認を取っておいた。そっちの都合はバッチリだ!

確かにお前に直接聞くのが筋だが、いろいろと理由をくっつけて逃げられても困るからな。先に予定を組んでやったんだ』


『家の都合だって、あるんだぞ!』


『お前に関わる家の都合って何だ? 葬式でも出たか?』


『いちいちお前に理由説明することじゃないだろ。俺の体調だってあるじゃないか!』


『ヴォールに体調だと? 笑わせてくれるな。まあ、女の身体じゃ色々と不都合もあるってことか。その時点で俺とは勝負にならないってことだな』


『うるさい! お前の設定した条件で受けてやろうじゃないか!

その代わり、アウェイなんだから考慮しろよ』


『考慮してやったじゃないか。お前の街からギャラリーを集めるために宣伝してやったんだよ! 俺自ら足を運んでな。心遣いに感謝しろよ』


気付いた時には遅かった。すでに鷹介の術中に嵌っていたのだ。

どこかで私の住所もうまく聞き出したに違いない。ある意味ストーカーだが、その動機は単にヴォールターナーと勝負がしたいという執念に他ならない。


私はスマホを握りしめてスーパーの入り口に屈み込み、頭を抱えた。


「く……くやしー……」


チクショー! と罵りたいところを、そこはまだ理性が歯止めをかけた。


スーパーに出入りする人の視線が頭に降ってくる感じがしたが、動く気力も湧かない。

しばらく頭を抱えてから何とか堪えて立ち上がり、スーパーの裏手に回ってめちゃくちゃにスマホをタップする。


『覚えてろよ、秘境物、紺なことして、多田で住むと、想う名世、ゼッタ胃、勝手やる空な!!!』



「ヴォール、大丈夫?」


アドルが寄ってきてボソボソと呟く。スーパーの裏手とはいえ、駐車場からの通りになっているので、ひっきりなしに人が往来している。鬼の様な形相でアドルに向かって「しぃーー!!」と声をひそめて、それでもありったけの声を出すつもりで諭す。

アドルはキュインと言って、一歩退いた。


何なんだ。厄日どころか厄人生だ!



そんな騒動は、スーパーの一件では収まらなかった。


翌日、登校するなり、私の目の前に園華が立ちはだかったのだ。


「葉月さん! 東塔女子の名に、よくも傷を付けてくださいましたわね!」


腕を組んで思いっきり見下す目をした園華のコピー人形のように、彼女の両脇の取り巻きが全く同じ姿勢で立っていて、私は思わず吹き出しそうになった。


「ふざけないで! あなたのような人と同校同学年だなんて、恥ずかしくて仕方ないわ!」


うーん。そのお言葉、そっくりお返ししたいところですが、まあ、園華の怒りの原因にはだいたい察しが付くので、反論しても無駄だろう。


「あれは、何ですの!?」


園華の指差す方には、昇降口に設けられた学校からのお知らせ掲示板があり、その真ん中に堂々と、スーパーに貼ってあったものと同じチラシが幅をきかせている。


「うっ。何故ここにまで!」


「何故って、あなたが貼ってもらったものでしょう? 近隣のお店にもあちこち貼って歩いて、どういうおつもりなの? 何が大和撫子よ! こんな野蛮なことをしようなんて、同じ学院の者として許せないわ!」


学校の掲示板は、生徒が勝手に何かを貼らないように、ガラス扉で塞がれて鍵が掛かるようになっている。つまり、学校の職員しか貼ることが出来ないのだ。

しかも、チラシの右下には、理事長の許可印が押してあるではないか。


「何とか言ったらどう……」


どんっ!


立ちはだかる園華を押し退けて、私は一目散に理事長室へと向かった。



トントンと普通にドアをノックしたつもりだったが、ただでさえ怪力のうえ、かなりの焦りで力がコントロール出来なくなっている。


「頼もうーー!」


という叫びが聞こえてきそうなほど、激しい音が廊下に響き渡って、歩いていた生徒たちが一斉にこちらに注目した。

やがて中から「どうぞ」という声が聞こえてきて、私は失礼しますと断って中へ足を踏み入れた。


正面の大きな執務机に、つり上がった眼鏡をかけた、いかにも厳しそうな顔つきの女性が座っていて、机の脇に、恰幅が良くて背の高い男性が少し反り返るような姿勢で立っている。

学院全体の行事でもなければ滅多にお目に掛かれない、理事長と学院長である。


二人並んでいると相当な貫禄だ。

勢い込んできた私は、二人の視線に晒されて思わずひるんだ。


「あなたは?」


理事長は、つり上がった眼鏡の端をさらに押し上げて私に訊いた。


「二年C組の、沢渡葉月です」


理事長の視線からキラーンという音が聞こえてきたかと錯覚した。明らかに目つきが変わり、隣に立っていた学院長が、声を出さずに「ああ!」という形に口を開いた。


理事長は大きな執務机の右側に回り込んで、私の方へ寄ってきた。


「あなたが葉月さん! 翠泉寺高校から是非、あなたを試合にお招きしたいと申し出がありましてね。何でも弓の凄い技をお持ちなんですってね。こんな方がいらっしゃるなんて、同じ学院の者でも誰も存じませんでした。

我が校の代表として、是非とも頑張っていただきたいですわ!」


……は。何ですか、この展開。


理事長は涙まで浮かべそうな勢いで私の手を握ってきた。

理事長の後ろでは、学院長が、ぱん、ぱん、ぱんとわざと音を上げて拍手をする。


お願いです理事長、その厳しい相好(そうごう)を崩さないでください! 威厳が台無しです!


どうか、

「なんてことなさったの! こんな派手なことは、学院として許しません!」

と、叱ってくださいー!


少しは園華を見習ってくださいー!


私はもう、何をどうしていいやら分からなくなっていた。

ともかく、ヴォールとゾルの間だけで取り交わされるはずだった因縁の対決が、ふたつの学校の名誉を掛けた戦いという大袈裟な展開へと変わりつつあることは悟った。


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