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対決! ヴォールVSゾル (3)

「まさか、エリシュカにも会えるとは思わなかったわ! ヴォールはエリシュカの親友として生まれ変わったのね! 素敵な縁ね。

折角だから、私、エリシュカのおうちに行こうかしら? ヴォールのおうちは、もういっぱいみたいだし」


公園の、ほとんど人の来ない裏手のベンチにやってきて、アドルは興奮気味に話し出した。嫌な予感は見事に当たった。アドリエンヌ様は、今のご自分の立場を分かっていない。いや、分かっているだろうが、すぐに忘れてしまうようだ。


「アドリエンヌさま、美都季(みつき)には、エリシュカとしての記憶は何もないんですよ。エリシュカとは全く正反対の性格です。アドリエンヌさまが期待しても、エリシュカとして接してくれるわけではない。

それに! うっかりして、言葉が話せることがバレたら、いくら美都季でも気味悪がって追い出すかもしれません。

もしかして、すでにそれで困った経験がおありなのでは?」


アドルは途端に口をつぐみ、くぅんと唸ってその場に伏せると、上目遣いに私を見上げた。


「図星なんですね」


私は眉間を指で押さえて目を閉じ、大きなため息を吐いた。


「あの、女王様。貴女様のお陰で、イニュアックス人は、この近辺にたくさん転生しております。キュリエッタにもアスモにも、私はすでに会いました。向こうでは顔を知っている程度だった知り合いなら、十人以上見かけましたよ。女王様ならご存知の人ばかりでしょう。イニュアックス人の転生人なんて、この街では珍しくも何ともないんですよ」


「まあ! そうなの。さすがマドゥーラね!」


ーー いや、そこに喜んでいる場合では…… ーー


「ともかく、皆ほとんど記憶はないんですから、イニュアックス人の生まれ変わりだといって気軽に話しかけてはいけません。しかも、貴女様は『犬』なんですからね! 犬が人間の言葉を喋るなんて、それこそ注目の的になってしまいます」


「……ヴォールの言う通りね。気を付けるわ」


ーー 良かった。アドリエンヌ様が美都季の家に行かずに済んだ ーー


私は違うところに安心していた。


「イニュアックス人が珍しくないなら、ゾルが居たのも当然ね」


ーー そうだ! 問題はそれだ! ーー


「アドリエンヌ様! ゾルは別です! イニュアックスの敵なのに、転生しているのもおかしい! しかも、ヤツは私たちと同じように前世の記憶があるのです。ヤツは私に前世の記憶が残ってしまった原因を知っている。それを教えてほしいなら、勝負しろと言ってきたのです」


「そう、それで。

三洗(みたらい)さんと散歩に行ったとき、途中で彼女がスーパーに寄ったのよ。入り口で待っていたら、ゾルザックの生まれ変わりだと思われる男の子を見かけたの。スーパーの店長に貼り紙を渡してた。

後で店長が貼った紙を見たら、『対決』とか『沢渡葉月』とか何とか書いてあったわ」


「アドリエンヌ様、文字を読めるんですか?」


「言葉も文字も、前の家で家族の一員として育ててもらったから覚えたのよ」


「それで、言葉を話したり、文字が読めることを家族が気味悪がったのでは?」


「いいえ、家族は当然みたいに思っていたんだけど、近所の人に知られて、噂になってしまって……」


「…………」


いくらなんでも、危機感がなさ過ぎる。城の中であらゆる危機から守られて育ったお姫様なので、仕方ないのかもしれない。

君主としては立派なお方だったが、ご自分を守ることに関してはあまりにも無頓着なのだ。

この現代でも、私が守ってあげないと。

いや、その前に……。


「アドリエンヌ様、直接ゾルと会ったのですが? ゾルはアドリエンヌ様に気付いたんですか?」


「いいえ。離れたところで見てただけよ。離れていても、ゾルザックの気迫は伝わってきたわ」


良かった! ゾルはまだ、女王様が犬だとは気付いていない。


「ともかく、ゾルがスーパーに何を貼ってもらったのか見に行きましょう」


「そうね!」


突然目を輝かせて勢いよく立ち上がったアドル。私は屈んでアドルに目線を合わせ、厳しい調子で諭した。


「いいですか! ここを出たら、一切喋ってはいけませんよ!」


アドルはキュイーンと鼻を鳴らした。



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