対決! ヴォールVSゾル (2)
「見れば見るほど、カッコいい仔ねー!」
マスターがうっとりとアドルを眺めている。
「アドルはマスターにあげませんからね!」
「やだ、葉月ちゃん、そんなこと言ってないじゃない! しかし、こんなイケメン犬、見たことないわぁ」
「マスター! 口説くのは人間だけにしてよ」
「あら、やだ。葉月ちゃんのあたしのイメージって、どんだけー?」
「古いです!」
カウンターに乗り出してアドルをうっとりと見つめていたマスターと、それに危機感を感じた私が、やいやいやっている目の前で、チョコパフェの続きを堪能している美都季。アドルはその足元に伏せている。
アドリエンヌ様は、エリシュカのことを何でも打ち明けられる親友だとおっしゃっていた。女王と侍女の関係なので、そんなことは口外出来ない。ましてや、あの口うるさいキュリエッタに知られたら、エリシュカが追い出される。
一度だけ、ヴォールターナーにそう打ち明けたのだ。
エリシュカは、誰も知らないアドリエンヌ様の悩みを知っていたのだろう。真面目で忠実なエリシュカは、夫にさえそれを決して明かさなかったが。
アドルは、エリシュカの生まれ変わりである美都季にこうして再会できて、どんなに嬉しいだろうか。飛びついていきたい気持ちを抑えて、じっと美都季に寄り添っている姿が、いじましい。
いや、美都季の家に行きたいと、アドルが望んだら、どうしよう。
同時に、またおかしな嫉妬が湧き上がってきた。
「それにしても、何で葉月ちゃんの犬なのに、美都季ちゃんに寄り添ってるの? もしかして、葉月ちゃん、アドルくんをいじめたんじゃないでしょうねー」
マスターが頬杖をついたまま、私の方をぎとっと睨みつける。
「そんなこと、するわけないでしょ! 美都季なら遊んでもらえるとおもってるのよ!」
うう、アドリエンヌさまに対して、何たる無礼なことを。
私は、上目遣いでこちらを見上げているアドルに、密かに手を合わせて困った顔をして見せた。
「ごちそうさまー!」
ようやく美都季がパフェを平らげた。私は急いで立ち上がり、マスターに千円札三枚を差し出す。パフェ三つと、自分のアイスコーヒー分。わずかにお釣りが返って来るはずだが、「お釣りいらないから!」と足早に店を後にする。
出口で振り返り、なかなか付いてこない一人と一匹に手招きする。
「もう、やだわ。葉月ちゃんったら、そんなことで怒っちゃったわけぇ?」
私は単に、アドルの話を早く聞きたいだけだが、マスターは誤解してしまったようだ。しかし、いちいち説明することも出来ないので、悪いが誤解しておいてもらおう。
ーー ゾルが何だって? どこで会ったんだ? アドリエンヌ様が犬に転生されていることを知ってしまったのか? まさかそれをネタに脅してきたりしないだろうな? ーー
頭の中に、たくさんのシミュレーションが浮かぶが、美都季の手前、それをアドルに聞くわけにもいかない。
美都季は隣なので、家の前まで一緒だ。家に帰る前に、どこか人気のないところでアドルの話を聞かないと。
焦って思いを巡らせている私の後ろで、美都季は隣を寄り添うように歩くアドルに声を掛けている。
「アドルって、かわいいわねー! 本当に私のこと気に入ってくれたみたい。葉月の家はもう二匹もいて定員オーバーだから、うちに来れば? 今度ママに聞いてあげるわよ」
アドルが盛んに尻尾を振って、何か口を開きかけた。
「あーー! そうだ!
アドル、ついでに散歩していこう! 帰ってから出るのは面倒だから」
「じゃあ、私も付き合おうかな?」
「美都季はスイミングの練習でしょ! 気にしないで帰って! 仲直りできて、良かった! また、今まで通りにしようね!」
一方的な私の態度に、美都季はムッとした顔になったが、先にパフェをおごってもらっている手前、強くは出られないようだった。スイミングの練習があるのも事実だし。
「……まあ、そうね。私の方こそ、パフェご馳走さま! 明日、またね」
渋々と去っていく美都季の後ろ姿を見送って、私はアドルを伴って、傍にある大きな公園へと向かった。
ようやく再開です。
しかし、パソコンの不具合により、スマホ入力なので、読みにくいかもしれません。
また、一年以上空いてしまったため、軽く人物紹介を…………
活動報告のほうに載せておきます。(笑)
良ければ参考にしてください。