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聖石物語  作者: 湯兎(ゆうさぎ)
第一章
3/44

ある日曜日に

 この物語はフィクションです。本文中に登場するいかなる名称も、現実の団体・人物に関係がないことを、ここで明記しておきます。


 地球の中の、とある島国。世界的に見ても有数の実力を持つ国、日本。そしてその首都、東京。

 コンクリートジャングルとも言われる街を、一人の少女があわてたように走っていた。

 休日の昼過ぎ、歩くにも慣れが必要な人込みを縫うように駆け抜ける。東京でも有名な進学校の制服がはためくが、不埒な輩がほっそり伸びた足に注目するころにはその姿は人の壁に阻まれている。全力疾走といってもいい速さだが、軽やかに走り抜けるその様子からは、全力疾走に付き物の必死さがうかがえなかった。


 誰にもぶつからず目的の場所までやってきた少女は立ち止まった。休日を満喫する人が行きかう広場。ぐるりと全体を見たころには、かすかに弾んだ呼吸も落ち着いている。少女はなにやら困った様子で形のいい眉を下げた。


 それにしても、美少女である。

 なおもうろうろと周囲を見回す瞳は黒曜石のごとき黒、高い位置で一つにまとめた髪は鴉の濡れ羽色という表現がぴたりとあてはまる。対照を為すがごとく白い肌色はもしやどこかで白人の血が混じっているのではとうかがわせ、絶妙な配置をされた顔のパーツを引き立てる。すんなりとした四肢、細くとも健康的な体つき。そしてさりげない所作ににじみ出る気品と優雅さは、少女の雰囲気を神々しくまで引き上げていた。


 反論も異論も許さぬ圧倒的な美貌――。


 広場に面したカフェのテラスに座っている、彼女と同じ学校の制服を着た少女は、こんな人間が実在するのだなあといつもの感慨を抱いた。十六という年齢でもこれなのだから、大人になったらいったいどれほどの美女になることやら。実に楽しみである。

 いつもはあまり見せない困った顔も麗しいのだが、早々に観賞を終わらせることにする。ナンパが出てきたら追い払うのに苦労するということは、この二月の付き合いで学習させられた。大きく手を振り、名前を呼ぶ。

恵那(えな)! こっちこっちー!」

 友人の声を聞きとった少女の顔がぱっと明るくなった。

清佳(さやか)!」

 一見したなら儚い、清楚な、美しい、そんな形容詞が似合うように見えるが、その瞳が他を捉えた瞬間、その印象はがらりと変わる。生き生きと輝く瞳は内心を正確に反映し、くるくる変わる表情と相まって「かわいい」としか見えなくなるのだ。

 神秘的とまで言える雰囲気が一瞬にして人間的に塗り替えられるのは、何度見ても飽きない。小走りで近寄ってくる少女――恵那に、清佳はこっそりそう思った。


「ごめん、やっぱり待たせた?」

 清佳の前に置かれたグラスの中身がほとんどないのを見て、恵那は再び眉を下げた。

「いーよいーよ、ちゃんと連絡くれたし。松永センセ、急に用事言いつけるんだもんねー」

「うん。もっと早く言ってくれれば、清佳にも手伝ってもらえたんだけど」

「おや本音。そんなに大変だった?」

「だって二十問だよ。しかも総合だよ。今までの単元、かぶらないように問題作らなきゃいけないんだよ! もー、松永先生は楽をしすぎ!」

「あっはっは、それは間違いない。お疲れ様」

 清佳は恵那の愚痴にひらひらと手を振った。こげ茶色の瞳は労いと親しみを浮かべ、首元で切りそろえられた黒交じりの茶髪がふわふわと動く。彼女は近寄ってきた店員に自分と恵那の分の飲み物を注文した。


 黒髪の少女は高麗恵那(こうらい・えな)。本人は書道で名前を書くのをなにより苦手としているが、まったく名前負けしていないのがすごいとかなり有名である。そして茶髪の少女は新条清佳(しんじょう・さやか)、恵那の一番親しい友人で、同級生だ。二人とも今年私立青海学園高等部一年生に進学し、学生生活を満喫しているところである。

 小・中・高とエスカレーターで上がってきた恵那と、高等部から外部入学で入ってきた清佳。出会ったのはこの春だが、二人はたちまちに仲良くなった。どれくらい仲がいいかというと、こうして週末ごと、あちこちに遊びに行くほどだ。


 しばらくとりとめもない話題――あのテレビ番組がどうだったとか、クラスでこんなことがあって大変だったとか――を交わしていた二人だったが、ふと、恵那が視線を上げた。清佳がそれを追う。

 その先にあったのは広場に浮かぶ立体映像だった。普段広告やニュースを配信しているそれに、今映っているのは「違法研究施設、摘発」という見出しのニュースだった。警察がどこかの施設に家宅捜索している様子が映し出されている。清佳は頬杖をついた。

「うーん、また違法研究施設かあ……どーせ情報元は彼らなんだろうなー」

「彼ら?」

 ちょうど女性のアナウンサーの声が「一般市民の通報で……」と言ったところだった。


「ええと、アイズ? だっけ? ほら、魔法使いたちの組織。大戦終わってから今まで、違法研究で検挙されたほとんどが彼らからの情報提供だっていうじゃん」

「まさか。それは言いすぎでしょう」

「かもしれないけど、今回のは絶対そうだと思う。違法研究をどこの一般市民が通報するってのよ」

 隠したいなら「内部告発」じゃなきゃ。清佳は偉そうに指摘した。


 報道から視線を外してそれは言えてる、と同意する恵那。けれど、と心の中で付け加えた。


(アイズが情報流したのは、せいぜい六割なんだけどな……)


 もちろんそんなことはおくびにも出さず、恵那と清佳は再び会話を弾ませ始めた。




 *  *  *




 宇宙の端、太陽系第三惑星。


 奇跡のような確率のもと、数多くの生命をはぐくむこの星は、人間からは地球、もう一つの種族からはアーバと呼ばれている。


 この宇宙が誕生してから推定138億年。地球が誕生してから46億年。今も世界中に多くの信者を持つとある宗教、その始祖が生まれた時から二千年と少し。







 そして人類史上最大の大戦と、その末期に記録される地球外生命体、「魔法族」との初接触から、七十年という月日が過ぎていた。



 本文を読んでくださった方、後書きから読んでいらっしゃる方、ようこそいらっしゃいました。歓迎いたします。


 誤字脱字の指摘、感想、レビュー、評価など。ぜひぜひお待ちしております。


2013/07/09 題名変更しました

2013/07/23 加筆修正。今はこれが限界です……

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