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異世界で過ごす休日

作者:

「今日はいいお天気ねぇ~」

「ですねぇ」


 今日は雲一つない青空。その空の下、色とりどりの花が咲き乱れる庭の一角で、おいしい紅茶を頂く。


 向かいに座っているのは、アリアさん。

 私の住む世界ではありえない、水色の髪を持った女性だ。

 高級そうな(実際そうだと思う)ドレスに身を包み、優雅にカップを傾けている。


 彼女の、というか私たちの周りにはメイド服を着た侍女の方々が控えている。

 そこに、青く光る半透明の蝶がふわり、と2羽やってきて赤いリボンで髪を結った侍女、ミーシャさんの肩にとまった。


 さすが異世界。もう見慣れてしまったものもあるが、この世界にはファンタジーな生き物がたくさんいる。

 そして、私が一番ここにこれてよかったと思ったのが魔法。例にもれず(?)この世界には魔法があるのだ。そしてそれは簡単なものなら一般人でも使えるらしい。

 今日もお願いして、お茶を頂く前に少し練習させてもらった。……ちゃんと出来たことはまだないが。

 まあ、魔法に関しては何かきっかけがあればすぐにできるようになると言われているので諦めてはいない。


 ちらっとミーシャさんを見やると、こちらもさすが侍女というべきなのか、蝶が肩にとまっているにも拘らずミーシャさんは微動だにしない。


 そして蝶はやってきたときと同じように、ふわり、と2羽同時にまた飛び立ってゆく。半透明の体が光を反射していてとてもきれいだ。


「……っ! ゲホッゲホッ」


 蝶に気を取られていると、いつの間にか控えていたミーシャさんがアリアさんの隣にいた。


「どうしたの?」

「いえ……、びっくりしただけです……」


 むせる私を心配そうに見るアリアさん。隣にいたはずのミーシャさんはもうアリアさんの後方に戻っている。

 いつも、いつの間にか居て、いつの間にか消えている侍女の方々。……隠密部隊と兼務でもされているんでしょうか。






 **********



 私がこの場所に始めて来たのは半年前になる。


 就職して、慣れない仕事にいっぱいいっぱいだった私。休日も金曜までの疲れでお昼過ぎまで眠り、起きてもぼーっとテレビを見るだけだった。

 半年経ってやっとコツが分かりだし、休日にゆっくり出来るようになり、久しぶりに部屋の模様替えをしようと思い立った。

 その途中、押し入れの中を整理していると、突然壁が剥がれたのだ。

 急なことに声も出せずに驚いていると、剥がれた壁の後ろにもう一枚壁があり、その扉があった。


 好奇心から扉を開け、中に入ると……この庭に繋がっていた。


 まあ、その時にひと悶着あったのだが、私はアリアさんと仲良くなり、それ以来、休日出勤がない限り毎週土曜日にこちらにお邪魔している。



 **********






 ――ドォォォン……


 突然、轟音と共に地面が揺れた。


「な、なに!?」


 慌てて辺りを見回す。するとこの庭を囲っている塀の一角から煙が立っているのが見えた。


「すぐ終わるから大丈夫よ~」

「あ~、またですか……」


 アリアさんの表情は変わらず、先ほどと同じように優雅にお茶を飲んでいる。

 アリアさんに目を向けた一瞬で私たちの周りを侍女の方々が取り囲む。手には短い杖の様な物を持っている。


 この国は少し前革命が起こり、新しい王が即位したばかりだそうだ。旧王家に付いていた者たちの反抗がまだ続いており、新王家側のアリアさんのお家もたびたび狙われるのだと言っていた。

 実際、前にも私がいるときに何度か遠くが騒がしかったことがあるし、一度、縄で縛られ、気絶している人を侍女の一人が引きずって運んでいるのを偶然見たことがある。


 そんなことを思い出していると、煙が上がった方からガチャガチャ、という音が聞こえてきた。


 ――ガチャンっ!


「観念しろっ! ここは既に囲まれている!」


 音を立ててやってきたのは金ぴかの鎧を着こんだ小太りの男性。男性の後ろには簡素な鎧を着た沢山の人がいる。

 アリアさんを見ると、見惚れる様な微笑みで男性を見ていた。


「……っ! かかれっ!」


 その微笑みに一瞬ひるんだように見えたが、すぐに後ろに向かって号令をかける。


 先ほどまできれいに咲いていた花々が踏みつけられ、人の波が迫る。


 ――プチン、という音が聞こえた気がした。


 次の瞬間、迫っていた人々のうち、先頭にいた一団が突然消えた。


「…………は?」


 突然の出来事に間の抜けた声を出してしまった。

 金ぴかの男性と運よく消えなかった人たちもその場に立ちつくし、目の前の光景に呆然としている。


「た……た、退却ーー!」


 隊長格であろう誰かが叫び、一斉に逃げていく人々。


「行ってまいります」

「よろしくね~」


 それを追うように侍女の方々が目の前から消えていく。


「おいしいお菓子があるのよ~」


 侍女の方々を見送ったアリアさんは何事もなかったかのようにお菓子を勧めてきた。


「わ、おいしそう! いただきます!」


 アリアさんの額に青筋が浮かんでいるのを見ないように、私はお菓子に飛びついた。




「ごちそうさまでしたっ!」

「ごめんなさいねぇ、途中であんなことが起こっちゃって」

「いえ、びっくりしましたが、アリアさんたちに何事もなくてよかったです!」


 あの後消えていった侍女の方々は気が付くとアリアさんの後ろに控えており、何事もなかったようにしていた。


「次に来る時までには元通りにしておくからね」

「は、はい、また来週来ますね!」


 一通り挨拶をし、来週の約束をして私は押し入れの扉とつながっている、庭の作業小屋へと向かう。


 1分もせずに着くその小屋。今まで何もなかったからと油断したのがいけなかったのか。


 ――トンッ


 首に何かが当たったと思ったら、私の意識は闇に落ちた。






 **********



「ん……」


 私が目を覚ますと、やっぱりというか、そこは牢のような場所でした。

 石畳の上にそのまま置かれていたのか、体中が痛い。何とか体を動かしたいが、手足が縛られていて出来ない。



 カツン、という音がして見上げてみると、そこには今日見たあの小太りの男性がいた。


「やっと目を覚ましたか。 随分と寝ていやがって」


(いや、私を眠らせた、というか気絶させたのはあなたの指示でしょうに……)


 やっぱり、としか言えない展開と言葉にため息が落ちる。


「随分と余裕だな。 ……まあいい。準備をして連れてこい」

「かしこまりました」


 返事が返ってきたのは男性の隣から。

 いかにも執事、という格好で、結構イケメン。

 ……というか、この人も居るの気づかなかった。この国のメイドや執事になるにはこんなスキルが必須なのだろうか。


(出来そうな人なのになんであの人についてるんだろう……)


 そんなことを思っていると、その執事さんが何かを呟いた。

 カチャ、と牢の入り口が開き、私を抱える。


(何を……!)


 声を出そうとしたが出ない。さっきのは声を出させないための魔法を使ったのだろうか。


 連れて行かれた先で私はお風呂に入らされ、丁寧に磨かれた。


(……うわー、やっぱり……。 という事はあのブタに……)


 嫌な予感(というかほぼ確信)しかしない。

 お風呂に入れられる時に縄はほどいてもらったのだが、体の自由が効かない。声の時と一緒に何か魔法をかけられたようだ。

 なすがままに私は磨き上げられ、着心地のいい、高級そうなネグリジェを着せられ、大きなベッドの上に寝かされた。


(スケスケだぁ……。 ど、どうしようか……。 アリアさんたちは気づいてると思うんだけど……)


 あれこれと考えているうちに、カチャリ、とドアが開き、あのブ……小太りの男性が入ってきた。

 その顔はニヤニヤとしたいやらしい笑みが浮かべられている。


(ま、まずい……アリアさんたちに助けてもらう以外に方法が思いつかない……)


「随分とアレに気に入られているようだな。 どこの馬の骨とも知れんのに……。 まあ、なかなかのようだし、私が味見して……」


(イヤーー!! ちょ、ホントにやるのーー!? 助けが来る気配ないしーー!!)


「アレには随分と恥をかかされたからな……お前で少しでも……」


 手首を握られ、ぐい、と引き寄せられた瞬間。


 ――プチン。


 パニックになっていた私の頭の中で、何かがキレた。


(いやだーー!!)


 ――ドォォォォン……






 **********



「怪我がなくてよかった……」


 私の手を握り、涙を浮かべているアリアさん。

 周りにいる侍女の方々にもうっすらと涙を浮かべている人がいる。




 あの時、私の極限の感情が今まで一度もできなかった魔法を爆発させたらしく、あのブタの屋敷は木端微塵、がれきの山になった。

 アリアさんたちはあの時既に屋敷を取り囲んでいたらしく、爆発が起こったすぐ後に駆けつけてくれた。


 私はと言うと、魔法が私を中心にして起こったため、傷一つない。

 ただ、魔法を使ったせいか、体がだるい。


 あの屋敷にいた人々にも死者は出なかったようで、皆縄に繋がれ連行されていった。

 今回の騒動で、今までなかなか尻尾がつかめなかった旧王家派の一人が捉えられそうだ、とアリアさんたちに言われた。





「もう少し休んでいけばいいのに……」

「いえ、明日からまた仕事がありますから……」

「そう……」


 潤んだ目で上目づかいに言われるとなんだか罪悪感が湧き上がる。

 騒動のせいでこちらで1日が過ぎてしまっているので、明日は月曜日。また仕事が始まる。

 家族は旅行に行っているので、この無断外泊(?)はいいが、仕事は休むわけにはいかない。


「来週、とびきりのご馳走を用意しておくからっ……!」

「楽しみにしてます」



 私の部屋とつながる小屋の前で、手を振りながらその扉をくぐった。






 ――パタン。


(あー、疲れた……)


 部屋に戻った私はそのままベッドに倒れこみ、眠りについた。


 翌月曜日。寝坊して遅刻し、上司にネチネチと怒られたのはここでは関係のない話。

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― 新着の感想 ―
[良い点] テンポがいいです。 [気になる点] 残酷描写はどこです? [一言] 小説あまり読まないもんで勉強になりました。
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