12星座別恋愛小説 ~おうし座~
これはあくまで私の主観で書いたおうし座像ですので
この小説を読んで気を悪くしたおうし座の方がおられましたらご容赦下さい。
♉4月20日~5月20日生まれ Taurus♉
*マイペース
*強欲
*安定感を求める
*頑固
*頑張り屋
「俺たち別れよう。」
牛窪りえは五年間付き合ってきた彼氏尚也に突然別れを切り出された。
寝耳に水といった感じですぐにはその言葉を飲み込めなかったが
尚也の次の台詞を聞いてようやく現状を理解できた。
「もうりえとはやっていけない。」
「なんで。」
「分からないのか。」
お茶の時間に食べていたせんべいの欠片をボロボロ落としているりえと
テーブルを挟んで正面にいる尚也とは
五年間ケンカしたことがほとんどなく仲睦まじく寄り添ってきた恋人で
いきなりそう言われてもりえには何の心当たりも無いので素直に頷いた。
「俺ら一緒に住み始めてもう何年になると思う?」
「えっとー、二年と一ヶ月かな。新生活始まるからちょうどいい時期だよねって。」
りえは指で数えながらその当時のことを思いだしているのか顔が綻んだ。
「だな、それで俺は思ったことが多々ある。」
「うん。」
「俺はりえのいい面を見て悪い面は見ないようにしてきたけど
さすがに限界を超えた。もう耐えられない。」
「えっ・・どういうこと、私なんかした?」
「なんかしたじゃないだろ、自分の胸に手を当ててみたらどうだ。」
次第にイラついてきている尚也の言う通りにしてみるがやはり何も思い浮かばない。
「ごめん尚也・・。やっぱり分からない、説明してくれる?」
「まぁいいさ、りえはいつもこうだもんな。」
いつもという部分を強調されて自分はいつもおっとりしていると言われるが
そんなに不快にした覚えはないのに何故こんなに責められているのか全く分からなかった。
「まず一つ目に―――」
「一つ目?いくつもあるの?」
「当たり前だ。まず一つ目にケチすぎる。」
「ケチ?まぁ給料だってそんなに良くないし節約くらいするでしょ。」
りえは栄養士、尚也は中小企業に就職して6年二人とも決して良い給料を貰っているわけではない。
したがって家事をこなすりえが率先して節約を行うのは当然のことだと考えていた。
「りえのは節約の域を超えている。トイレットペーパーは一回につき30㎝まで、
なかなか冷房暖房つけさせないし、スーパーのビニール袋とか
ファミレスの添えつけの砂糖やミルクとかごっそり持っていったり
あれはどうみてもやりすぎなんだよ。」
「もっといいふうに捉えてよ、倹約家ってことでしょ。」
「その割には自分のご褒美とかいってよくブランド物のポーチやらバッグやら
服やら買ってきているの俺が知らないとでも思ってんのか。」
「たまには息抜きが必要じゃない。」
「たまにじゃないだろ、あれは。」
「いいじゃない、あれは私のお金なんだしちゃんと考えて買っているんだから。
大体いつもご飯作って洗濯して掃除しているのは誰だと思っているのよ。」
さすがのりえも言われてばかりではなく自分が持っている
一番強力な切り札をここぞと言わんばかりに使う。
それを聞くとさらに眉間にしわを寄せ
尚也は日頃の鬱憤を晴らすかのようにりえの弱みに切り込んだ。
「ほかにもあるんだぞ、お前太ったよな。」
「それは・・・ほら私栄養士だし味見とか試食とか色々あるのよ。」
確かにりえのもとの体型もスレンダーというわけではなかったが
この職業に就いてますます体重増加に拍車をかけている。
事実、去年買ったピンクのシフォンスカートが今年は入らなくなっていた。
「それにしてもお前の健康管理だって問題だろう。
前からふっくらした体型で俺もそれが好きだから良かったんだけどこの頃は太り過ぎだろ。」
「気にしていることズバスバ言わないで。私だってなんとかしようと――」
「嘘だね、休日は家でゴロ寝で動かない。
外ではいい顔して真面目ないい人を装っているけど
家ではわがまま放題で俺がどれだけ苦労しているのか分かっているのか。」
「だって・・・家ではくつろぎたいじゃない
家は憩いの場所であるものでしょう。尚也はそうじゃないの・・・。」
言い争うこの雰囲気がりえの肩には重くのしかかっているような気がして
こういう状況を早く打破したいと思っていたら尚也の眉間からしわが
消え目元が少し和らいだ、口調もだいぶ穏やかになっていた。
「りえに悪気がないのは分かってる、お前も俺もケンカは苦手だしな。
だからなるべく穏便に解決したかったんだけどお前は気付かないし、
どうしようもなくなったんだ。」
ここまで言われると改めて自分の行動が彼を苦しめたと知って不甲斐なく思えてくる。
「私・・・・・ごめん・・・・・。」
「もう遅いよ、俺たち別れるんだ。」
「嫌だよ、私尚也と別れたくないよ。」
「俺はもうりえとやっていく自信がない。」
「私直すから・・・だから、ね?」
「もう決めたから。」
すると尚也は立ち上がり二人の寝室へ入るとすぐリビングへ戻ってきた、
手には旅行カバン一つを携えて。
「本気なの・・・ねぇもう一回考えよ、私たちあんなに仲良くやってたじゃない。」
りえは今まで心のよりどころにしてきた存在を失うかもしれないという大きな不安に抱いていた。
りえにとって安心という言葉は尚也を意味しているのだ。
だからりえはなんとかして彼を引き留めようとした。
「これからどうするつもりなの。この部屋のこととか荷物とか、
尚也自身のことだって。」
「とりあえずカプセルホテルに泊まって適当に部屋探す。
後の荷物は住所決まったら取りに行く。
お前も一人でここに暮らすには金のこととかキツいだろ。
来月分までは俺も出すからりえも早く新しい部屋探せよ。」
彼の決心は固いようでりえは揺るぎない決意を持つ尚也の姿に
ときめくような残念なような矛盾した気持ちになった。
「分かった・・・。尚也がここまで言うこと今までなかったもんね。
私はそれに従うよ。けど最後にこのお茶の時間はいて、お願い。」
「・・・ああ。」
口では納得したようなことを言ったが心中はなんとかして考えを改めなおして
もらおうとあえてそう言ったのであった。
「お茶冷めちゃったね、今新しいのと取り換えてくる。」
尚也が椅子に座りなおしたのを確認すると
すっかり冷たくなってしまった二人分の湯呑を下げた。
「ねぇ尚也。私たちが初めて会った時貴方が最初何て言ったか覚えてる?」
「何だっけ・・・。」
再び尚也の前に熱々の緑茶を差出し自分の前にも置く。
「牛窪さんってぽっちゃりしてて俺の好みだ。」
「俺そんな酷いこと言ったんだ・・。」
「そうだよ、私体型気にしてたのに。いきなりズバッと言うんだから。」
「でも好みって言っただろ、それに合コンの他の女子がギラギラ
目輝かしている中でりえだけがなんか違ったんだよな。」
「そうなんだ、私も尚也みたいな爽やかな人が目の前にいて
結構緊張してたんだけどなぁ。」
「多分りえ自身が持っている雰囲気とかオーラみたいなのが良かったのかも。
それは今も健在だ、だからこれからもきっと俺みたいにりえに
惹かれるやつがきっといるさ。」
「え?」
いきなりの優しい言葉に思いもかけなかったのでりえは聞き直したかった。
「りえは穏やかだし優しいし家事だって手を抜かなければプロ級だし、
俺はりえに逢えて良かったよ。」
「なら・・・」
ならどうして別れるなんて言うのだ、そう問いただしたかったが
尚也のいつもと同じ優しい微笑をたたえた顔を見ると言えない。
「俺がそうだったようにりえも俺と付き合ってきて何か得ただろ。」
尚也はいつでもりえに優しく接してきてくれた、言いたいことも
言わずに・・・。けど相手に気を遣わせてばかりではだめなのだ。
自分でも何とかしなくてはならない、そうしなければまたこのように
別れを言いだされるのだ。
りえの中に新しい感情が芽生えた。
「うん、遅くなったけど色々気づかせてもらったよ。」
「うん。じゃあ俺そろそろ行くよ。」
「玄関まで送ってく。」
廊下を進む尚也の後ろについて玄関へ出ると
目の前の公園に咲いていた桜の花びらが木々からほとんど無くなり
緑の葉が生い茂る中わずかに一つだけくっついている状態の花が
風に吹かれ空中へと舞い上がっていくところだった。
その姿はまるで今の自分のようだとりえは思った。
「じゃあな、元気で。」
「そっちもね。」
りえは自分のもとを去っていく尚也の後姿を見ることなく扉を閉めた。