揺れる青を君となぞって、
お願いだから、そこにいてほしい。
今にも、この世界から消えてしまいそうな声を出して、あなたは言った。
汚い部屋の、ヤニに蝕まれた茶色い襖に背を預け、腕をだらりと流して、私を見ていた。
彼の右でゆれる薄い青のカーテンは窓の奥に見える空よりも、ぬけるように青く。
そして、少しだけ開かれた窓から流れる風にはためき、部屋にこもる香の匂いをかき混ぜる。
コンビニのビニール袋には丸い透明のパックに入った簡易サラダと、牛乳。
そしてパック入りの四角いモンブラン。
白いテーブルの上にはトマトの食べかすに、塩のついたリンゴ、
たばこが積まれているガラス製の青い灰皿。
足元には脱ぎ捨てた衣類、賞味期限切れのパン、弦の張られていないギター、読まない雑誌、ハンガー、携帯電話の請求書、TSUTAYAの青い袋、
卵のパック、ダイレクトメール、ユーフォーキャッチャーのぬいぐるみ、御香の入ったピルケース。
とにかく、物であふれかえっている汚い部屋だ。
床に座ることができないほど、要らないものが部屋の80%を占めていたので、私たちはいつもベッドの青いシーツの上に座り、時を過ごしていた。
ずっと手を握り、指をからませながら。
お互いの存在がどこかに行ってしまわないようにと、声には出さずに指先で感じながら、手を握り合う。
時には、口付けあって、抱き合って、繋がって、青に落ちて、青に溶ける。
一日中、BjorkのCDをかけておくと、世界が震えているようで、
目の奥が少しだけカタカタと鳴り、心地よい風が吹いた。
耳の横をなぞるように、風と一緒に海に落ちていく。
空と陸をこすり合わせ、空気を澄ませる声。
優しい目をしたあなたと、優しい目をしているあなたと、青に隠れて、消えてみたい。
不思議なアジアの匂いのする香に体を包み込まれながら、あなたを見つめて、
手を握って、優しく微笑んでみる。
あなたの長い前髪の奥から見えるあったかい目が好きだから。
その輪郭も、口唇も。
細くて大きな手も、白い爪も、皮膚も、血管も、唾液も、髪も、せまい額も。
なにをするにも指先と掌を合わせていたときに、もう二度と離れることのないように、祈ろう。
あなたがそんなふうに言ったことがあった。
その言葉があまりにうれしくて、心の中の汚い私がパチパチといって、散っていくのが分かった。
それはまるで「浄化」と呼ぶのに相応しく、やさしい匂いがした。
そんなことを考えていたら、泣くつもりはなかったのに、なんでか泣けてきて、どうしようもなく泣けてきて、
じわり、と口の奥から上へ、涙のかたまりが流れ出てきた。
ベッドの上で壁に背をもたれかけさせ、私の横に座り、
私の右手の上に自分の左手を重ねるように、のせていたあなたは私が泣くのをぐっとこらえていることにに気づくと、
めったに笑わないのに、少しだけ微笑んで、手を握りなおし、優しく私を引き寄せるように、抱きしめた。
私の顔を自分の胸に押し付けて、頭を撫で、ぐっと力を入れなおして、抱き締めなおすんだ。
それから、手も。
「二度と離れないように、」
と言いながら、君は私を空気に溶かしていった。
こういった作品をずっと書いていきたいです。すごくさびしいときに、ひとりじゃないよって言ってくれる人がそばにいるような感じにしたいと思っています。