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消えてしまった彼

「俺、色々と分かったんだ。どうして君の前に現れる事が出来たのか。意図的に現れたり消えたりするにはどうしたら良いか。分かれば分かる程、俺はもうこの世の者ではないと自覚させられたよ」

 彼は淋しそうに笑った。私には返せる言葉がなかった。

「面接しているところを見させて貰ったよ。俺がいるの気付かなかっただろ?」

「ごめんね・・・・」

 やっとの思いで出せた言葉だった。

 生前の彼には沢山酷いことをしてきた。その度に彼を惑わせ、そして苦しめてきた。些細な事で悩み、自分を見失っては彼を困らせてしまう。そんな繰り返しをする自分が嫌いだった。彼を失った悲しみを乗り越えようと必死に過ごしてきた私は、強い人間になれたのだと勘違いしているのかも知れない。今でも彼に知られては困るような行動をとってしまっているのだから。

「君が本当に目指したいのなら構わない。俺に遠慮する必要なんてないんだよ。でも、本当に迷いがないと自信持って言えるのか?」

 私は黙って俯いていた。本気で芸能界を目指しているなんて胸を張って言える筈はなかった。

「今の君は単に流されているだけのように見える」

 痛いところをつかれてしまった。どんなに言葉を生み出そうとしても、全てが言い訳に聞こえてしまう。反論なんて出来る筈がなかった。

「正直言ってがっかりだよ。俺は今の君とは一緒にはいられない」

 そんな一言を残して、彼は存在を消してしまった。どんなに叫んでも彼は現れてはくれない。私はただ泣きじゃくるしかなかった。

 次の日、芸能事務所には断りの電話を入れた。随分と引き留められたが、彼との関係を修復する為にはそうするしかなかった。

 バイトに明け暮れる日々は続いていたが、これからの自分について考える時間が今までよりも増えていた。三年前の決意は忙しさを言い訳にしてあやふやなものへと変化させていた。成果を得られないまま時間だけが過ぎ、それが焦りとなって判断を鈍らせていた。ねじ曲がってしまった私を再び純粋な気持ちに戻せるのかという不安はあったが、何もしないよりは何かをして結果を残すべきだと考えるようになった。

 空はすっかり秋色に染められている。街路樹も真っ赤に染まり、アスファルトの上を粉々にされた枯れ葉が舞っている。涼しさを通り越して少し寒く感じられる公園のベンチに座り、暫く開くことのなかった詩集を再び読み始めた。彼が好きだった詩人の作品に触れる事で、存在を消してしまった彼を感じたかった。

 彼が存在を消してどのくらいの日々が過ぎたのだろう。あれから三年前の情熱を取り戻そうと必死に過ごしている自分があった。

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