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裏切り

 そんな中、私は面接を受けに会場へと向かっていた。芸能事務所からグラビアアイドルとして売り出したいという申し出を受けての事だ。海外ロケでDVDが出せるかも知れないという誘いの言葉に心が揺れた。それまであまり本気にしなかったが、何となく話だけでも聞いてみたくなった。履歴書は彼がいないところで準備していた。面接もバイトと偽った。

 一体何してるんだろう。そんな気持ちがなかったわけではない。その頃の私は、どんな形にせよ職業と呼べるものを持ちたかった。後先など考えてる余裕などなかったのだ。いつなれるか分からない教師をいつまでも目指すより、せっかく勧められている芸能の道を歩むのも悪くはない。面接もあまり深く考えての事ではなかった。

 目的地に着いた私は少し愕然としていた。想像とはかけ離れた雑居ビルで、今にも崩れてしまうのではないかと思える程に古びていた。エレベーターには下品な落書きが這い蹲るように書き記されている。事務所は最上階にあった。行き先のボタンの文字が少しはげている。エレベーターは大きく揺れながら最上階へと向かった。

 最上階に着いてドアが開くと、すぐ目の前に入り口があった。呼び出しブザーもインターホンもない。不安を押し切ってノックをする。数秒間応答がなかったが、足音が聞こえてくると同時に曇りガラス越しに人影が見えた。

 扉の向こう側では軽快な音楽が鳴り響いていた。壁には所狭しとグラビアアイドルたちの大きなポスターが貼られている。案内されたテーブルにはグラビア誌やDVDが無造作に積み上げられている。パーティションの向こう側からは女の子たちの笑い声が聞こえてくる。内容までは分からないが、誰かの悪口のようだ。聞いていて心地良い会話ではなさそうだ。

 暫くして二人の男たちが現れた。歳の離れた社長と部下という感じだ。二人ともスーツ姿だったが、どことなくチャラチャラしている。会社員というよりも水商売に近いスーツ姿だ。

 こうして小さな雑居ビルの片隅で夢のような話が展開された。有名な雑誌に沢山出られる事から始まり、DVDや写真集を皮切りにテレビ出演に至るまで、まるで何の弊害もないかのような口振りだ。話を聞いただけで芸能人になったかのような錯覚にさえ陥る。冷静に聞けば矛盾点が幾つも感じられただろう。しかしその時の私は彼らの話を夢中になって聞いていた。

 話は二時間程で終わった。契約書を差し出されたが、どこかで不安を感じていた。署名捺印は後日という事で話を終えた。

 再びエレベーターに乗ってビルを出ようとした。真っ暗な廊下から急に明るい日差しの中へと出たため、眩しさが視界を覆い尽くした。眩しさの余りに一瞬だけ歩みが止まった。

 人通りの少ない小道の隅に配置された電信柱に人影がある。・・・・彼だった。

どうしてこんなところにいるのだろう。まさか私に気付かれないように後をつけて来たのだろうか?

 彼が私に気付くとすぐに話し掛けてきた。表情は曇っている。私がしていることを面白く感じてないのだろう。彼の墓前で交わした約束を破ろうとしているのだから。

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