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同棲

「ねぇ、一つ気付いたんだけど」

「何だい?」

「花火が終わった後、一緒に食事をしたよね?」

「うん」

「その時、あなたも注文したよね?」

「確かにそうだった」

「もしかすると、私と一緒にいる時はみんなあなたのことが分かるんじゃない?」

 それはちょっとした発見だった。花火大会の時、あの人混みの中で彼は何人かの人とぶつかっていた。彼が一言謝ると、相手も軽く会釈していた。レストランでの食事の時も、ウエイトレスは彼にも注文を聞いていた。生きている人と全く変わらなかったのだ。

 私と別れた後に彼はメールをしていた。彼の携帯にも同じメールが残っている。彼は彼で私からの返信がなかったのを不安に思って、電話をしたのだという。しかし電話が繋がる事はなかった。

 私に連絡がつかない事で、彼もまた途方に暮れていた。それからの彼の記憶は曖昧だった。実家にはどうやって行ったのか覚えてないというのだ。それでも家族たちの会話から自分の墓参りがある事を知り、一緒について行こうと決めたのだった。そして気付けば墓前にいたというのだ。

 彼には十歳にも満たない妹がいた。墓前で彼は妹と視線が合った。妹は彼に微笑んだ。彼女には彼が見えるようだ。しかしそれは墓前にいる時だけで、帰る頃には彼女にも見えなくなってしまったようだ。

「ねぇ。今なら携帯も繋がるんじゃない?」そう思った私は早速彼の番号に電話を掛けた。コール音が聞こえてくると同時に着信音が鳴った。

 彼は私と一緒にいる時だけ生きている人と全く変わらずにいられるようだ。どうしてなのかは彼にも分からないらしく、この発見に彼も目を丸くしていた。それならこれから先はずっと一緒にいよう。私たちは、そう誓い合った。

 こうして、彼の生前に実現しなかった二人だけの同棲生活が始まった。バイトのある日を除いて、朝起きてから夜寝るまで私たちは一緒にいた。一緒にスーパーへ行って食材を選び、一緒に料理を作ったりもした。ささやかだったが幸せな日々だった。私の稼ぎだけで生活しなければならなかったので金銭的には苦しかったけど、こんな日がいつまでも続いて欲しいと願っていた。

 やがて季節は移り変わり、落ち着いた空気の中で街路樹が秋色に染まっていく。日を追う毎に私を纏う布の面積が増して、男たちの狂気の視線からも逃れられるようになった。

 彼との共同生活に慣れた私は、このまま三年間の空白が徐々に埋まっていくかに思えた。かつての私は文学の話についていけなかったが、今では彼も知らない事を話せるようになった。墓前で吸収したという私の言葉を、彼は実感として噛みしめられる喜びを感じていた。しかし、それと同時に私が抱えている葛藤を彼に悟られていた。彼は口には出さなかったが、揺らぎの中にいる私に少し不満を感じている様子だった。

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