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生きている彼

 彼はすぐに私の視線に気付いた。そして安心したかのように微笑んだ。三年前の花火大会で会えなかった筈の彼が、私の目に実像として写っている。

「ごめん。バイトが長引いちゃってすっかり遅くなったよ。随分と探したんだぞ。でも会えて良かった」彼が私に話し掛けた。

 その時の私は一体どんな表情だったのだろう。もう会うことが不可能な筈の彼が、三年前と変わらないまま私の前に現れたのだ。

「え?いや、あの・・・・」私は彼の言葉にどう答えたら良いのか分からなかった。

「変な奴だなぁ。さぁ一緒に観よう」

 彼が私の手を取って歩き始める。彼の温かい手の感触が、夢でも幻覚でもない事を自覚させていた。

 大勢の人の波に揉まれながら、私たちは夏の大空に舞う花火を眺めている。浴衣は着てないけれど、三年前に果たせなかった事が漸く現実になった。それでも、どうしても納得のいかない事があった。私と一緒に花火を眺めている彼は、本当にあの彼なのだろうか?

 それでも彼だと確信出来る部分が幾つもあった。何気ない仕草や声、そして言葉遣い。二人だけが共有する思い出話。三年前までの記憶が走馬灯のように蘇る。ここにいるのが彼じゃなかったら、一体誰だというのか?

「不思議だなぁ。君と会うのが随分と久しぶりのような気がする。それに、君が少し年上に見える」彼は私の耳元で話し掛けた。

 三年も経ってるのだから当然だ。私はもう二十二歳。でも彼は十九歳のままなのだから。彼は自分が死んでしまった事を自覚してないというのか?私はこの三年間、何度も彼の墓を訪ねていた。その度に近況を報告していたというのに、彼はそれを知らないのだろうか?また近い内に墓参りへ行こうと思っているというのに・・・・。

 花火が終わって人の波が過ぎ去った。静けさを取り戻した街は、どことなく寂しげだ。

 この後、彼とどう過ごすべきか迷っていた。三年前の約束では彼と朝まで過ごす筈だった。今の私にはバイトがある。三年を経てての予期せぬ再会は少し不便だ。彼との時間を共有する為には、心や気持ちの準備と整理が必要だからだ。

 彼は私の戸惑いを察したのか、今夜は帰ると言い出した。彼とはずっと一緒にいたかったが、確かにその方が良かった。

「また会えるよね?」急に不安になった私は、彼にそう尋ねた。

「嫌だなぁ。永遠の別れじゃないんだから」彼は笑った。

 私の不安はどこまで彼に伝わっているのだろう。彼とは永遠の別れをした筈だった。科学的に証明が不可能な筈の不意の再会を果たした今、彼とはこれからも一緒にいられるのかという不安があった。

「俺、君を幸せにしてあげられてるのかなぁ」彼は呟いた。

 何気ない一言だったのかも知れない。それでも三年の月日の思い出から来る重みが、私の目に涙を溢れさせた。

 そんな私に気付いたのか、彼はそっと私を抱き寄せる。彼の体温と鼓動が泣きじゃくる私の頬に伝わって来る。彼は生きているのだ。

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