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別れ

 このまま彼の部屋へ向かっても、きっと会えないだろう。そんな予感が私にはあった。自分の部屋へ戻って携帯を充電しながらもう一度電話をしてみよう。そう思い、私は部屋へと戻った。見知らぬ人々の喜びの表情を後目に孤独感を噛み締めながら・・・・。

 部屋に戻り真っ先に携帯を充電した。疲れた身体に鞭を撃つように、私は再び電話をしようとした。しかしその瞬間に着信音が静かな部屋で鳴り響いた。

 一体誰なの?これから大事な電話をしようとしているのに。そう思いながら電話の主を確認しようと携帯のサブディスプレイを眺めた。そこには彼の名が表示されていた。

 心配してたのに、何で今さら?もう日付が変わろうとしているというのに。ずっと彼の事を考えていたのに。今日の約束は覚えていたのだろうか?

 そんな思いが交錯して、少し腹立たしくも感じながら通話ボタンを押した。

「もう!何してたの?ずっと待ってたんだよ!電話くらいくれたって良いでしょ?」

 彼の声を聞く間もなく、私は彼を攻め立てた。しかし電話の向こうからは聞き慣れない女性の声があった。私の名を、か弱い声で確認するように聞いてくる。余りにもか弱く深刻さが伝わってきたため、彼と深い関係の人物からの特別な知らせである事は容易に想像出来たのだった。

「落ち着いて聞いてね」電話の向こうの女性が念を押すように話し掛けた。

「こんなに遅い時にごめんなさいね。今まで電話出来ない状況だったから」

 電話の主は彼の母親だった。声が震え、時折鼻をすする音が聞こえてくる。

 ただ事ではないと感じた。特別な知らせを聞くのには、私にも覚悟が必要なのだと感じた。

 そんな悪い予測が的中しているのを実感するのに長い時間は必要なかった。彼の母親からの言葉を聞かされて、私は暫く言葉を失ってしまった。

 バイクで走行中に車と正面衝突をしたというのだ。夕方だった。

 この日はたまたま実家から彼の母親が訪ねて来ていた。夕方になって凄まじい形相で帰って来たのだという。バイトが長引いてしまったのだろうか?

 母親は、その日に私と会うことは知っていたようだ。約束事をきちんと守るタイプの彼は、待ち合わせの時刻に遅れてしまう事をどうしても避けたかったようだ。落ち着くように説得したものの、その甲斐もなく慌てて部屋を飛び出して、そのまま走り去ってしまったというのだ。

 きっと私に会うために急いで向かってくれたのだろう。遅れそうだから待っていて欲しいって一言言ってくれれば良かったのに・・・・。

 激しい衝突は頭部を強く打撲し、それが致命的となったのだという。病院での必死の治療も虚しく、花火大会が始まる頃に彼は息を引き取ったというのだった。

 彼とは沢山喧嘩をして沢山酷い目にも遭わせてしまった。あの日の花火大会は、二人の間に開いてしまった大きな穴を埋めるためのものでもあった。彼には沢山謝ることがあった。それなのに、もう面と向かって謝るべき彼がこの世にいないというのだ。

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