変化
今にして思えば、生まれてからずっと私はただ周りから流されているだけだった。三年前の花火大会で彼が命を落とさなければ、今の私にこんな生き方が与えられていなかったのかも知れない。気付けば私にとっての文学は彼を感じる為のものではなく私自身が愛すべきものになっていた。私にとって初めて真剣に取り組めるものになっていたのだ。
自分を見つめ直すにつれて、稼ぎ方も考えるようになった。イベントコンパニオンも悪くはなかったが、将来の自分に経験として残せるものをやるべきだと感じるようになった。通勤電車の中で携帯のバイト情報サイトを閲覧した。塾講師の募集があった。私に務まるのかという不安はあったけど、挑戦してみる価値はあると思った。
特に問題なく面接が通り、すぐに授業を受け持って欲しいという返事があった。秋から冬にかけての季節は受験生にとって追い込みの大事な期間になるから頑張って欲しいという塾長からの激励の言葉と共に、山ほどの参考書や問題集を渡された。高校を卒業してから接する事のない書物を開き、懐かしさを感じながらも学習に勤しむ自分があった。
生活の為にイベントコンパニオンとの掛け持ちで始めた事だった。これまでよりも忙しい筈なのに、毎日が楽しく感じられる。目的に向かってステップを確実に踏んでいるという実感が、様々な活力を見いだしていた。
彼は今頃何処で何をしているのだろう。私のこうした変化に気付いてくれているのだろうか?それとも、もう許してくれないのだろうか?単に甘えたいのではない。例え遠くからでも良い。頑張っている私を見ていて欲しいだけだった。
いつから始めたのだろう。部屋の片隅に立てかけた写真スタンドの中の彼に毎晩話し掛けるようになっていた。彼が現れてからは一時的にそんな習慣を忘れていたが、再び姿を消してから暫く経って気付けばまた話し掛けていた。もう会えないのかも知れないと諦め掛けていた。
塾の授業を翌日に控えていたその日も、私は写真スタンドの中の彼に話し掛けていた。
「頑張れよ」
背後から優しく暖かい声が聞こえる。幻聴だと思った。しかしそれにしては鮮明過ぎる。今の言葉は音として聞こえたのではないか。私は彼がそこにいるという確信の元、ゆっくりと声のする方へ振り向いた。
やはり彼だった。少しはにかみながら私を見つめていた。
「酷いよ。現れたり消えたりして。ずっと会いたかったんだよ」
「知ってるよ。ずっと近くにいたんだ」
またしても私は大粒の涙を流している。泣くのが癖になってしまったのも、きっと彼には分かっているのだろう。
「ごめん・・・・。だから俺もけじめをつけなければならないと思ったんだ」
「けじめ?」
彼は静かに頷いた。再び彼が現れたのだというのに、不安が私の体内を駆け巡った。
「これからも一緒にいられるんだよね?」たまらなくなって彼に尋ねた。しかし彼は首を縦に振らない。
「これから話す事をきちんと聞いて欲しい」彼は重い口を開いた。




