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胸騒ぎ

 こんな季節は大っ嫌い!

 せっかくキメたメイクも汗で台無しだし、UV仕様で肌を完全防備しないとすぐに黒くなってしまう。街に出ると、太股と胸に集中する男たちの視線が突き刺さるように痛い。かといって布を増やしたら携帯サウナ状態になっちゃうし・・・・。もうどうしたら良いの?

 派遣のバイトがキャンセルになって暇になった私は、この蒸し暑い一日をどう過ごそうか悩んでいた。最近稼いでないから、一日中エアコン付けてDVD三昧なんて訳にはいかなかった。帰省や旅行で友だちがみんな出払っていて、誰も私と行動を共にする者はいない。この日の私は、ただ目的もなく独りで街に出るしかなかった。

 部屋から歩いて五分のところにあるアーケード街は、いつもより活気にあふれていた。それもそのはずで、この日は夕方から花火大会が開催されるのだ。

 あれは今からちょうど三年前だった。私が今いるこの場所で大きな花火大会があると聞いて、私はその夜に彼と過ごそうとしていた。ちょうど新しい浴衣が手に入ったので、花火大会でこれを初めて着ようと決めていた。彼と過ごす初めての夏。いつもとは違う和風の私を見せてあげたかったのだ。

 待ち合わせの場所には三十分も早く着いた。デートにはいつも遅刻していた私は、それまで彼を待ち遠しく感じる事はなかった。どんなに遅刻しても決して怒らなかった彼。それでも本当はきっとイライラしてたんだろうなと肌で感じていた。

 ところが、予定の時刻を過ぎても彼は一向に来なかった。携帯を何度も鳴らしたのに出てくれない。人が大勢集まり過ぎて私を見つけられないのだろうか?それとも待ち合わせ場所を間違ったのだろうか?いや、そんな筈はない。待ち合わせの時刻と場所はメールで決めたから、間違えるなんてあり得ない。今だってメールは残ってるのだ。

 花火は既に始まっていた。周りはどこを見ても家族連れかカップルか団体だ。独りで眺めているのは、きっと私だけなのだろう。花火から発する大音響と携帯のコール音が妙にシンクロして、それが私の不安をかき立てていた。

 大勢の人々の中で私はたった独り。部屋で独りでいるよりも、大勢の中にいるからこそ本当の孤独を感じてしまうのだ。会える筈の彼が現れない事で、予想もしない孤独が私の胸を突き刺していた。

 気付けば花火は終わっていた。周りの多くの人たちが帰路へと急いでいる。私は呆然となって川のように流れていく人々を眺めるしかなかった。

 余りにもコールし過ぎた為、携帯の充電が切れてしまった。こんな人混みじゃ公衆電話も探せない。それに彼の電話番号は携帯のメモリーに記憶させているだけで、私自身がそれを記憶しているわけではなかった。家に帰って充電するまでは、彼と連絡を取る手段が完全に絶たれた状態のままだ。

 人の流れが落ち着いた頃、私は帰るべきか彼のところへ行くべきか悩んでいた。

 それにしても彼はどうしてしまったのだろう。デートで遅れるなんて、今までの彼にはあり得ない事だった。特別な何かが起きたのだろうか?寂しさが不安に変わり、胸騒ぎは鼓動に変わった。

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