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ゲッコ!~アイドルになりたい神様と巻き込まれる俺~  作者: 霜月風炉


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01 解釈違いな神様

 けたたましい蝉の鳴き声が耳を劈き、照り付ける陽射しも伴って苛立ちは募るもの。

 キーコーキーコーとペダルを踏み込む毎に、身体に熱が籠り、全身から汗が噴き出してくる。

 あまりにも暑過ぎる――そんなことを考えながら、自転車を漕ぐ正午過ぎ。

 火照る身体を冷ますため、普段は通らない道の先にある神社で少し休もう、と俺は思い立つ。

 大通りから逸れた道へと自転車を走らせる。

 そう言えば、中学生まではこの道を通学路として通っていたな――なんて思いつつ、少しだけ感傷に浸る。

 中学時代、よく遊んでいた友人の自宅の前を通り過ぎると、神社へ続く鳥居が見えてくる。

 参道と言うべきなのかはわからないが近隣住民の生活道路になっている道へ、鳥居を潜り抜けて入り込む。

 暫く進むと目的の神社の境内へと続く、苔の蒸した石段の前に到着した。

 脇に自転車を止め、施錠する。

 まあ、こんな田舎の大地で白昼堂々と自転車を盗むような輩はいないだろうが、念には念を入れるに越したことはないだろう。

 石段の前に佇む鳥居の額束には『撃鼓宮(げっこぐう)』と刻まれている。

 正式名称は『撃鼓神社(げきこじんじゃ)』。

 目の前にある石段を上った先に下宮があり、その更に上に続く石段を上ると上宮がある。ちなみに俺がよく足を運んでいたのは下宮の方だ。


「久々に来たけど、相変わらずの佇まいだ」


 黒ずんだ鳥居を潜り、石段を一歩一歩踏みしめながら上って行く。

 そんなに多くの段はない。直ぐに境内に足を踏み入れることになる。

 ブルーシートに覆われた土俵が目に入る。

 幼少のころ、この神社の春祭りだか、秋祭りだかで、子供相撲大会が開催されていたことを思い出す。

 勝ち抜くとメダルと図書カードが貰えたので、それなりに頑張った覚えがある。

 少しだけ口元を緩め、俺は手を組んで大きく背伸びをした。

 周囲は鎮守の森に囲まれている。

 下宮へ続く参道には石橋があり、その周囲には祠も点在していた。

 思えば何処か神秘的なものを感じたりするのは風景だけではなく、俺個人の思い入れがあるからだろうか。

 程よく吹き抜ける風が、火照った身体を冷ましていく。

 ――と、何処からか歌声が聞こえてくる。


「~~~~~~♪」


 アカペラの歌声。

 それは澄み渡った綺麗な歌声だった。

 素人目線で評価するなら、とにかく上手いと思う。

 しかし、俺は聞こえてくるその歌に関して心当たりがなかった。

 最近はテレビを見ないこともあって、俺の知らない流行の楽曲かも知れない。


「~~~~~~♪」


 いや、テレビを見ないにしても流行のものなら、ラジオや店内で流れているUSENやらで耳にするはずだ。

 俺は首を傾げる。

 声から察するに恐らく歌っているのは女性だ。


「……ちょっと覗いてみるのもアリか?」


 好奇心が上回った俺は、歌声の聞こえる方へと足を進める。

 どうやら上宮の方から聞こえてくるようだ。

 下から上宮へ続く石段を見上げる。


「ここまで聞こえてくるって、結構な声で歌っているのか?」


 下宮までボチボチの距離がある。

 少なくとも普通に歌ったりした程度では聞こえない距離は間違いなくある。

 まあ、考えても仕方がない。

 俺は石段を一歩一歩踏みしめながら、上へ上へと向かう。

 少しづつ、その歌声が大きくなっていく。

 同時に、その歌が妙に古めかしい言葉で歌われていることに気づいた。

 石段を登り切った先に開けた境内。そして、鎮座している祠の前で歌っている着物を身に纏う少女の姿が在った。

 それはあまりにも時代錯誤の装いに、言葉を失った。

 腰まで伸びた濡羽色の髪と透き通るような柔肌――彼女から漂う雰囲気は神秘的であり、その容姿に思わず見惚れてしまう。

 境内に反響する歌声すら耳に入らないほどだった。


「あ~、スッキリしましたわ!」


 いつの間に歌い終えたのか、清々しい表情を浮かべながら少女は高らかに声を上げる。


「少し前の春祭りに奉納された神楽も良いものだけど、人を集めるならやっぱり時代はアイドル! ふっふーん、今は聞いてくれる人はいないけど、こちとら芸能の神様なんだからデビューできれば一世を風靡して、信仰が集まるのは間違いないのだわ!」


 歌っていた際の古めかしい言葉はなんだったのか。

 口を開けば、何処かドジっぽい雰囲気を覚えるお嬢様言葉。

 その装いと言葉遣いのギャップに、俺の口から反射的に言葉が飛び出す。


「解釈違いだ!」


 着物に身を包む美少女の言葉遣いは、御淑やかなものでなければならない。

 今、俺の目の前にいる彼女の言葉遣いでは、西洋の高飛車お嬢様である。


「はえ?」


 そんな俺の声が聞こえたのか、間の抜けた声の後にバッと少女がこちらへと顔を向けた。


「…………」

「…………」


 沈黙の中で、お互いの視線が宙でぶつかり合う。

 そして、少女が俺へと指を差し叫ぶ。


「の、覗きですわ~!」

「おい、ちょっと待て! それだと俺が変態みたいだろ!」

「へ、変態ですわ~!」

「お前、ワザとやってるだろ⁉」


 とある夏の真昼間。

 はじめて出会った少女とギャーギャー言い合い、騒ぐ。

 これが俺――雨宮紫音(あまみやしおん)と、神様系アイドルを目指す着物の少女――アメノウズメとの出会いであった。

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