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怒りの林檎  作者: 排他的生活領域
ドゥワローズ王国編
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全面衝突

「ハッハッ……!」


 ケイトはセスナを抱えながら長い廊下を走る。背後には炎の蛇。メイがいない今、ケイトにアドレラの魔法を弾く術はない。


「セスナの魔力も尽きかけてるし、いきなり万事休すだな……!」


 炎の蛇がケイトの前方に回って挟み撃ちしてくる。ケイトは炎の蛇の間隙を綺麗に縫いながら走り続ける。

 だが、その間にも炎は城を侵食していっており、それほどかからずにこの辺りを火の海にしてしまうだろう。


「セスナがもう一回氷魔法とやらを使ってくれればいいんだろうけど、そんな体力も残ってなさそうだし期待しない方がいいか」


 炎がケイトの四方から襲いかかる。ケイトはさすがに逃げ道を見つけることはできず、一か八かで炎に突っ込もうとする。


「――空貫」


 天井が崩れ、放たれた空気の弾が炎をかき消す。


「モコロ!」

「私が道を作る! ケイトは後ろからついてきて!」

「させると思うか?」


 モコロの拳とアドレラの蹴りがぶつかり合う。

 威力は互角で両者はともに弾かれる。が、アドレラは間髪入れずもう一方の脚で蹴りを放ち、モコロを大きく吹き飛ばす。


「お前らは皆殺しだよ。希望すら見えない、深い絶望の中で死ね」

「そんなことはさせない!」


 モコロがアドレラに突っ込んで拳を放つ。その姿は獣人に戻っており、モコロの本気度が窺える。


「ほう、獣人だったか。どおりで知らない技を使うわけだ」

「なんとでも言え!」


 モコロは膂力でアドレラを吹き飛ばす。


「今のうちに――」

「その程度か?」


 アドレラがモコロを殴り飛ばす。

 信じられない。まさか獣人状態のモコロに身体能力で上回るなんて。人間ではありえない出力をしている。ケイトが言えたことではないが。


「それがお前の加護の力か」

「そうだと言ったらお前はどうする。何もできないと嘆いて匙を投げるか?」

「挑発のつもりか? 乗ってやるよ!」


 ケイトの拳が空間を打つ。空間はひび割れ、その修復力が衝撃波を生む。


「やはり人智を超えた力、ここで確実に殺すべきだな」


 アドレラがケイトの背後から炎を這わせる。ケイトはそれを空貫の真似事でかき消す。


「力技だな!」

「勝てりゃ良いんだよ!」


 また空間にひびが入る。強い衝撃の連続に城は悲鳴を上げる。


「おいおい、王女を殺すつもりか?」

「……どこかにいるのか?」

「俺の加護は何も人を消すような力じゃない。王女はずっとここにいるのさ」


 アドレラは自分のことを指さす。


「……趣味の悪いやつだ」

「良い顔をするじゃないか。もっとよく見せてくれよ」


 拳が交わる。人智を超えたケイトの力だが、アドレラもそれに匹敵する力を持っていた。

 2人は互いに距離を取り、相手の行動を注視する。


「不可解だな」

「何?」

「お前の見せた力は身体能力の強化と自身と他人(メイ)の姿を消すもの。これらはどっちも同じ加護による力だと考えられるけど、明らかに別物みたいな力を持ってる」


 ケイトの言葉をアドレラは黙って聞く。その余裕そうな表情はケイトには分からないと言っているのか。それとも、分かったところで意味がないということを示しているのか。


「なんだ? 教えて欲しいのか?」

「教えてくれるなら教えて欲しいところではある」

「はっ、良いな。実に合理的だ」


 アドレラの姿が目の前から消える。ケイトは全神経を研ぎ澄ませてその行方を追う。


「……そこか!」

「ほう」


 右斜め後方に腕を薙ぐ。すると、今まで見えていなかったアドレラの姿が現れる。


「音は出していなかったはずだが」

「なんとなくそこに居そうな気配がした」

「つくづく化け物だな」

「お前に言われたかねぇよ」


 パァン。

 空間が弾け、ふたつの拳が衝突する。

 世界に亀裂が奔り、その反動で城はミシミシと音を立てる。


 アドレラは俺から離れながら炎の蛇を這わせる。

 ケイトはそれをかき消しながらアドレラを追う。


火炎柱(ゼヒュオ・セド)


 所々で炎の柱が上がる。ケイトはそれらを躱し続け、アドレラへと迫る。


火炎壁(ゼヒュオ・イリア)


 炎の壁が立ち塞がる。ケイトは壁に風穴を開けようと思い切り拳を引く。


「ゼヒュオ・ギレオ」


 そこに炎の雨が降る。触れたそばから全てを燃やし尽くす業火が空を埋める。


「はああああっ!」


 ケイトは空に向けてパンチを乱打し、降り注ぐ死の炎を弾いていく。


火炎鞭(ゼヒュオ・べノ)

「……っ!」


 そこへさらに炎の蛇が迫り来る。際限なく這い寄る死の熱がケイトを完全に包囲する。


「間に合わ――」

「だらァッ!」


 ラスロットが剣で炎を斬る。


「剣で……!?」

「この剣は特別製なんだよ! それより行くぞ!」


 ラスロットが走り出す。ケイトもそれについて走る。

 途中襲いかかってくる炎の勢力をかき消し、切り、弾きながらアドレラへと迫っていく。


「全く、最悪だな。ここまで魔法が通用しないとは」


 アドレラは炎を出すのを止める。


「諦めたか!」

「そんなはずがないだろう」


 アドレラがラスロットの首を蹴る。


「なっ――」

「お前もだよ」


 続いてケイトの顔面を殴る。2人は為す術なく壁やら床に叩きつけられる。


「ガハッ……! 見えなかった……だと……?」

「能力を過信しすぎたな。お前の恩寵は身体能力を飛躍的に上昇させるようだが、俺の加護の前に身体能力は関係ない」


 アドレラは不遜に立つ。この世全てが些事であると言わんばかりの態度を見せている。


「俺の加護は『圧縮』。時間も空間も圧縮して意のままに操る、神をも降す力だ」


 アドレラの眼光が世界を穿つ。

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