陸の王
ラスロットに連れられて、ケイトたちはイールフッドを出て西にずっと進んだところ、海岸の近くにある洞窟までやってきた。
「それで? 言われるがままついて来ちまったけど、何のためにこんな洞窟まで来たんだ?」
「あぁ? 洞窟に来てすることっつったら鉱石採掘しかねぇだろ」
「鉱石採掘?」
ラスロットが組み立て式の大きなカゴとピッケルを装備する。
「ここは武器の素材になる鉱石がたくさん採れるんだ。それもかなり質が良いヤツがな。ただ、面倒なことに超凶暴なモンスターがそこらじゅうにうじゃうじゃいやがる」
「つまり、ラスロットが鉱石を採掘してる間、寄ってくるモンスターたちを私たちが対峙していけばいいってこと?」
「そうだ、それがひとつ」
「ひとつ?」
「もうひとつは、お前の剣の使い方の矯正だ」
ラスロットがケイトにピシッと指をさす。
「さっき渡した剣は折れたヤツの型落ちもいいとこだ。その剣を折らずにオレを守り切れ」
「もし折れたら?」
「海に沈める」
「こわっ」
「じゃ行くぞ。結構入り組んでるから離れるなよ」
ラスロットが洞窟に足を踏み入れる。何度も来て慣れているような足どりだ。三人もラスロットを見失わないよう、その背を追って洞窟へと入っていく。
〜〜~〜〜~
洞窟の中は一言で言えばとても暗い。明かりはラスロットの持つランタンのようなものからの光しか存在しておらず、10メートルも視認できない状態だ。にも拘らず、ラスロットはもう道を覚えてしまっているのか、迷う素振りを一切見せずに奥へ奥へと足を運んでいく。
「凶暴なモンスターがうじゃうじゃいるとか言ってた割には全然出くわさねぇな」
「まだかなり手前なんだよ。もっと奥まで行けばお望みどおりモンスターでごった返してる様子が見られるぜ」
「別に望んでるわけじゃねぇよ」
軽口を言い合いながら歩くこと数分、四人は広い空洞にたどり着く。
「そろそろ出始めるぜ。気ィ引き締めろよ」
ラスロットの忠告と同時、前方の暗闇から小柄な人型の何かが現れる。
「こいつは――」
「ピオ」
理解する間もなく水弾が影を貫く。
「早っ!」
「何かするのを待つ必要もないでしょ。それに、ハースが一体とは考えにくいし」
セスナの考察通り、前方からハースと呼ばれたモンスターがわらわらと集まってくる。
「ピオ・ナルラ」
セスナは波濤の如く押し寄せるハースの群れに怖じることなく一歩前に出て大量の水弾を乱射し、ハースを次々と討ち取っていく。
「もうこれ、俺たちいらないんじゃ……」
「何言ってんの。こんなの適当に魔法打ってるだけだから、ちょっと強いモンスターだったら簡単に――」
その時、セスナの完全な死角から一匹のハースが鋭い凶器を突き立てようとしているのを見た。
油断した……!
体は完全に弛緩し切っている。今から全力で駆動したところでハースの一刀を防ぐことはできない。
「セス――」
「ダメだよー」
ケイトがセスナに危険を呼びかけるよりも早く、モコロはハースを蹴り飛ばす。
「いくらセスナが強いからって任せっきりにすると思わぬ事故が起きたりするからね」
さっきの「ダメだよ」はケイトに向けられたものだったらしい。ケイトが反省していると、掃討が終わったのかセスナは水弾の発射を止める。
「さっきのがロウだろうね」
「ロウ?」
「そんなことも知らねぇのか? テメェ、ホントに冒険者やってたのか?」
「ケイトは常識に極端に疎いところがあるからね。ロウっていうのは親玉のこと。他のやつらよりちょっと強い個体なの」
セスナの丁寧な説明に頷く。
「しかし、見立て通りあんたら相当強いな。ひょっとして伯位か?」
「りおぞ?」
「そっか、この辺りは神樹の管轄だっけ。私たち新世界出身なの」
「そうなのか。じゃあCランクってところか?」
「ご名答」
ケイトにとって半分ほどよく分からない会話だったが、ケイトたちの強さは伝わったようだ。
「それならまあ大丈夫だろうが、気は緩めないでいてくれ。なにしろ、オレもこの先には行ったことがないんでな」
「はぁ? それ大丈夫なのかよ」
「あんまビビんなよ! ダンジョンでもあるまいし、いきなりアーズァ級のバケモンが出てくることなんざそうそう無ェよ!」
そのアーズァがよく分からないのだが、そんなことを聞いている暇などなく、ラスロットはずんずんと歩いていってしまう。
「チンタラすんな! 日が暮れちまうぞ!」
「分かったよ。でも、この先は行ったことないんだろ? 道分かんのか?」
「計測器ぐらい持ってるに決まってんだろ。それに、壁があってもぶっ壊して進むだけだ」
「それはそれで大丈夫か? 崩落したりとかしねぇよな?」
「心配性だな。それでも男か?」
「心配して当然の状況だろ!!」
ケイトの大声で洞窟全体が揺れる。
「――そんなはずがねぇ」
揺れは収まらない。それどころか、時間が経つにつれて確実に大きくなっている。
「……近づいてきてる。何かでかい物が……」
揺れはさらに大きくなり、立っていることすら難しい。地面に倒れるラスロットとセスナを庇うようにケイトとモコロは周囲を注意深く観察する。
「下だ!」
ラスロットの叫びと同時、足元にヒビが入る。瞬時に状況を理解したケイトとモコロは、ラスロットとセスナをそれぞれ抱えてその場を離れる。
地面が捲れ上がっていく。半径数メートルというレベルではない。半径数十メートルの地面が捲り上がり、その下から巨体の怪物が姿を現す。
「なっ……!?」
それはあまりにも大きかった。ランタンから放たれる光はそのモンスターの顔を照らすことはできず、ただ巨大な体躯を暗闇に投影している。
「シエレゴだと……!? アーズァ級のモンスターがなんでこんな所に……!!」
ラスロットが目を丸くする。シエレゴという名前に聞き覚えがあるような気がしたが、今ケイトの頭にあるのはさっきのラスロットの発言がフラグであったということくらいだ。
「逃げるぞ! 全力で引き返せ!」
「え? でも、鉱石採掘は?」
「そんなこと考えてる場合じゃねぇだろボケ!! あいつは陸の王とも呼ばれる世界最大のモンスターだ! あいつに対抗できるのは崇位、お前らのところでいうAランク以上の実力者くらいなんだよ!!」
ラスロットが必死の形相でケイトを説得しようとする。しかし、その訴えを聞いたケイトはあろうことか破顔した。そこへ容赦なくシエレゴの10メートルはあろうかという巨腕が振り下ろされる。
「何してんだテメェ、早く逃げろ!! 恐怖で頭もイカれちまった――」
「ああ、ごめんごめん。あんまりにもやべぇやつらと戦いすぎて感覚がバグってたみたいだ」
轟速の水弾に巨腕が弾かれる。見ると、セスナとモコロも臨戦態勢に入っていた。
「Aランクモンスターか。三人なら丁度いい相手かもな」
シエレゴの咆哮が洞窟を揺らす。




