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怒りの林檎  作者: 排他的生活領域
ドゥワローズ王国編
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歪んだ森

 町を出て数十分、ケイトたちはエイル森林の手前までやってきた。エイル森林はかなりの広範囲を占める森らしく、ドゥワローズ王国の国土の10パーセントにも及ぶそうだ。

 そんな森を前にしたケイトの第一印象は、『不可解』であった。


「なんだ、この感覚……妙に空気が薄いような気がする……それに、心なしか体が重いような……」

「あら? こういう場所は初めてですか? セスナと一緒だからてっきり経験済みだと思っていたのだけれど」

「いや、このレベルは私でも初めて。こんなにわかりやすく異質な場所は世界にもそうないよ」


 ケイトは一筋の汗を流す。なぜ流れたのかは分からない。潜在的な恐怖心からか、はたまた本能が危険性を訴えているのか。どちらにせよ、この森が異常であることは間違いないだろう。


「なるほど。やっぱり普段は禁足域なだけありますね」

「禁足域!? そんなところに勝手に入ろうとしてたの!?」

「はい! 背に腹はかえられませんので!」


 この異常なまでの圧迫感を前にしても普段通りにいられるとは、一体どんな精神構造をしているのだろうか。


「でも、さすがに禁足域に勝手に入るのは……」

「バレなきゃ問題ないわ!」

「バレたとき大問題になるって言ってんの!」

「大丈夫だいじょうぶ! ササッとお花畑を見つければいいんだから!」

「そんなにうまくいくとは限らないでしょ! それに、この森凄い広いんでしょ?」

「そこは任せて! 私の魔法を使うわ!」

「魔法?」

「タカ・パド」


 メイの発声と同時、地面が輝き始めたかと思うと、四足歩行の光る謎の生物が現れる。


「この子たちは光の使徒。ものすごいスピードで走ってくれるから探索も楽ちんよ。それに、私と魔力で繋がってるからお互いの居場所がわかるの」


 光の使徒が各々の前で地面に伏せる。おそらく乗れということなのだろう。ケイトがゆっくりと背中に跨ってみると、ほんのり温みを感じた。


「ここからは手分けして探しましょう。エイル森林がどれだけ広いとはいっても、光の使徒に乗って四人で手分けすれば……2時間くらいで見つかるはずよ!」

「手分けして探すのはいいけど、タイムリミットも決めておかなきゃ。あんまり遅くなるのも、ほら……デュースさんたちにも悪いでしょ」

「それもそうね。それじゃあ、3時間経っても見つからなかったら諦めることにしましょう」

「結構粘るね……」

「うん!」


 苦笑いのセスナにメイは満面の笑みで返す。


「それじゃあまた後で。一緒に花束を作りましょ」


 メイはそう言って、善は急げとばかりに森の中へ消えて行ってしまった。


「私たちもいこう。なるべく早くあの子を帰さないとどうなるか分かったもんじゃないし」

「確かに、よく考えたら一国のお姫様が失踪したなんて大事件どころの話じゃないしな」

「そう。もう既に結構時間も経ってるし、さらに3時間見つからないってなったら……考えたくもない」


 セスナは口の端を歪ませながら光の使徒を森の入口の手前まで歩かせる。


「目標は1時間以内! もしそれ以上かかったら1秒ごとに焦っていくように!」

「りょーかいっ!」

「それじゃあ、健闘を祈る!」


 3人はバラバラに走り出す。


〜〜~〜〜~


 探索を始めてからおよそ1時間、いまだ花の一本も見ていない。


「しかし気持ちわりぃ森だ。花すら咲いてないのはいいにしても、木が一本もまっすぐに生えてねぇ。何かを避けるように育ったわけじゃなくて、そう育つべくして育ったみたいな……」


 そんな森の中を光の使徒はとんでもないスピードで走っているが、障害物に一切当たる気配もなく、曲がりくねった木々の合間をスルスルと走り抜けていく。


「……何かいるな」


 超高速で駆ける光の使徒に追いついてくる殺意を感じ取る。暗くて姿までは見えないが、そこには確かにケイトを殺さんとする何かがいる。


「光の使徒のスピードも落ちてきてる。多分、メイさんから離れてるのが原因だろうな。とすると、このままだといつかあいつに追いつかれることは自明の理……だったら!」


 ケイトは光の使徒を停止させ、その背中から降りる。そして剣の柄を握ると、目を閉じて耳を澄ます。


「……そこか」


 ケイトはタイミングを合わせて剣を振り下ろす。剣は殺意を一刀両断にする――はずだった。


「空中で旋回した……!」


 高速で迫っていた殺意は、あろうことかケイトの剣を察知し、斬られる直前で身を翻して剣閃を避けたのである。

 地に降り立った殺意は薄明かりに照らされ、その正体があらわになる。


「お前は……!」


 それはいつか見たケヌーというモンスターだった。しかし、その体躯はかつて見た時よりも遥かに大きく、口から飛び出した犬歯は人間を容易く刺し貫けそうな程に鋭い。相変わらず目は存在していないようだが、しっかりとケイトを認識していることは間違いない。


「上位種ってとこか? あんまり詳しいことはわかんねぇけど、後でセスナにでも聞いてみるか」


 ケヌーが地を蹴り、一瞬にして距離を詰めてくる。その勢いのまま貫かんという強い意志をもって突き出された牙を、ケイトは剣の腹で易々と受け止める。


「速いことには違いないが、残念ながらもっと速いやつを俺は知ってるんだ」


 ケイトはケヌーを押し返すと、クイクイッと手を動かして挑発する。


「やろうぜ。俺もこの剣の使い心地を試しとく必要があるんでな」


 刹那の後、炸裂音が鳴り響く。

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