情報収集
「そんなモン知らん」
「そこをなんとか」
「知らんモンをなんとかできるわけネェだろ!」
ケイトたちは花畑の情報収集のため、ラスロットが営んでいるらしい武器屋に来ていた。店はかなり古い木造であるが、細かいところまで清掃が行き届いており、あまり古さを感じさせない。
「まったく、顔を見せたかと思ったら花畑に案内しろだとかフザケたこと言いやがって。オレは鍛冶師だ! 観光ガイドじゃねぇんだよ!」
ラスロットはカウンターでふんぞり返って悪態をつく。しかし、台に乗ってようやくカウンターからギリギリ頭を出している構図であるため、怖さは全くと言っていいほどに無い。
「ほんとに知らないの?」
「何度も言ってんだろ。物心ついた時からこの町に住んでるが、花畑なんて見たことも聞いたこともねぇ」
「そっか……それじゃ」
「ちょっと待てぇい!」
店を出ようとするケイトたちをラスロットが大声で呼び止める。
「なに?」
「『なに?』じゃないわ! 時間があったら顔を出せとは言ったけど、本当に顔を出すだけなやつがあるか!」
「別に時間があるわけではない」
「だとしてもだろ! せっかくお礼をしてやろうと思ってるのに全部無視して出ていこうとするなよ!」
ラスロットが何かを持ってカウンターから出てくる。どうやら剣のようだ。
「はいよ」
「え、いいの?」
「急拵えだが、その安モンよりは使いやすいだろ。後で使った感想も聞かせてくれよ。お前好みにカスタマイズしてやる」
ケイトが剣の柄を持つと鞘が縦に割れ、中から白銀の剣身が現れる。
「これって……」
「スケイネルスタイル!」
「そうだ。剣の扱い方がスケイネルスタイルを多用してるヤツのそれだったからな」
「扱い方って、一回チラッと見ただけじゃ……」
「ソレ使ってるやつは分かりやすいんだよ」
ケイトは驚いたようにセスナへ顔を向けるが、セスナは否定するように首を横に振っている。
「ホラ、これでオレの話は終わりだ。暇じゃねぇんだろ? オレの頭を撫でてこようとしてるこの二人を連れてとっとと行け」
ラスロットはモコロとメイの包囲網を華麗に躱してカウンターへと戻る。
「ありがとう!」
「こっちのセリフだ」
四人はラスロットに手を振り、武器屋を後にする。
「こうなるとこの剣はいらないな……メイさん、よかったら護身用とかで持っておく?」
「お心遣い感謝します。ですが大丈夫です。こう見えてわたくし強いので」
メイは自信満々に語る。セスナも否定しようとしていないことから、このメイの発言は事実であることが窺える。そういうわけで、その剣はスペアとして持っておくことにした。
「さてと、良い物は手に入ったけど、肝心の花畑の情報は無かったな」
「昔からこの町に住んでても知らないって、そんなもの本当にあるの?」
「絶対にある! お兄様が嘘をつくはずないもの!」
ケイトは頭を悩ませる。あるか分からないものを探すのは精神的にもかなり辛いことだと知っているからだ。
「……でも、大切なものを否定されたくはないよな」
「何か言いましたか?」
「いや、頑張って花畑を見つけだそうって思っただけ」
「本当ですか!」
「ちょうど俺も大切な人に花を贈りたい気分だったんだ」
「それは奇遇ですね!」
セスナとモコロは黙り込む。
「そうと決まればもっと情報を集めよう! 一人くらい花畑の話を聞いたことがある人がいるだろ」
「えいえいおー!」
〜〜~〜〜~
「いねぇーーー!!」
数十分ほど町の人を中心に聞き込みをしていたケイトだったが、花畑に関する情報は何一つ得られていなかった。
「何十年もこの町に住んでて知らないとかそんなことあるか? 『なくなった』とかじゃなくて『知らない』だもんな。なんか不思議な力で隠されてたりすんのか?」
そう口にした時、何か些細な違和感のようなものが胸にわだかまるが、その正体を突き止めることは叶わなかった。
「ケイト!」
別行動をしていたセスナとメイが合流する。どうやらふたりも進展は無かったようだ。
「あとはモコロだけど……遅いな」
「何かあったのかしら……」
姿の見えないモコロを探しにいくか話していると、遠くから声が聞こえてきた。
「みんなお待たせー!」
「モコロ!」
「遅かったね。何か手がかりでも見つかったの?」
「手がかりっていうほどじゃないんだけど……これ見て!」
モコロはポーチから一冊の絵本を取り出す。表紙には『もりのおともだち』というタイトルが書かれている。
「子供向けの絵本?」
「そう! このお話の途中で秘密のお花畑っていうのが出てくるの!」
「秘密のお花畑?」
モコロがそのページを開いて見せる。そこには、一面の花畑の真ん中で真っ白い鳥が様々な動物に囲まれている様子が描かれている。
「主人公の男の子が森の中でたくさんの動物たちと出会うんだけど、その子たちが秘密のお花畑に案内してくれるの」
「それはいいけど、所詮おとぎ話だろ?」
「私も最初はそう思ったんだけど、どうやらこの町の言い伝えが元になってるみたいなの。今はもう、そういう言い伝えはなくなっちゃったみたいだけど」
「そう聞くと信憑性が増すな」
ケイトは再び絵本に目を落とす。真ん中に居座る白い鳥が何か異様な雰囲気を放っているようで無性に気になってくる。
「うーん……他に情報もないし、行ってみるしかないんじゃない?」
「そうよ! 行ってみましょう!」
「待って待って! 行くって言っても森としか書かれてないんだからどこにあるかなんて分かんないよ!」
「あるとしたらこの近くなんだから、近くの森を探せばいいんじゃないか?」
「わたくしの脳内マップによると、ここからだとエイル森林が一番近いですわ!」
脳内に国の地図が入っているとは、さすがお姫様と言うべきか。それとも単にメイが凄いだけか。
「よしっ! それじゃあ早速、秘密のお花畑を探しにエイル森林へ出ぱーつ!」




