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怒りの林檎  作者: 排他的生活領域
ドゥワローズ王国編
46/58

お騒がせお姫様

 メリス王国の王都ケルクを出立し、馬車に揺られること3日。ケイト一行はドゥワローズ王国の辺境にして世界的な観光地のイールフッドにたどり着いた。

 綺麗な海に囲まれ、珍しい海産物で埋め尽くされているこの町で、ケイトたち三人は――事情聴取を受けていた。


「……なんで?」

「ん?」

「いやなんで観光に来て最初にすることが事情聴取なんだよ!」

「しょうがないでしょ。さっきやっつけた盗賊の話をしておかないと、冒険者も辞めちゃったし、疑われるのはこっちだよ」

「いや、頭では理解できてるんだけど心が否定してるというか……」

「まあ、ちゃんとした証拠もあるみたいだし、すぐに開放されるとは思うけどね」


 セスナがそう言うと、待合室のドアが開く。どうやら確認が取れて開放されるようだ。


「よかったぁー。こんな所で何時間も拘束されてたら何のためにここまで来たのかわかんなくなるところだったよ」

「それじゃあ、この後はどうする? 一応ホテルの予約も取ってあるから今から向かっても――」


 その時、警報のようなものがけたたましく鳴る。建物内の人々は皆慌てたように動き出しており、何かかなりまずい状況になっていることが容易に分かる。


「これ、無視してもいいやつ?」

「どうだろ。冒険者でもないし、私たちにできることも限られてる気はするけど」


 一応その場で少し立ち止まってみたが、何か言われる気配も無かったために三人は建物を出る。

 外は今までの騒ぎが嘘であるかのように穏やかな風景が広がっている。


「ほんとに何だったんだ?」

「さあ? テンションの差が激しすぎて逆に不気味――」

「あれ? その声……」


 背後から知らない声がして振り向くと、フードを深く被った女性の姿があった。


「やっぱりセスナだ!」

「その声……もしかして――」

「うわあああ! ダメ! 静かに!」


 女性は甲高い声を響かせながらセスナの口を塞ぐ。


「いいこと思いついた! セスナ、ピオ・フリアやって!」

「もしかしてさっきの騒ぎの原因って――」

「いいから早く早く!」

「分かったから!」


 セスナが呪文を唱えると、目の前から女性の姿が消えてしまう。


「消えた!?」

「そう、姿だけ消す魔法。どう? これで満足?」

「うん! ありがとう!」

「それじゃ、私たちは予定が――」

「待って!」


 立ち去ろうとするセスナの服が虚空に引っ張られる。


「な、何? まだ何かあるの?」

「セスナって冒険者だよね? 依頼があるんだけど……」

「残念、冒険者はやめたの。だから依頼は受け――」

「じゃあ友だちとしてお願い! 行きたいところがあるの」


〜〜~〜〜~


 数分後、ケイトたちは人気のない路地裏にいた。長らく放置されているようで、ゴミや小動物の死骸などが散乱している。


「はぁーーー。こんな所にあんたを連れてきたってバレたらどうなるか……」

「もしかしてこれはペーパダッツ? 実物は初めて見たわ!」

「当の本人は死骸を見てなんか嬉々としてるし!」


 セスナは胸を抑えながら心の内を吐き出す。


「はぁ……とりあえず、あんた行きたい場所があるって言ってたけどどこ? ちゃちゃっと連れてってすぐに返すから」

「それが分からないんだよねー」

「はあ!? 分からないって何!?」

「この辺りのどこかにあるらしいんだけど、情報が全然なくて」

「そんなんでよく一人で行こうと思ったね?!」

「えへへ」

「褒めてないから!!」


 セスナはより一層痛くなった頭を抱える。しかし、やってしまったことは仕方ないと頭をなんとか切り替える。


「ところで、なんでそんな得体の知れない場所に行こうとしてるの?」

「お兄様が教えてくださったの! この近くにたくさんのお花が咲いてる素敵な場所があるって! それで、たまたま近くに寄ったから行ってみたいなぁって」

「それ言ったら連れてってくれたんじゃない?」

「無理よ! じいやは頭が固いからスケジュールに無い行動なんかさせてくれないわ!」

「そのせいでどれだけの人が迷惑を被ってるかも知らないくせに……」


 嫌味のひとつでも言ってやろうかと思ったが、きっと通じないだろうと感じ、セスナは全てを諦める。


「……分かった。要はその花畑を見つければいいんでしょ? ケイト! モコロ! とっとと見つけて観光に戻るよ!」

「いやまあ、それは別にいいんだけど、結局この人は誰なんだ? セスナの友だちって言ってたけど……」

「わたくしとしたことが! ご挨拶がまだなことを忘れていました!」


 女性がフードを取る。長い金髪が風に舞い、碧眼の非常に整った美しい顔が現れる。


 んなっ――


 その姿がほんの一瞬、思い出したくない女性(ひと)と重なる。鼓動が速くなり、額から脂汗が噴き出る。別人だと自分自身に言い聞かせても動悸が止まらない。


「大丈夫ですか?」

「え……あ、ああ! 大丈夫大丈夫! 続けて!」


 ケイトは平静を装う。いや、きっとバレてはいただろうが、空気を読んでくれたのだろう。


「それでは改めまして、わたくしはメイグリッド・ディセンシ・ドゥワローズ。気軽にメイと呼んでください」


 花のような笑顔が咲き誇る。

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