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怒りの林檎  作者: 排他的生活領域
新世界編
41/58

最終決戦

1ヶ月半以上も投稿が空いてしまってすみません。

第一章ももうじき終わりますので、それまではなるべく短いスパンで投稿したいとは思っていますが、きっとそうはならないでしょう。重ねてすみません。

 ケイトは走る。ベリロスの大群の直中で一心に剣を振るい、ベリロスを一人また一人と屠っていく。


「はあぁぁぁぁ!!」


 ケイトは気合いを剣に乗せ、次々に肉薄してくるベリロスを斬り飛ばし続ける。

 もう既に百は斬ったであろうが、ベリロスの数は一向に減る気配がない。


「だからなんだ!!」


 大声で臆病を吹き飛ばし、ただ目の前の敵を打ちのめすことだけを考える。

 百で足りないのなら千を斬ればいい。千で足りないのなら万を斬ればいい。そうやって戦い続けた先にこそ人類の未来はあるのだと信じている。


「阿呆らしい希望的観測だよぉい」


 ケイトの脇腹に魔力塊がヒットする。ケイトはほんの一瞬だけ体が硬直するが、それはベリロスにとってまたとない絶好の機会であった。

 畳み掛けるように大量のベリロスがケイトにまとわりついていき、ケイトの身動きが封じられる。


「ボクは無限だぁい。何万何億と殺したところでいくらでも替えはきくぅい」


 ケイトはベリロスを振り払っていくが、間に合わないほどに続々とベリロスはケイトにまとわりつく。


「本来ならボクをコケにした代償に、ゆっくりと恐怖を味わわせながら殺してやるんだが、オマエはボクを怒らせすぎたぁい」


 ベリロスが闇の剣を手に持つ。その禍々しさに、世界をも闇に染めてしまうような錯覚を覚える。


「業腹だが死ねぇい」


 ベリロスが剣を振り下ろす。

 しかし、闇の剣が貫いたのはケイトではなく、ケイトにまとわりついていたベリロスたちだった。


「な――」

「ダラダラと話しすぎだよ」


 紫電が走る。半径十数メートルに及ぶ広範電撃は、数多のベリロスを虚空へと霧散させる。

 そして全てが消えたその中心で、ケイトを担いでエティナは静かに佇んでいた。


「はぁー……往生際の悪いことだよぉい」


 ベリロスがうんざりした顔を向けてくる。


「たかが数十体殺したところで何になるぅい? 永遠に戦い続けられるわけでもないだろぅい」

「永遠に戦う必要なんてない。今ここで全部倒してしまえばいいんだから」

「それが不可能だと言っているんだよぉい」


 ベリロスが指を鳴らし、また大量のベリロスを生み出す。


「キミたちを取り囲むベリロス(ボク)は今や千を超えているぅい。この全てを殺すためには都市一つを丸ごと消し去るほどの攻撃が必須だぁい。それに、もし仮にそんな手段があっても、キミたちはそんなものを選ばないだろぉい?」


 ベリロスは王都を一瞥して嗤う。


「どうかな。あなたを倒すためだったら都市一つの犠牲くらい厭わないかもよ」

(ダウト)だぁい。その男のさっきの一撃はあの街とは逆方向に向けて放っていたぁい。それはつまり、あの街を攻撃するつもりは無いということだろぉい?」


 ベリロスはケタケタと笑いながらケイトたちを見下す。


「……話は終わり?」

「なんだ――」


 黄檗の光が弧を描き、ベリロスの頭と胴体を断ち切る。あまりにも一瞬の出来事であり、目で追えたのはケイトだけであった。


「話を遮るのは可哀想だから待ってあげたけど、もう待たなくてもいいかな」

「……『待ってあげた』だとぉ……? 口を慎めよザコがァ!」


 ベリロスは顔を歪めてエティナの背後から迫る。飄々と立つエティナに対する果てしない怒りが、離れていてもビリビリと感じられる。


「殺されれば死ぬ程度の下等種がァ、死を超越したボクに発言する権利なんてないんだよォ! ましてやそれがボクへの同情だとォ? 巫山戯るのも大概にしろォ!!」


 ベリロスが地面を蹴る。地面は勢いよく爆ぜ、ベリロスは驚異的なスピードで猛進する。その両手には黒い魔力の塊が生成され、眼前の標的(エティナ)を粉砕せしめんとする決意が容易に見て取れる。


「させねぇよ!!」


 ケイトは二人の間に割って入り、ベリロスの腕を長剣で受け止める。


「何故抗おうとするゥ!! オマエの命はどうせ間もなく潰えるというのに、どうしてたった数秒を生きようとするんだァ!!」


 ベリロスの力が増す。その攻撃の重さにケイトは押し込まれそうになるが、それだけは決してならないと踏ん張って耐える。

 その様子にベリロスは今までにないほどに怒り狂う。


「オマエらは劣等種だァ!! 死に怯え、目の前のか細い生に縋り付く低俗な生物だァ!! それがボクの目に入りィ、あろうことかボクの歩みを妨げたァ!! 許されないィ……許されてはならない蛮行だァ!!」


 天を覆い隠すほどに密集したベリロスが、ケイトに向けて四方から飛びかかっていく。


「後悔しろォ!! これからオマエには死すらも温情だと思えるほどの生き地獄を味わわせてやるゥ!!」


 無限にも等しい物量による力技。これを押し返せる存在はきっとこの世界には存在しない。

 だがしかし、押し返さなくてもよいのならば話は別だ。


「ゼフォロ・シュア!!」


 エティナを中心に雷のバリアが形成される。そしてバリアにベリロスが触れると、ベリロスは瞬く間に灰と化していく。


「エティナさん!」

「長くはもたない! 今のうちになんとか打開策を――」

「ネイムワ」


 黒の弾丸がエティナの左脚を貫く。ケイトが上を向くと、さらに大量の黒い弾丸がエティナに向けて放たれていた。


「くっそがぁ!!」


 ケイトは無理やり体の方向を変え、倒れかけるエティナを抱えて跳躍する。


「大丈夫ですか?」

「う、うん、ありがとう」


 ケイトはバリアの中を走り回るが、無数の黒い弾丸はとどまるところを知らず、二人に常に降り注いでくる。


 くそっ! このままじゃジリ貧でやられる! 一か八か突っ込んで――


 その時、ケイトの前方にあったベリロスの壁が、一瞬の内にバリアへと押しやられて消滅した。

 その奥には、肩で息をしながらピンクの髪を揺らすモコロの姿があった。


「エティナさん!」

「わかった!」


 エティナは状況を察し、すぐさまにバリアを解除する。そうしてケイトはベリロスの壁に空いた穴を駆け抜けていくが、その状況を理解したベリロスたちが一斉にケイトへ向けて突撃してくる。


空貫(そらぬき)ッ……!!」


 モコロは最後の力を振り絞り、空をも震わせる打撃をベリロスにお見舞いする。

 その途轍もない威力にほとんどのベリロスが吹き飛んでいくが、完全に力を使い切ったモコロはその場に倒れ込んでしまう。


「モコロさん!」

「漸く止まったねぇい」


 振り返ったケイトの横にベリロスが立っている。ケイトは反射でベリロスに向かって剣を薙ぎ払うが、隙だらけの一撃はベリロスを掠ることもなく、逆に腹部にきついカウンターを食らう。


「ぐはぁっ……!!」


 ケイトは宙を舞い、数十メートル吹き飛んだ挙句地面に叩きつけられる。

 それでもケイトは立ち上がろうとしたが、黒い縄のような何かで地面に縛り付けられてしまう。


 体が……!


 ベリロスがつかつかと歩いてくる。ケイトは必死に縄を引きちぎろうとするが、ケイトの力ごと押さえつけているかのようなその黒い縄に手も足も出ない。


「ネイムワ」


 ケイトの右腕を黒い弾丸が貫く。瞬間、体中に耐えがたい激痛が走り、それこそが黒い弾丸の真の能力なのだとケイトは察する。


「痛いだろぉい? ネイムワ(これ)は心臓に受けても数分間は死なないんだぁい。まぁ、死なないだけなんだけどねぇい」


 ベリロスはケイトの心臓へ指を向ける。その表情は徐々に嬉々としたものへと変貌していく。


「終わりだァ!! 地獄の苦しみの中で後悔するんだなァ!!」


 ベリロスの指先に黒い弾丸が形成されていく。

 まさに絶体絶命の状況で、ケイトはベリロスに笑顔を向けた。


「死の瞬間まで笑うだとォ……? まだこのボクを愚弄するつもりかァ!!」

「違ぇよ。結局、何回言ってもてめぇの注意散漫さは治らなかったなって思ってな」

「な――」


 世界が割れた。

 攻撃というにはあまりに規格外で、魔法というにはあまりにも馬鹿げている。

 だがしかし、それは間違いなく1人の人間が放った、神の領域にも踏み込んだ魔法であった。


 間もなく世界は修復され、ケイトの目の前には右腕と腰から下が切り離されたベリロスが横たわっていた。

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