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怒りの林檎  作者: 排他的生活領域
新世界編
39/58

闇を敷く者

 地面が数度弾ける。

 大量の魔力弾が地面に当たって炸裂したことで、辺りの地形は砂山にブドウの房を押し付けたかのようにボコボコになっていた。


「……隠れたかぁい。格の違いなどと大言壮語(強い言葉)を口にした割には随分と姑息な(下らない)真似(こと)をするんだねェ!」


 幾百のベリロス(コピー)たちがバラバラに周囲に魔力弾を放つ。

 その様子を眺めながら、先の天変地異で出来上がった窪みの中でケイトたちは息を潜めていた。


「ありがとう、エティナさん。エティナさんが助けてくれなかったら結構ヤバかった」

「アムヌラの時は助けてくれたからね。これでおあいこ」


 ケイトとエティナが笑い合う。それを見たセスナは不機嫌そうにし、さらにそれを見たモコロはニヤニヤしている。


「そんなことよりもアレ、一体どうしたらいいんだろ? 倒しても倒しても湧き出てくるなんて、どうしようもなくない?」


 止まることのない爆発の余波を肌で感じながら、4人はベリロスへの対策を考える。


「どうやってあの大量のコピーを対処する? 魔法で一気に吹き飛ばせるかな?」

「いや、コピーを倒したところで無駄だと思う。だから直接本体を叩きたいけど、そんなことできる?」

「できなくはないと思う。あいつ、俺たちのこと舐めてるみたいだし、どこかに付け入る隙があるかも――」


 その時、窪みの天蓋が爆発する。

 状況を察したエティナは反射的に3人を抱えてその場を離れる。


「どこに行くんだよぉい」

「っ!?」


 しかし、高速で移動するエティナに追随し、ベリロスが至近距離で魔力弾を当てる。


「あぐっ!」


 エティナは吹き飛ばされ、地面に強く体を叩きつける。その際、抱えていた3人は放り出し、ベリロスの攻撃に巻き込まれないようにしていた。


「エティナさ――」

「他人の心配かぁい? 呆れるほど悠長(バカ)だねぇい」


 ケイトの真横から魔力弾が放たれる――と同時に目にも止まらぬ速さで2人の間に割って入ったエティナが手に持った雷でそれを相殺する。

 さらにエティナは追撃を試みるが、ベリロスは既にその場から消え、離れた場所で不敵に笑いながら立っている。


「はぁはぁ……速い……! 私が速度で負けるなんて……!」

「いえ、速いんじゃないです! あいつは瞬間移動の能力を持ってるんです!」


 焦る2人に、ベリロスは何も言わずただ笑っている。それはひたすらに不気味で、ただただ気持ちが悪い。


「ピオ・ナルラ!」


 超大量の水の弾が世界を埋め尽くし、ベリロスを討ち果たさんと放たれていく。


威力を棄てた大量展開(ナルラごとき)でボクが倒せるとでも思ってるのかぁい?」


 コピーが小さな魔力の塊を炸裂させ、空を埋め尽くす水の弾を難なく打ち払う。


空貫(そらぬき)!」


 ベリロスの注意が水弾に向かっているその隙に、モコロは空間を弾く一撃を放ち、多くのコピーを吹き飛ばす。


「なるほどぉい。水の弾幕で目くらましをして本命の一撃を叩き込むぅ……いいねぇい、人類(カス)らしくてさァッ!」


 ベリロスの冷笑とともに再びコピーが大地を埋め尽くす。

 セスナとモコロは善戦するも、際限なく湧き出てくるコピーによって着実に追い詰められていく。

 ケイトも助けに行こうとするが、圧倒的な物量を誇るコピーの大群によっていとも簡単に押し返されてしまう。


「っ……! ダメだ! 一回撤退して態勢を整えよう! なんとか防壁近くまで下がれれば――」

「味方がいる、かぁい? 残念だったねぇい。ここに来るまでにいた人間(ザコ)どもはみんな死んだよぉい」

「なっ……!?」


 ベリロスの発言に、4人は唖然として固まる。


「良い表情(カオ)だねぇい。そのまま剥ぎ取ってコレクションしたいくらいだよぉい」


 ベリロスたちが一斉に嘲笑を始める。その大合唱は天地を震わせ、ケイトたちを希望ごと圧し潰すかのように響き渡る。


 増援の見込みはない。勝つ算段も見えない。

 唯一の救いはベリロス自体がそこまで強くないことだろうか。だが、それも無限とも思えるコピーの生産の前には意味をなさないようなものである。


「――それでも!!」


 ケイトは剣を振るう。

 剣圧で数十体のベリロスを吹き飛ばすことには成功したが、やはりあまり効果は無い。


「往生際が悪いねぇい。それともあれかぁい? 格の違いを見せるなんて言った手前、後には引けなくなったのかぁい?」

「そういうお前もまだ誰にもトドメをさせてねぇみたいだけどな」

「なんだとぉい?」


 不機嫌そうな顔を見せるベリロスに、ケイトは不敵に笑い返す。


「お前も致命打がなくて困ってんじゃねぇのか? コピーを大量に作っても俺たちを誰一人殺せてねぇんだからなぁ!」


 ベリロスは一瞬何かを言おうとする素振りを見せたが、すぐに溜飲を下げ、落ち着いた表情でケイトを見下す。


「あまり勘違いするなよぉい。殺せないんじゃあない、殺してないんだぁい」


 ベリロスが指を鳴らす。すると、その頭上に都市ひとつ飲み込むほどの巨大な魔力の塊が現れる。


「キミたちにとってコレがどれほどの脅威かは興味がないけど、ボクにとってこの程度のことは造作もないことだぁい。街ひとつ()すのなんて、指2本で事足りるんだよぉい」


 ベリロスはニヤニヤと笑いながらケイトの反応を待つ。しかし、ケイトの反応はベリロスの期待していたものとは真逆のものであった。


「はぁ……まさかこんなにうまくいくなんてな」

「何だとぉい……?」


 ベリロスが怪訝な顔を浮かべる。ケイトはそれをまっすぐに見つめ、呆れたように言い放つ。


「さっきも言っただろ。お前は()()()()()()()()()()()()()()ってな」

「ッ!!」


 ベリロスが先程から姿の見えないエティナを探す。そしてその姿を視界に捉えた時、既にベリロスの結末は決していた。


「ゼフォロ・アカ」


 超高速の雷霆が瞬きする間もなくベリロスに突き刺さる。その威力にベリロスは大きく後ずさるが、雷霆を手で掴み、破却しようと試みる。


「ぐ、ぉぉぉおおおお!! こッ、この程度の魔法でボクがやられるわけがァァァ!!」

「ゼフォロ・アカは雷魔法(ゼフォロ)準速の矢。流石にあなたを倒すには火力が足りないけど、ここにいるのは私だけじゃないからね」

「んなァッ!?」


 ベリロスが顔を上げる。目の前には銀色に鈍く光る長剣が、ベリロスを一刀両断にする勢いで迫っていた。


「終わりだ! ベリロス!」

「クッ、クソがァァァァァ!!」


 まっすぐに振り下ろされた長剣はベリロスの体躯を真っ二つにする。

 次の瞬間、ベリロスの体は弾け、モヤとなって霧散していく。


「よし、これで――」

「一体何が良しなんだぁい?」


 ケイトの背後からベリロスが魔力弾を直撃させる。


「ガハッ……!」

「ケイト!!」


 吹き飛ぶケイトをエティナは空中でキャッチし、そのまま戦場を見下ろす。

 そこには、未だ大量のベリロス(コピー)が幅を利かせて立っていた。


「なんで……本体は倒したはずじゃ――」

「本体ぃい? もし原型(オリジナル)のことを指しているのなら、そんなもの、()()()()()()()()()()()よぉい」

「なん……だと……?」


 ベリロスの嘲笑が響く。それは愉快だとか痛快だとか、そういった気持ちからのものではなく、ただ単純にケイトの大きな誤りを指摘し、貶すためのものである。


「言っただろぉい? 『闇を敷く者(ベリロス)』はボク(ベリロス)と同じ膂力、魔力、思考力を持ったベリロス(ボク)を闇から無数に生み出すモノだぁい。それはつまり、ボクのコピーを使役するのではなく、ボクと全く同じ生命を無限に生み出すことができるってことなんだよぉい!!」


 ベリロス(コピー)の狙いが一斉にケイトたちを向く。


「終わりだ人類(カスども)ぉい。せめて美しく(滑稽に)散ってくれぇい」


 山がひとつ消し飛ぶ。

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