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怒りの林檎  作者: 排他的生活領域
新世界編
32/58

戦場オーケストラ

 冒険者たちは走っている。地響きを立て、雄叫びを上げ、闘志の炎を身に纏いながらひたすらに走る。

 前方からは大量のモンスターがこちらに進軍してきている。その数は、冒険者の数倍はいるであろう。


 そのような状況であるにも関わらず、冒険者たちは熱に狂いながらモンスターに立ち向かう。無限に湧き上がる熱気が冒険者たちを突き動かし続ける。


 そして、とうとう戦端が開かれる。


「「うおおおおおおおお!!」」

「「ギィアアアアアアア!!」」


 冒険者とモンスターの声が混じり合い、果たしてどちらが放っているものなのか判別できない。


 あるところではモンスターと冒険者の肉弾戦が始まる。モンスターが倒されれば別のモンスターが、冒険者が倒されれば別の冒険者が、それぞれ交互に入り乱れ、攻防が目まぐるしく入れ替わる。


 またあるところでは遠距離戦が始まる。冒険者の弓矢や魔法とモンスターの闇の力が拮抗し、激しい消耗戦が繰り広げられる。


 両者は互いに一歩も譲らない。戦は停滞し、その凄惨さを物語る種々の炸裂音が甘美に混ざり合い、オーケストラの演奏のように戦場に響き渡る。


 そんな中、ある二人が拍子を乱す。


「ピオ・ナルラ!」


 セスナが無数の水の弾丸を発射する。水の弾丸は太陽光をキラキラと乱反射させながら直進していく。

 行く手を阻んでいたモンスターたちは瞬く間に水の弾丸に吹き飛ばされていき、簡単に前線が崩壊する。


 しかし、すぐにその穴を埋めるように2メートルを超える巨大な人型のモンスターが現れ、その手に持つ金属の鈍器を振り下ろす。


「うらあっ!」


 セスナと入れ替わるようにケイトは前に出て、金属の塊に長剣を振り上げる。

 ガキィンと甲高い金属音が響き、ケイトとモンスターは互いに大きく後方へ弾かれる。


「ピオ・クレイア!」


 セスナはケイトと再び入れ替わり、巨大な水の玉を放つ。その質量にモンスターは為す術なく吹き飛ばされていく。


「行くよ!」

「おう!」


 二人はモンスターが(ひし)めく戦場を軽快に走って進んでいく。

 二人の進撃に続くように、冒険者たちは続々とモンスターの前線を破壊していき、決壊したダムのように奥へとなだれ込んでいく。


 冒険者が勢い盛んになっていく、ある意味で予定調和のような展開が進んでいき、戦いは熾烈を極めていく。


「それで、俺たちは何をすればいいんだ?」

「後ろは強い冒険者たちが守ってるから、私たちの目標は一刻も早くベリロスの首を取ること! ベリロスを討ち取ればこのモンスターの軍勢も瓦解するはず!」

「なるほど」


 二人はモンスターを斬り、吹き飛ばしながら、順調にモンスターの陣営の最奥を目指していく。


「この感じなら、すぐにベリロスの元までたどり着けそうだな」

「油断はしないで。魔王軍の中でも高い地位にいるとはいえ、ベリロス一体にあれだけの戦力を集めたとは考えにくい。何か他にも脅威があるはず――」


 その瞬間、ケイトは背筋が粟立つ感覚を覚える。

 今までのモンスターとは比にならない、何か強大な存在が二人に迫っているという謎の確信が脳を支配した。


「セスナ!」

「きゃっ!」


 ケイトは瞬時にセスナを抱きかかえて後方に飛ぶ。

 直後、上空から巨大な何かが大きな音を立て、砂塵を高く巻き上げながら二人のいた場所に落ちてくる。


 ケイトはセスナを下ろし、剣を構えてそれに注意を向ける。ゆっくりと砂煙が晴れていき、それの正体があらわになっていく。


 それは人型をしており、体は黒い粘土のようなもので構成されている。虚ろな二つの眼窩には赤い光を放つ人魂のような目が浮かび、二人を無感情に見下ろしている。


「ゼツレイ……いや、ロウゼツレイか……! やっぱり、Aランクのモンスターがいたんだ……!」


 セスナが驚愕していると、周囲にさらに大量のロウゼツレイが冒険者たちの行く手を阻むように落ちてくる。


「Aランクモンスターがこんなに――」

「来るぞ!」


 ロウゼツレイが粘土の腕をセスナに向けて高速で振り下ろす。


 ケイトはセスナとロウゼツレイの間に割って入り、剣でその腕を切り上げる。ロウゼツレイの腕は容易に切り飛ばされるが、すぐに再生して元通りになる。


「なるほどな。これは面倒だ」

「ケイト下がって!」


 セスナの声で、ケイトは両側から挟み込むように二体のロウゼツレイが攻撃してきていることに気づく。


「まずいっ……!」


 ケイトはすぐさま後ろに振り向いて走り出すが、ロウゼツレイは既に近くまで寄ってきている。


「ピオ・シヴィオ!」


 太い水の槍が空をかき鳴らし、ロウゼツレイの胴体を貫く。ロウゼツレイは少しだけ押し返され、その間にケイトはセスナの元まで下がる。


 胴体にぽっかりと穴が空いたロウゼツレイたちだったが、その傷すらもみるみると塞がっていき、数秒後には完全に治ってしまった。


「あんなデカい風穴開けてもダメなのか」

「ゼツレイは核から魔力の泥を生み出し続けるモンスターなの。だから、倒すには核を潰すか魔力を枯渇させるしかない」


 3体のロウゼツレイが同時に泥の腕を伸ばし、打ち付けてくる。


 二人はその場を離れて回避し、ロウゼツレイに向けて構えを取る。


「攻撃のペースと威力を考えると、魔力が枯渇するまで耐久するのは難しそうだね」

「それなら話は簡単だ」

「うん」


 二人は目を閉じて大きく深呼吸をする。

 目の前の相手は明らかな格上で、その上3体も立ち塞がっている。Cランク冒険者2人がAランクモンスター3体に立ち向かう、この文字列を見ただけでいかに無謀な挑戦なのかが伝わってくる。


 しかし、それ以上の相手と戦ってきた二人にとって、それは絶望する理由にはならなかった。それところか、この程度で良かったとさえ感じている。


 二人は息を吐き切り、目を開く。そして、ロウゼツレイに向けて不敵に笑う。


「「ぶっ倒す!!」」


 ケイトは剣を体の右後ろに引きながら地面を蹴る。

 ロウゼツレイはそれに反応して、泥の腕を伸ばしてケイトに叩きつけようとする。


 前方から迫り来る腕に対し、ケイトは剣を左に切り上げてから流れるように右に薙いで切り飛ばす。


「ピオ・ナルラ!」


 ケイトの側方と背後から襲いかかる泥の腕を、セスナが水の弾丸で弾き飛ばす。


 ケイトは止まることなく走り続け、ロウゼツレイの目の前まで到達する。


「はあっ!」


 ケイトはロウゼツレイを右上から切り下ろす。

 ロウゼツレイの体は左肩から右腰にかけて真っ二つに切り離されるが、その切り口から魔力の泥が伸びていき、間もなく体が結合する。


 その瞬間に、残りの2体のロウゼツレイが魔力の泥でハンマーのように変形させた腕をケイトに振り下ろす。


「ピオ・シュア!」


 ケイトの頭上に水のバリアが張られ、破裂音とともに泥のハンマーを弾く。


 ケイトに隙を与えぬよう、正面のロウゼツレイが自身の体よりも大きなハンマーを形成して高く振り上げる。

 その一撃は水のバリアでも防ぎきれないほどのものであるとケイトは一瞬で判断する。


「セスナ! あれやるぞ!」

「分かった! ピオ・シュア!」


 ケイトの合図で、セスナは二枚の水のバリアをロウゼツレイを挟み込むように展開する。

 ケイトはそこへ剣を薙ぎ払う。すると、剣は水のバリアに触れると高速で反射し、それを何度も繰り返すことでロウゼツレイを切り刻んでいく。


 そうして、何十回も金属を打ち付ける音が響いたところでようやくその眼窩から赤い光が消え、ロウゼツレイはただの泥となって地面に積み重なる。


「見たか! これが俺たちの合わせ技、萬斬(よろずぎり)だ!」

「そんなのはいいから残りの2体に集中して!」


 いつの間にか、ケイトの頭上から2体のロウゼツレイが飛びかかってきている。ケイトは油断しており、回避行動が遅れてしまう。


「やば――」

「ゼフォロ・シヴィオ」


 二本の雷の槍が、瞬きする間もなくロウゼツレイを貫き、爆散させる。

 その驚異的な威力の魔法を、ケイトはこの世界に来たばかりの時に見たことがあった。


「二日ぶりだね、ケイト」

「エティナさん!」


 エティナは長く美しい金髪をたなびかせてケイトに笑いかける。

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