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怒りの林檎  作者: 排他的生活領域
新世界編
31/58

冒険者とは

 モコロと別れてから数時間後、ケイトとセスナは森を出て王都への帰路に就いていた。

 時刻は昼下がり。太陽の熱が最も世界に蓄えられている時間帯であり、現に、あらゆる動物が日陰で休んでいる。


 そんな炎天下の中、ケイトはエティナに買ってもらったローブのおかげで暑さをそこまで感じずにいた。


「それ、中々いいローブだよね。誰かからの貰い物?」

「いや、俺の憧れの人に買ってもらったんだ」

「憧れの人?」

「そう。エティナさんって人なんだけど」


 セスナの顔が少し曇る。


「エティナって、Aランク冒険者のエティナ・テルニム?」

「そう! 知ってるの?」

「まぁ、そこそこ有名人だし」

「そうだったんだ」


 感心するケイトを、セスナは不満そうな顔で見つめる。


「どうしたの?」

「別に」


 セスナは口をとがらせてそっぽを向く。これまでの経験から、ケイトはそれ以上追求しても良いことは無さそうだと考え、別の話題を探す。


「いいよ、気にしないで。別に怒ってないから」


 ケイトの心中を見透かしてか、セスナはフォローを入れる。


「それなら、新世界に入ったのもエティナ・テルニムの影響?」

「それもあるけど、大部分は俺の力で多くの人を悲しませないようにするため、かな」

「ふーん……。色々あったんだね」


 セスナはそれ以降話しかけてこなかった。



 二人は王都に着く。一昨日の襲撃のこともあるために街は未だ騒がしかったが、二人にはその喧騒がそれだけによるものではないように感じられた。


「……セスナ」

「ケイトも気づいた?」

「ああ。街全体に焦ったような雰囲気が漂ってる」


 張り詰めた空気を肌に感じる中、セスナは近くに知り合いの冒険者を見つけ、話しかけに行く。


 セスナは数十秒ほど話した後に、ケイトの元へ神妙な面持ちをしながら戻ってきた。


「どうした?」

「どうやら、一昨日のベリロスっていう魔族絡みの問題みたいなの」

「あいつ絡みの?」


 ケイトは黒いモヤで構成されたような人型の存在をなんとなく思い出す。


「うん。街の南方でベリロスが率いるモンスターの大群が見つかったらしくて、そいつらが今日中にもここへ到達するって話が広まってるみたい」

「なんでそんな重大そうな話が広まってるんだ?」

「それは分からない。だけど、一つだけ思い浮かぶ可能性がある」


 ベリロス(あいつ)が広めたのか。


 ベリロスの小狡いやり口に、ケイトはむかっ腹が立ってくる。


「前回はなぜか引いてくれたけど、今回はどうなるか……」


 単体の強さでいえば魔王軍幹部を名乗っていたフォルトゥスよりは下であるのだろうが、それでも十分な強敵には違いない。


「まあでも、さすがに前回の被害状況もあるし、最初からAランク投入も有り得るとは思うよ」

「Aランク……なに?」


 セスナはケイトに常識がほとんど無いことを思い出し、頭を抱えてため息をつく。


「いい? AランクとかBランクの冒険者っていうのは、基本的にはギルドの最高戦力なの。だからこそ、その強さが保証されてる代わりに、街によっては無断で戦うことが禁止されてるの」


 意外とめんどくさいんだな。


「そういった場合、大抵はギルドから承認が下りてから戦いに参加するの。前回の襲撃のときも、戦ってたのは私たちCランク冒険者以下だけだったし」

「なるほどなー。冒険者にも色々あるんだな」


 ケイトが冒険者の大変さを思い知ったその時、突如として街中に巨大な警報のような音が鳴り響く。


「うるさっ!? な、なんだ!?」

「厳戒警報……! それもレベルA!」

「なに?! どういうこと?!」

「モンスターたちがもうそこまで迫って来てるってこと! 行くよ!」


 セスナはケイトの腕を引っ張って走る。


 二人が南方の門から外に出ると、そこには多くの冒険者たちが既に配置についていた。冒険者たちは皆、この緊急事態への戸惑いと無理解に騒がしくしている。


 ケイトが人混みの隙間から遠くを見やると、かなり遠方にうっすらと広範囲に広がった大群が見えてきていた。


「この距離であそこまで広く見えるってことは、実際はめちゃくちゃ多いんだろうな」

「うん。ざっと見た感じ、Aランク冒険者も結構な数いるみたいだし、相当な規模の戦いになりそう」


 冒険者たちもそれを察してきているようで、周囲はさらに騒がしくなっていく。


「――皆さん、静粛に」


 ざわめきを砕くように透き通った声が響く。その声は強く涼やかで、ケイトの聞いたことのあるものだった。


「私はAランク冒険者、エティナ・テルニム。この戦いの総指揮を任されました」


 エティナは冒険者たちの前方に仁王立ちし、強者の風格を漂わせていた。


「我々の使命は2つあります。1つ、王都ケルクをモンスターの襲撃から守り通すこと」


 静かでありながらも溢れんばかりの闘志に満ちたエティナの声音にあてられ、冒険者たちは思わず息を飲む。


「2つ、敵の首魁、魔王軍部隊長ベリロスの討伐。これらの遂行をもってこの戦いは我々の勝利となります」


 エティナの説明が終了するやいなや、すぐにざわめきが取り戻され、一帯が騒がしくなり始める。


「――静粛にと言ったはずです」


 エティナの鋭く尖った一言で場が静まり返る。


「我々の使命は2つと言いましたが、我々に残された行動も2つのみです。ここに残ってモンスターと戦うか、しっぽを巻いてここから逃げるか」


 エティナの淡々とした発言が胸を刺し貫く。


「死にたくないなら逃げればいい。生きていたいなら逃げればいい。強引に戦場に連れ戻したりはしません。――本当にそれでいいのなら」


 全ての冒険者の視線がエティナに集中する。


 エティナは大きく息を吸うと、カッと目を開く。その奥には轟々と熱い闘志の炎が燃え上がっている。


「我々は冒険者だ! 未開を切り拓き、未踏を踏みしだき、未来を掴み取る! それが我々の使命であり、存在意義である!」


 闘志が冒険者たちを伝播していき、全員の意思がひとつに纏まっていくのが感じられる。


「勝利のために命を懸けよ! 使命のために命を捨てよ! 舗装された道などいらない! 我々の(しかばね)が未来への道を作るのだ!」


 いつしか冒険者たちの闘志は熱気に変わり、気温を上昇させていく。

 手を強く握りしめ、額からは多量の汗を流し、エティナに決意のこもった表情を向ける。


「武器を取れ! 魔力を流せ! 我々の未来を勝ち取るため、『新世界』に命を捧げろ!」

「「うおおおおおおおおお!!」」


 冒険者たちの咆哮によって世界が揺れる。覇気によって雲が割れる。透き通る青空には赤い太陽だけが燦然と輝いている。


「すげぇ……」


 その圧倒されるような光景にケイトは感嘆する。セスナはそんなケイトを見て悔しそうな顔をする。


「進め! 我々の未来へ!」


 冒険者たちは溜め込んだエネルギーを爆発させるように、モンスターの大群に向かって力強く駆け出す。

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