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怒りの林檎  作者: 排他的生活領域
新世界編
25/58

奥義

 見渡す限りの暗黒の世界。眼前には紫の肌をもつ頭の無い4腕の化け物。そんな地獄のような場所をケイトは駆け回っていた。


「アッジ」


 ザラのもつ三叉の先から闇のエネルギーの弾幕が放たれる。ケイトは加速してそれらを避けながらザラのすぐ近くまで寄る。


「おらぁっ!」


 気合いを込めた一発目は三叉によって防がれる。そして二発目を打ち込もうとしたところで別の三叉がケイトの脇腹を薙ぐ。

 ケイトは吹き飛び、暗黒の大地を勢いよくゴロゴロと転がる。


「ピオ・ナルラ!」


 セスナの手のひらから無数の水弾が射出される。水弾は暗闇の中で青く輝きながら、風を切ってザラへと飛び進む。ザラは4本の三叉を振り回して水弾を弾く。


「その技は先も効かなかったではないか」

「さっきもじゃない。さっき()だ」


 ザラの背後からケイトの拳が炸裂する。その拳圧はザラの胴体を貫通し、巨大な風穴を開ける。そして数秒もしないうちにザラの体は煙のように消えていく。


「面倒だな。もう少し強度の高い体を作るべきか」


 ザラの声が世界に響いたかと思うと、二人の周囲に黒と赤の鎧を纏ったザラの姿がいくつも現れる。


「キリがない……」

「だけど、絶対にどこかで限界がくるはずだ。それまでは死ぬ気で耐え抜くぞ!」

「もちろん!」


 ケイトは強く地面を踏み切る。

 轟速で闇を駆け抜けていき、一瞬でザラとの距離を詰めたかと思うとその胴体を勢いよく蹴付ける。


 ザラの体はありえない方向に折れ曲がり、金属質の物体が壊れる音と共に黒と赤の小さな欠片が闇を舞う。


「デルデロリオ」


 鎧の破片が空中で整列し、ケイトに向かって飛んでいく。ケイトは後ろ跳びで破片群を回避するが、そこへザラが三叉を振り上げている。


「ピオ・クレイア!」


 巨大な水の玉がザラに向かってゆっくりと飛ぶ。ザラは振り上げた三叉を巨大な水の玉に振り下ろし、破裂させる。


「迂闊だな」


 セスナの背後から別のザラが三叉を振り下ろす。


「お前がな」


 猛進してきたケイトが三叉を蹴って弾き、空いた胴体に素早く横蹴りを食らわせる。ザラの鎧は砕け散り、ザラと共に凄まじい速度で後ろへ吹き飛ぶ。


「ゼゲルニコ」


 2体のザラがケイトの両サイドから闇で強化された三叉を容赦なく振り下ろす。


「ピオ・デレーソ!」


 青き刃が空間を切り刻む。ザラも三叉も千々に切れてしまうが、その全ては闇となってどこかへ消える。


「成程な。主人公気取りが近接で相手をし、気色の悪い女がサポートと大技か。中々にしっかりとした戦法だな」

「気色の悪いって何?! ぶっ飛ばされたいの?!」

「死の直前まで生気のある顔をするなど、気色が悪い以外の何物でもなかろう」


 闇の中から数体のザラが現れる。


「真似させてもらうぞ、貴様らの戦法」


 1体のザラを残し、他のザラが様々に攻撃を繰り出しながら二人に近寄ってくる。その間、残ったザラは奥でエネルギーを溜めている。


「セスナ、あいつら全員を一気に倒せるような技あるか?」

「あるにはあるけど、魔力の回復と詠唱のための時間が必要」

「どのくらいだ?」

「ざっと3分」

「余裕!」


 ケイトは高速でザラに迫り、三叉を打ち下ろしているその胴体を正面から蹴り飛ばす。


「アッジ」

「ゼゲルニコ」


 2体のザラがそれぞれエネルギーを纏った三叉と強化された三叉を振りかぶる。

 その場から離れる時間が無いと悟ったケイトは、瞬時に振り下ろされる攻撃の軌道を見切り、その隙間に体をねじ込む。


「ルハーゼ」


 何本もの闇の鎖が地面を這いながらケイトに向かって猛スピードで伸びていく。ケイトは踊るようにあちらこちらにステップを踏んで鎖を避けるが、その間に2体のザラの攻撃準備が完了する。


 ザラは合計8本の三叉をケイトに投げつける。三叉は空を裂きながら超速でケイトに迫る。ケイトは感覚で三叉を打ち落とせないと悟り、避けることに集中する。


 少し皮膚を切りながらも三叉を全て躱し、ケイトはザラに向かって走り出す。


「デルデロリオ」


 躱した三叉が突然進行方向を変えてケイトに突っ込んでくる。

 ケイトは咄嗟に横に跳んで三叉を避けるが、ザラが飛び戻ってきた三叉を掴み取り、そのままケイトに急接近する。


 よく見ろ。


 ケイトは軽く息を吐く。

 ザラは2体で8本ある腕を存分に活かし、突きと打ち下ろし、そして薙ぎ払いを隙間なく敷き詰めている。


「――見えた」


 2体のザラが同時に薙ぎ払う。ケイトは下がってそれを回避する。服が裂けるが気にしてはいられない。


 右ザラが超高速の突きを放つ。

 空気が擦れ、「ボッ」という音と共に三叉が燃え上がる。

 ケイトは突きの方向を確認してから、うまく体を横に向けることでその赫々たる一撃をいなす。


 そこへ両側のザラの打ち下ろしが噛み合う。ケイトは敢えて前に踏み込むことで打ち下ろしを避け、同時にザラの懐に潜り込む。


 そこでようやく温存されていた左ザラの突きがほぼゼロ距離で放たれる。しかし、ケイトは突きの速度が乗る前に三叉を掴み、全力で押し留める。


 両者の行動によって押しのけられた空気がぶつかり合い、辺りに乱気流が巻き起こる。


「ルハーゼ」

「うぐっ……!」


 別のザラによって作り出された闇の鎖によって、ケイトはザラごと捕えられる。


「無様に散れ。デイアト」


 エネルギーを溜めていたザラが全てを破壊する終焉の闇を放つ。

 闇は周囲の暗黒すらも吸収して巨大化を続けながら、空間を貪ってケイトに迫っていく。


 ザラはその光景に勝利を確信して笑う。だが、ケイトにとってそれは絶望の光景ではなかった。


「悪いな。それ見るの3回目なんだわ」


 ケイトは全身に力を込め、ザラごと鎖を破壊する。そしてゆっくりと体を『最適解』にもっていき、目前に迫った闇をしっかりと見据える。


穹穿つ流星(レッド・ステラ)


 赤き拳が世界を打つ。

 空気との摩擦で燃え上がった拳は次元を超越し、空間をも飲み込む闇と対等にぶつかり合う。


 高次元での衝突に干渉された空間は、破壊と修繕を繰り返しながら闇の世界を崩壊の瀬戸際で維持し続ける。

 黒い稲光が這いずり、鼓膜が避けるような大音量が鳴り響く。そのレベルの異常現象が気にならないほど、ケイトは眼前の巨悪の打倒に注力していた。


「はぁぁぁぁぁあ!!」


 ケイトは雄叫びと共に闇を押しのけていき、ついには闇を完全に打ち砕いた。


 しかし、ケイトはこの一撃で完全に体力を使い果たし、その場に倒れ込んでしまう。


「まさかこれほどまでとは……。だが、これで我が勝利は――」

「――未来は決した。此は総て斬伏せる水の刃也」

「なっ!?」


 ザラは驚いて振り返る。その視線の先には、居合の体勢で構えるセスナの姿があった。


「ま、まさか、この男を信頼して詠唱を続けていたと言うのか!?」

「当たり前でしょ。ケイトは私の後輩だから、手足が捥げようと私のことを守ってくれるんだよ」

「くぅっ!!」


 ザラはセスナに襲いかかる。しかし、間に合わない。


「――水魔法シンメイ流奥義・ナミキリ」


 セスナは右腕を薙ぎ払う。その手には何も持っておらず、水が放たれたような痕跡もない。


「た、唯のハッタリ――」

「ごめんね。斬れ味良すぎて気づけなかったみたいで」

「な――」


 その瞬間、全てのザラの体が斜めにずり落ちる。


「な、なんだと……!? 物体や過程を問わず、『斬った』という事実を確定させている……!? そんな技見たことも聞いたこともない……!」

「ウチの門外不出の相伝の技だからね」


 セスナは倒れているケイトに歩き寄る。


「……ケイト、大丈夫?」

「なんとか……」

「そ。じゃあ立ちなさい」


 セスナはケイトの腕を引っ張って無理やり立たせる。


「……まあ良い。此の程度、損害の内にも入らぬ」


 ザラが二人の周囲に大量に現れる。その全てが今までにないほどの殺意を二人に向けてきており、ここからが本番なのだと否が応でも思い知らされる。


「マジで効いてる感じしねぇな」

「もしかしたら何かカラクリがあるのかも……」

「カラクリ?」


 二人に考える暇を与えず、ザラが突進してくる。


「考えるのは後だ。まずは目の前のこいつらをぶっ倒す!」

「うん!」

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