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怒りの林檎  作者: 排他的生活領域
新世界編
21/61

夜の帝王

 ケイトは拳を握り締め、モコロの前に立つと細く息を吐く。その視線は目の前の大きな闇人形たちに注がれている。闇人形はそののっぺらぼうの顔をケイトに向けながら、不格好に歩く。


「さっきよりちょっとでかいか? でもまあ関係ねぇ……全員ぶっ倒すからなあ!!」


 ケイトは力強く地面を蹴る。間もなく、先頭の闇人形の頭部に超高速の前蹴りが当たり、吹き飛んでいく。


 ケイトの左右から2体の闇人形が腕を振り下ろす。低い衝突音が辺りに響き、地面が震える。


 しかし、既にケイトはそこにはいない。


「遅いな」


 ケイトは闇人形の頭上に回り込み、その頭を掴んで地面に強く叩きつける。


 間髪入れず、そのケイトのさらに上から闇人形が飛びかかってくる。

 ケイトは地面を手のひらで押して飛び上がり、空中で体を捻って闇人形の胴体を蹴り飛ばす。


 無防備になったケイトの背中を狙うように、無数の闇人形が飛び上がる。

 それに対してケイトは前方の空間を蹴り、肘を突き出して弾丸のように突っ込む。その突進は闇人形を弾き飛ばしながら地面まで直進する。


 ケイトが立ち上がろうとしたところに数体の闇人形はその長い腕を振り上げてケイトを取り巻く。

 ケイトは思考する時間を切り捨て、前方の闇人形へ駆けてインファイトを仕掛ける。


 闇人形はそれに反応して即座に腕を横に薙ぎ払う。

 だが、ケイトは地面スレスレまで身を低くし、薙ぎ払いを間一髪で避ける。

 そのまま流れるように闇人形の懐に入り込むと渾身の右ストレートをその胴に叩き込み、その後ろの闇人形ごと殴り飛ばす。


 4体の闇人形が同時に、ケイトを囲うように腕を大きく引きながら飛びかかる。

 ケイトは地響きを立てるほどに強く地面を蹴り、跳び上がって2体の闇人形に接近すると、その頭部を握り潰し、残骸となった闇人形を残りの2体に投げ飛ばす。


 闇人形は残骸を振り払うが、その一瞬の隙にケイトは空を蹴って距離を詰め、闇人形の腹部に両拳を突き出して地面に殴りつける。


 ケイトの正面から数え切れないほどの闇人形が腕を振り上げながら迫る。

 ケイトは地面に着地するやいなや先頭の闇人形の顎を蹴り上げる。

 その後すぐに脚を引き戻すと、宙に浮いた闇人形の胴体に横蹴りを打ち込み、闇人形をまとめて飛ばす。


 ケイトの背後から闇人形が爪を突き立てる。

 ケイトは片足で踏み切り、回転しながら跳び上がって爪を躱す。さらに、その回転を利用して闇人形を強く地面に蹴付ける。


 2体の闇人形がやはりケイトの背後から飛びかかってくる。

 ケイトは地面に足を着くとしゃがみ込んで、闇人形の振り払った腕を避ける。そして、振り向きざまにバネ仕掛けのおもちゃのように跳び上がり、闇人形を連続で殴り飛ばす。


 ケイトの真下から闇人形が突撃し、ケイトに拳を繰り出す。

 ケイトは闇人形の拳が当たる寸前でその腕を難なく掴んで受け止め、空中で体を捩りながら前方に投げつける。

 超高速で吹っ飛ぶ闇人形の威力に、大量の闇人形が宙を舞う。


「本気で来いよ!! その程度じゃ俺は止まらねぇぞ!!」


 ケイトは振り返って闇人形を挑発する。その言葉に反応するように闇人形はその背中から歪な羽を生やし始める。

 大量の闇人形が飛び上がり、いつかテレビで見たイナゴの大群のように空を埋め尽くす。


 ケイトは大きく拳を引いて全力で前に打ち出す。空間が激しく揺れ、前方にいた闇人形は余すことなく千々に弾け飛び、闇人形のドームに大きな穴が空く。


 しかし、増え続ける闇人形によってケイトの包囲網はすぐに修復されてしまう。


「数で攻めるか。妥当な判断だな」


 闇人形がケイトになだれ込む。隙間はなく、全て対処するよりない。


「――いや、全部対処すればいいだけの話だ」


 ケイトはゆっくりと拳を引く。大きく、それでいて大きすぎない程度に。


 左の手のひらは前に突き出し、闇人形の大群に照準を定める。足は縦に肩幅より少し大きく開き、軽く腰を落とす。


 これがベストな構えだと、ケイトは直感で理解する。


 闇人形の奔流がケイトに差し迫る。しかし、ケイトに焦りはない。


 ケイトは時間をかけながら胸を張り、上体を捻り、重心を前方に移動させていく。


 だが、ケイトの右腕だけはその場に留まり、少しでも緊張を緩めたら爆発してしまいそうなほどのエネルギーが溜め込まれていく。


「この世界ごと――ぶっ壊す!!」


 緊張が解かれる。

 ケイトの腕は、さながら限界まで引き絞られた弓矢のように、抑えがなくなった瞬間に前に打ち出される。


 その速度は音速を超え、摩擦熱で真っ赤に燃え上がった拳の光の筋だけが空間に浮かび上がる。


 拳は空間を打ち、破裂させる。その衝撃はケイトに覆いかぶさっていた闇人形を木っ端微塵に吹き飛ばす。


 その数瞬後、爆撃のような音が闇の世界に響き渡る。

 それは空間が千切れる音か、はたまた世界がひしゃげる音か。どちらにせよ人間の限界を超えた一撃であったことは間違いない。


「さて、ようやくお出ましか」


 ケイトの視線の先には宙に浮いた黒い紐のようなものでできた輪がある。黒い輪は空中をフラフラと漂っていたが、あるところでピタリと静止する。


「腹立たしい……非常に腹立たしい。まさか此の世界を創り直すことになるとは……」


 黒い輪から低い声が聞こえる。次の瞬間、黒い輪に辺りの闇が吸収されていく。


「そして何より、我に勝とうとしていることが腹立たしい!」


 黒い輪から闇の雷が放たれる。そして、異形の存在がゆっくりと黒い輪から出現していく。


 その異形に頭と呼べるものは無く、腕が4本ついている。

 全身は黒に近い紫で、頭が無いにも関わらず2メートル以上はありそうな身長をしている。

 全ての手に自身よりも大きい漆黒の三叉を持ち、圧倒的な威圧感を放っている。


「お前が夜の帝王ザラ……!」

「恐ろしいか? (なまじ)強い所為で我の相手をしなくてはならなくなるとはな」

「ハッ! 人形遊びしてるようなやつが恐ろしいわけねぇだろ!」

「そうか。それなら恐怖がその身に染み込むまで遊んでやろう」


 ザラは三叉の1つを地面に打ち付ける。カーンという高い音が響いたかと思うと、地面から何体もの真っ黒い人型の影のようなものが現れる。


「そんな……!」


 モコロはそれを見て絶望の表情を浮かべる。


「どうした?」

「あれは……里のみんなだよ……!」

「なっ……!?」


 完全に闇に取り込まれた獣人たちはゆらゆらとケイトに詰め寄ってくる。ケイトは怒りに我を忘れそうになるが、なんとか理性を保つ。


「いいんだよな、殺しても」

「……うん」


 モコロは力なく頷く。ケイトは操られた獣人たちの奥で威圧感を放つザラに鋭い視線を向ける。


「てめぇだけは許さねぇ!!」

「そうか」


 ケイトは走り出す。

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