誰も知らない真相
ケイトは真っ暗闇の世界にいる。見渡す限りを闇が支配しており、誰かがいるのかどうかも分からない。
「なんだここ……変な声が聞こえる世界にしては暗すぎるし……夢か?」
その時、背後から何者かが走ってくる音がする。
「誰だ!」
ケイトは振り向き、その音の主を確認する。すると、そこに立っていたのはモコロだった。
「も、モコロさん!? なんでこんなところに――」
「思い出せない? 私たちが初めて会った時のこと」
「え? 初めてって……今朝のことか?」
「ううん、それより前」
「それより……前……?」
モコロは真剣な表情を見せている。
前……? 俺がモコロさんを見たのは朝起きた時に……いや待て、なんでだ、なんで俺はそれより前からモコロさんのことを知っている気がしてるんだ……?
ケイトは頭を抱える。存在したはずの記憶が呼び起こされていく。
〜〜~〜〜~
ケイトとセスナはギルドに帰って来た。
「休憩室が一部屋しか空いてない!?」
「はい。申し訳ありません」
シエラからの悲報に、セスナは大声をあげる。
「二人で使うことも可能ではありますが」
「絶対にイヤ」
「それならば、どちらが使用するか決めてください」
セスナがケイトへと振り向く。
「私が使うから、ケイトは宿で寝て」
「は?! 俺、金ねぇんだよ!」
「知らないよそんなの。借金ってことで貸してあげてもいいけど」
「いやいやいや! ここは正々堂々じゃんけんで決めようぜ!」
「……分かった」
セスナは拳を握る。ケイトはじゃんけんがこの世界にもあることに驚きつつも、気迫を込めて拳を握る。
「じゃんけん……」
「ぽん!」
両者ともにグーを出してあいことなる。
「あいこで……」
「しょ!」
ともにチョキを出し、あいこが続く。二人は一息ついて心を落ち着かせる。
「やるね」
「そっちこそ。……いくぞ、あいこで」
「しょ!」
ともにグーを出す。二人は額から流れる汗を拭い、目の前の相手を好敵手と認める。
「グー、チョキときて、自分がパーを出すことを予想して相手はチョキを出すと読んでグーを出す。まさかここまで思考が一緒とはね」
「ああ。だが、負ける気はねぇぞ」
「望むところ! あいこで……」
「しょ!」
両者のパーが炸裂する。空間が揺れ、風が吹き荒れる。二人の気迫と気迫がぶつかり合い、激しい火花となって辺りに散る。
もちろん実際はそんなことはなく、これは二人のイメージの中の情景である。
「二連続でグーは心理的に出しにくいと考えると、次に出す手はチョキかパー」
「一見これはチョキが安全そうに見えるが、その裏をかいたグーが最強の一手」
「それを潰すための鋼の意思によるパー……まさかここまでとはね」
二人の間には強者にしか知覚し得ない、ヒリついた空気が流れていた。シエラはそれを無表情で見つめている。
「次で終わりにするよ」
「望むところだ。ここで俺が勝って休憩室を――」
「グーだよ」
「えっ」
ケイトの耳に謎の声が聞こえてくる。ケイトは辺りをキョロキョロと見回すが、それらしい人影は見当たらなかった。
「あいこで……」
「ちょ、ちょ!」
「しょ!」
ケイトは思わずグーを出す。セスナの手を見ると、人差し指と中指だけが立てられている。
「な……ぐ、グー!? 回数の少ないチョキかパーであえて二連続のパーを選択すると考えた上でのチョキが、その裏をかかれた……!?」
セスナの顔は驚愕に染まっている。
「お、俺の勝ちだな」
「くっ……まさか私が負けるなんて……!」
セスナは床に膝から崩れ落ちる。ケイトはシエラから休憩室の鍵を受け取り、モヤモヤした気持ちを抱えながら休憩室に向かう。
ケイトは休憩室に着き、明かりをつける。そこには、大きなふかふかのベッドと小さな机とイスが置かれている。
「思ったよりいいじゃん。剣の練習で疲れたし、今日はゆっくり寝れそうだ……ふわぁ」
急に睡魔が襲ってきて、ケイトは大きなあくびをする。明日は朝からクエストをする予定のため、ケイトは早めに寝ようとローブと剣帯を脱いでベッドに向かう。
ベッドに体を埋めると、ケイトの体はどんどんと沈んでいき、まるで羽毛に包まれているかのようなそんな感覚を覚える。
ケイトの思考は為す術なく真っ暗闇に落ちていき、気づかぬうちに寝てしまう。
気づくと、ケイトは真っ暗闇の世界に立っていた。見渡す限りに闇が広がっており、すぐ目の前でさえ視認することが難しい。
「なんだここ……変な声が聞こえる世界にしては暗すぎるし……夢か?」
「来たね」
背後から何者かの声がする。ケイトがバッと振り向くと、そこにはネックレスをつけたピンク髪のポニーテールの女性が立っていた。
不思議なことに、この世界は真っ暗であるはずなのにその女性の姿はハッキリと視認することができた。
「誰だ!」
「私はモコロ。君に一つお願いがあるの」
「お願いだと?」
モコロはネックレスを引きちぎる。すると、その全身から薄いピンクの毛が伸び始め、頭頂部には動物の耳のようなものが生える。
変身が終わると、モコロはケイトのことを覚悟の決まった目で見つめる。
「私を……殺して」
「……は?」
その時、モコロの背中に黒い翼が生え、モコロは高く飛び上がる。そして、胸の前で黒いエネルギーの塊を形成する。
「ま、待て! 何がどうなって――」
「お願い……アッジ」
エネルギー弾がケイトに向けて放たれる。ケイトは後ろに跳んでエネルギー弾を回避し、宙に羽搏くモコロを見上げる。
モコロの体の至るところに黒い模様のようなものが出現しており、モコロは苦しそうに喘いでいる。
「おい! 大丈夫か!」
「早く……殺し……て……!」
エネルギー弾が乱射される。弾幕は恐ろしいほどの速さで闇の空間を埋め尽くし、ケイトの目と鼻の先にも既に迫ってきている。
「なんだかよく分かんねぇけど、苦しんでる人を放ってはおけねぇよなあ!!」
ケイトはエネルギー弾に拳を振るう。エネルギー弾はその衝撃で変形し、形を保てなくなって霧散する。
さらに大量のエネルギー弾がケイトに迫り来る。ケイトはそれらを殴り壊し、蹴り飛ばし、叩き飛ばし、踏み潰し、流れるような攻撃で対処し切る。
「エンディル……!」
モコロは闇の槍を生成し、超速でケイトに突撃する。
「安心しろ、見えてるから」
ケイトは頭を左に傾けて槍撃を躱し、右手で槍の持ち手を掴む。モコロは槍を引き戻そうとするが、ケイトの力が強く、ビクともしない。
「歯、食いしばれよ」
ケイトの左拳がモコロの腹部に直撃する。モコロはあまりの威力に槍を手放し、後方に激しく吹き飛ばされる。
ケイトは槍を投げ捨て、吹き飛ぶモコロを追って走る。モコロは吹き飛びながらも空中で姿勢を制御し、エネルギー弾を生成して迫るケイトの対処を目論む。
「遅ぇよ!」
ケイトはエネルギーを溜めるモコロの目の前まで詰め寄り、モコロをさらに蹴り飛ばす。
モコロは地面を何度も跳ねながら二転三転して吹き飛ぶが、なんとか翼を広げて腕を地面に突き立てることで減速していく。
「ドゥーラ」
モコロはケイトに向かって無数の小さな闇の弾を放つ。
「悪ぃな、その技は知ってんだ」
闇の弾は空を裂きながらケイトに襲いかかってくるが、ケイトはその全てを素手で弾き飛ばす。モコロはケイトから距離をとるべく再び高く飛び上がる。
「ゼゲルニコ」
モコロの体から大量の闇が噴出する。闇はモコロにまとわりつくと、全身を黒く染め上げる。獣の耳は漆黒の角に変化し、その見た目はまるで魔族のようであった。
「その見た目にはあんまりいい記憶がねぇんだよな」
「バルダ」
モコロの角から発せられた黒い雷が空間を這いずる。轟く破壊の雷は、ジグザグに何度も折れ曲がりながらケイトに向かって進む。ケイトは空を蹴って雷を避けながらモコロの元へ走る。
「アッジ」
モコロの角の先に瞬間的にエネルギーが溜まり、それをケイトに向けて放つ。
「くっ……!」
ケイトは避けられず、受け止めるしかなかったが、先程までのものよりも出力が上がっており、勢いよく地面まで弾き飛ばされる。
「バルダ」
そこへ追い打ちをかけるように黒い雷がケイトを襲う。
「調子に乗んじゃねぇぞ!」
ケイトは拳で雷を打ち払い、再びモコロへ向かって宙を駆ける。モコロは再び角の先にエネルギーを溜める。
「何度も同じ技が通じると思うなよ!」
「アッジ」
ケイトに向かってエネルギー弾が放たれる。ケイトは手を伸ばし、エネルギー弾を掴む。エネルギー弾はバチバチと弾け、ケイトの腕をズタズタに傷つけていく。
「だ……らああ……あああああ!!」
ケイトはエネルギー弾を掴んだ手を無理やり振りかぶり、モコロに向かって投げ返す。
エネルギー弾はその爆発的なエネルギーを周囲に発散させながらモコロに衝突する。
モコロは無表情でエネルギー弾を押し込めようとするが、その隙にケイトはモコロのすぐ側まで近づいていた。
「俺を恨むなよ」
「……もち……ろ……ん」
「ありがとう」
ケイトの全力の拳がモコロの漆黒の胴体に炸裂する。その一撃で暗闇は弾け、一帯を白い光が包み込む。
数秒も経たないうちに世界は光に飲み込まれ、モコロもケイトもその世界から消えていく。
小鳥のさえずりで目覚めた時、ケイトはベッドから落ちていた。




