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怒りの林檎  作者: 排他的生活領域
新世界編
13/58

武器選び……のはずだった

 ケイトとセスナは武器屋の前にたどり着いた。ショーウィンドウからは様々な種類の武器が綺麗に並んでいる様子が見える。


「すみませーん」

「いらっしゃいませ」


 店内に入ると、笑顔を浮かべた店主と思しき痩せこけた男性が、愛想よく笑いながら二人に近寄る。


「本日はどのようなものをお探しですか?」

「この人に合う武器を見繕いたくて」

「ほう」


 店主はケイトのことをじっくりと見回す。


「ふむ、少し線は細いですが、ある程度の筋肉はついていますね。それなら……えーと……こちらなんかはいかがでしょうか」


 店主は見たことあるような、オーソドックスな長剣を持ってくる。持ってみると、少し重さは感じるが、中々に扱いやすい。


「いいですね、これ」

「はい。こちらはヴァドレンス製の長剣でして、長さと重さ、そして重心が計算され尽くされており、とても扱いやすくなっております。少々お値段は張りますが、長く使えてとても――」

「却下。他のは?」

「へ?」


 店主の詳しい説明をぶった切って、セスナは他の武器を催促する。店主は困惑しながらも他の武器を探す。


「こ、こちらのメイスはいかがでしょうか? 破壊に特化しており、使いやすさも――」

「却下」


「こちらのアックスは切れ味が――」

「なんだって研げば切れ味は良くなる」


「こちらはブーメランと言いまして投げたら手元に戻ってくるという――」

「よく分かんない」



 ――却下された武器が積み上がり、山のようになる。その麓で店主は地面に手をついて降参の意を示していた。


「ここはハズレみたい。次行こ」

「いやちょっと待て!」


 ケイトは店を出ようとするセスナを慌てて引き止める。


「何?」

「何じゃねぇよ! なんだってそんなに却下してんだよ!」

「……だって全部質が悪いんだもん」

「はぇ?」


 予想外の回答に、ケイトは思考停止する。店主はわなわなと震え出し、鬼のような形相をセスナに向ける。


「わ、私の商品の質が悪いだと!?」

「そう聞こえなかった?」

「こんの素人があ!! 武器のブランドも知らん魔法使いの小娘がいっちょまえに口出ししていいモンじゃねぇんだぞ!!」


 店主はものすごい剣幕でまくし立てる。しかし、セスナは冷たい目で店主のことを睨み返す。それは全てを知っている者の目だ。

 セスナは武器の山に近づき、最初に紹介された長剣を手に取る。


「な、何をする気だ!」

「ピオ」


 水の弾が剣の腹に当たる。すると、剣は簡単に折れてしまう。店主はタコのように顔を真っ赤にして激昂する。


「きっ、貴様! よくもうちの商品を!」

「何言ってるの? 今のは初級魔法だよ。それが当たっただけで折れるなんてヴァドレンス製にしては随分と脆いんだね」

「ギクゥッ!」


 セスナは表情が引きつっていく店主に近づいて、至近距離で顔を突き合わせる。


「こんなアコギな商売しておいてよくもブランドだなんだとほざけるね。本物なんて一個も置いてないくせに」

「ギギクゥッ!」


 店主の目が泳ぎ、額からはダラダラと汗が流れている。セスナはそんな店主の目をじっと見つめる。


「あーなんか無性に魔法が使いたくなってきたなー」

「ひぃっ! そ、そういえばこれはレプリカだったあっ! ははっ! 私としたことがうっかりしてしまいましたあっ! 本物はこちらですうっ!」


 店主が急いでバックヤードから長剣を持ってくる。セスナはそれを店主から奪うと吟味を始める。


「……うん、これは本物みたい」

「ももももちろんでございます! それではお会計の準備を――」

「でも却下」

「ほへぇ!?」


 店主は固まる。セスナは剣を店主に突き返すと、ショーウィンドウに飾られている剣を指さす。

 その剣身は太陽光を余すことなく反射して明るく銀色に輝き、柄は黒地に金という見ただけでわかるほど豪華な装飾となっている。


「あれの本物、置いてるでしょ」

「ひっ! あ、あれは売る気は無いものなので――」

「そんなの知らないよ。迷惑料ってことで。それとも何? この店の悪事をバラしてほしいわけ?」

「はい! ただいま用意いたします!」


 店主がバックヤードに駆け込んでいく。セスナはその結果に満足そうな笑みを浮かべる。

 ケイトはその一連の騒動をポカンとしながら眺めていた。


「なに呆けてるの」

「あ、い、いや、なんかすごいことになったなって……」

「小柄な魔法使いとひ弱そうな冒険者見習いだから舐めてたんだろうね。ざまあみろって話」


 セスナがイジワルそうな顔でほくそ笑む。


「で、でもそれならわざわざ店を出ようとする必要はなかったんじゃ?」

「あのねぇ、本当はこんな店関わらない方がいいの。裏にどんな危ない人たちが関わってるかわかんないんだから」

「じゃあなんで――」

「あれ」


 セスナが再びショーウィンドウの美しい長剣を指し示す。


「店を出ようとした時に思ったの。もしかしたらあれのオリジナルがこの店にあるかもしれないって」

「あれってそんなにすごいものなの?」

「もし本物なら中々お目にかかれない代物ではあるね」

「へぇー」


 店主がバックヤードから戻ってくる。その手には大きな箱を抱えている。


「こ、こちらです」


 店主が箱を差し出す。セスナが箱を受け取って開けると、柄と同じく黒地に金の鞘に納まった長剣が剣帯とともに丁寧に梱包されていた。


「うん、本物だね。それじゃあこれ貰うね」

「あ、ありがとうございま……貰う?」


 セスナは長剣と剣帯を箱から出してケイトに渡す。その後、セスナの発言が理解できていない様子の店主に向かって振り向く。


「何驚いてるの? 私は一言も買うなんて言ってないし」

「そ、そんな! それじゃあ私の商売上がったりですよ!」

「自業自得でしょ。それに、もし私がバラしたらこれ以上の損害を被ることになるけど?」

「わ、分かりました……そちらは差し上げます……」

「ありがとねー」


 散らかった店内で落ち込む店主を尻目に、二人は店を後にする。


「なんかちょっと悪いことした気分だな」

「なんでよ。向こうが先に騙そうとしてきたんだよ」

「それはそうなんだけどさ」

「それよりさ、試し切りしてみようよ!」


 セスナがウキウキした顔で話す。ここまでテンションが高いセスナをケイトは初めて見る。


「……そうだな」

「決まり! それじゃあこっち来て!」

「うおっ!」


 セスナがケイトの手を引いて走る。ケイトは苦笑いしながらついて行く。

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