冒険者のなり方
太陽は真上から少し傾き、気温は大分高くなっている。鳥は青い空を飛び回り、先程までの惨劇などなかったかのように清々しい風景が広がっている。
「――だーかーらー!」
そんな風情など微塵も感じない話し声がギルドに響く。
「私のことは先輩って呼んでって! これは先輩としての当然の権利でしょ!」
「そんな権利があってたまるか! だいたい、こんな威厳も風格もないちんちくりんを先輩なんて呼びたくなんかないわ!」
「こう見えても155センチあるから! それに先輩であることは事実なんだからもっと敬って接してよ!」
「だから敬う気になれねぇって言ってんだよ! もっと敬おうと思えるような行動をしろよ!」
「言い合いはその辺りにしてください。他の冒険者の迷惑にもなりますし」
口喧嘩が白熱している二人の元へ、シエラが歩いてきて窘める。
二人は受付の隣の部屋で言い争いをしていた。
そこは冒険者がクエストを受注する部屋になっており、クエスト掲示板の前では数人の冒険者がクエストを吟味している。
そして、その他大勢のテーブルについている冒険者たちは、二人に鋭い視線を向けていた。
二人は肩を竦めてイスに座る。
「そ、そういえばシエラさんはなんでここに?」
「先輩冒険者の登録が済んだのでご報告に――」
「え!? 本当に先輩になっちゃったの!?」
「なっちゃったってどういう意味よ!」
「二人ともお静かに」
ケイトとセスナはバツが悪そうに押し黙る。シエラは呆れながらため息をつく。
「それでは私は業務に戻ります。セスナさん、ナルハシさんに冒険者について色々と教えてあげてください」
「はい! もちろんです!」
「ナルハシさん、セスナさんはいい人です。敬わなくてもいいですが、信頼はしてもいいと思います」
「……はい」
「仲良くしてくださいね。先輩と後輩として」
シエラは振り返り、来た道を戻っていく。二人はしばらく黙り込む。
十数秒ほど経って、セスナは大きく息を吐き、諦めた顔でケイトにまっすぐに向かう。
「言い争うのはこれで終わりにしよ。呼び方は好きにしていいから」
「わかった、セスナ」
「それじゃあ行こう、ケイト。……冒険者のなり方を教えてあげる」
セスナが立ち上がって歩き出す。ケイトも立ち上がり、セスナの背中を追う。
「そういえば、ケイトは魔法適性はあるの?」
「あー、知らない」
「魔法を使おうとしたことは?」
「ない」
「変なの」
「普通に悪口じゃねぇか」
ギルドの扉を開けると、セスナは笑顔で振り向く。
「来て。まずはケイトの戦い方を決めよう」
〜〜~〜〜~
「――着いたよ」
セスナに案内された場所は教会のようだった。外観は純白の石造りで、高い塔のようなものがついている。
入り口の門の前には衛兵が立っており、重要な施設であることが分かる。
「あの、能力を診断したいんですけど」
衛兵は冒険者カードを見ると無言で門を開ける。二人はお礼を言って中に入る。
教会の内装は、ケイトの元いた世界のものと似て、多くの長イスが並んでおり、奥には祭壇がある。ステンドグラスは色とりどりに美しく輝き、ケイトの目を奪う。
「本日はいかがいたしましたか?」
神父らしき格好をした人が歩いてくる。
ロザリオらしきものを首にかけ、手には分厚い本を持っている。
かなり歳をとっているように見えるが、歩く姿は歳を感じさせないほどに美しい。
セスナが神父に恭しくお辞儀をし始め、それを真似てケイトも頭を下げる。
「こちらのケイト・ナルハシの能力を診断をしていただきたく思い、来訪いたしました」
「分かりました。それではこちらに」
神父は奥に歩いていく。ケイトは神父についていき、祭壇まで到着する。
「そちらの陣の上にお立ちください」
「これですか?」
ケイトは祭壇の前に床に描かれてある魔法陣のようなものの上に立つ。神父はロザリオを握り、天井を見上げて目を瞑る。
「主よ、人々を生み出しし我らが父よ。今、この者の力を映し出したまえ」
魔法陣が光り始める。その輝きは白く美しく、ケイトの全てを照らしているように感じられる。
室内で閉め切っているにも関わらず、柔らかな風がケイトの周りを流れる。その風によって神父の本がパラパラと勢いよくめくれる。
数秒間、風が教会全体を席巻したかと思うと、その全てが神父の掲げるロザリオに集中していく。やがて風は止み、ロザリオが纏う風だけが残される。
神父はロザリオを本の白紙のページに押し付ける。すると、ロザリオのエネルギーが本に浸透していき、じわじわと文字が浮き上がってくる。
「……視えました。あなたの力は『限りなく澄んだ白』です」
「限りなく澄んだ白? どういうことですか?」
「端的に言えば、魔法適性も加護も何もないということです」
ケイトはギャグ漫画のようにずっこける。ここまで仰々しいことをしておいて何もないとは全く考えもしていなかった。
「な、何もないって――」
「悲観しないでください、本質はそこではありません」
神父の真剣な顔つきに、ケイトは思わず息を飲む。
「本質はそこじゃないって……?」
「はい。確かにこの結果はあなたには何もないことを示しています。しかし、私は『限りなく澄んだ』などという形容をこれまで聞いたことがありません」
「それってつまり……」
ケイトは期待を込めて神父に聞き返す。神父はケイトの考えを肯定するように静かに頷く。
「恐らく、恩寵が宿っているのだと」
「恩寵!?」
セスナの顔が驚愕に染まる。
恐らくフォルトゥスと戦った時に聞こえてきた声の主のことだろうと、ケイトはよくある展開に心を躍らせる。
しかし、ケイトの心は確かに沸き立っているはずなのだが、不思議なことにケイトは至って冷静にその事実を受け止めることができている。それこそ、異世界転移したことに気づいた時と似たような心持ちなのである。
「恩寵が宿ってるって言われてるのに面白くないほど冷静だね」
「驚いてはいるよ。ただ、よく分からないというかなんというか……」
「そう? さっきの魔族との戦いでの有り得ないほどの力も、恩寵だって言われれば納得感はあるけど」
セスナはケイトの言葉を違う方向に解釈する。ケイトもその違和感を忘れ去ろうとベリロスとの戦いを思い出す。
あれ以来、あの声は聞こえなくなった。口を挟む必要が無いのか、あるいは神託のようなものだったのだろうか。それに、ベリロスと戦った時の力は、あの時と比べても圧倒的に弱い……
ふと謎の声が脳裏によぎる。
「信じる」か。
「どうしたの黙り込んで?」
セスナが疑問を投げかける。
「ああ、いや、なんでもない。それより神父さん、ありがとうございました」
「どういたしまして。またいつでも来てください」
ケイトとセスナはお辞儀をして教会を出る。
「それで、次はどうするんだ?」
「次は武器屋に行くよ! あのスーパーパワーがケイトの力っていうことなら、必要なのはどれだけ乱暴に扱っても壊れない武器だね!」
セスナは拳を前に突き出して笑顔を見せる。




