そうして俺は後輩冒険者となった
ケイトの目の前には酷い惨状が広がっている。
お前のせいだと言わんばかりの表情がケイトに向けているようにすら感じられる。
生温かい風がケイトの体にまとわりつき、不快感を押し付けてくる。
ケイトは被害を最小限に抑えた結果なのだと痛む心を落ち着かせ、深く息を吐きながらその場にへたり込む。
「とりあえず、一件落着……でいいのか……?」
ベリロスの最後の行動が気がかりではあるが、考えても仕方のないことだと割り切る。
「あ、あの……」
セスナがオドオドとケイトに話しかける。
「ありがとうございました。私はセスナ・シンメイって言います」
「俺はケイト・ナルハシだ。とにかく、お互い無事で良かったよ」
二人は笑い合う。
そこへ、突如としてギルドの上階から無数のミカエルが降ってくる。ミカエルは二人を取り囲むと竹刀を構える。
「なっ!?」
「みっ、ミカエル!?」
二人は咄嗟に戦闘態勢をとる。
「すみません!」
そこへ、シエラが申し訳なさそうな顔をしながら走ってきている。
ケイトがそれを見つけたのと同時に、ミカエルは竹刀を下ろし、ゾロゾロと歩いてギルドへと戻っていく。
「なんかシュールだな」
ミカエルを見送っているうちに、シエラは既に近くまで来ており、息を整えている。
「も、申し訳ありません。魔族の襲撃と聞いてミカエルを起動して回っていたんです。まさかもう終わっているとは思わず……」
「なるほど、そういうことだったんですね」
「良かった。あんな数のミカエル相手してられねぇしな」
ケイトは胸を撫で下ろす。そのケイトの様子を見て、シエラは何かを思い出したような顔をする。
「そういえば……ナルハシさん、受付に来てもらえますか」
「え? なんですか?」
「冒険者カードができました」
〜〜~〜〜~
「こちらがケイト・ナルハシ様の冒険者カードになります」
「ありがとうございます!」
ケイトはシエラから冒険者カードを受け取る。その中央にはでかでかと「Cランク冒険者:ケイト・ナルハシ」と書かれている。
「Cランクなんですか?! あんなに強いのに?!」
なぜか隣にいるセスナがケイトの冒険者カードを覗き見て大声をあげる。
「あの……なんで隣に?」
「あれだけ強い人がどのランクなんだろうって気になっちゃって。でもまさかおんなじランクだったとは……」
セスナはつま先立ちでケイトの冒険者カードをじっくりと見回している。
小動物みたいでちょっと可愛いな。
ケイトは腕を少し下ろし、セスナが見やすいようにする。
「ナルハシさんは先程冒険者になられたのですよ」
「ああなるほど!」
「どういうこと?」
「冒険者になったばかりの人は最高でもCランクからスタートなんですよ」
首を傾げるケイトに、セスナはなぜか誇らしげな顔で説明を始める。
「ギルド新世界にはSランクからEランクまでランクが存在します。その中でもBランク以上の冒険者は極秘のクエストを扱うことがあるんですよ。なので、新参者は最初は最高でもCランク、時間が経つにつれてなれるランクが上がっていくんですよ」
「へぇー、結構ちゃんとしてるんだな」
ケイトは感心する。
「当たり前です! 新世界は世界でもトップレベルの冒険者ギルドですからね! これくらいのセキュリティがあって当然です!」
「トップレベル……ってことは、他にも冒険者ギルドがあるのか?」
ケイトの何気ない質問に、セスナとシエラは唖然とし、まるで時が止まったかのように動かない。
「し、知らないんですか?! 太陽の鈴とか神樹とか!」
「う、うん……」
「信じられない……! 今まで何して生きてきたんですか?!」
セスナが核心をついた質問をしてくる。
こことは違う世界で普通に働いてた……なんて言えるわけないよな。
ケイトは口ごもる。それを見たセスナは呆れたように大きなため息をつく。
「言いたくないなら別にいいですよ」
「ご、ごめん」
「謝らないでください。それじゃあ、有名な犯罪者集団とかは知ってますか?」
「え、えーっと……」
「本気で言ってますか?! 神の軛とかバベルとかも?!」
「はい……」
セスナは信じられないといった顔をしている。
この世界では一般常識レベルなのだろうが、わからないものはわからない。
ケイトがチラッとセスナを見ると、セスナは何かを考え込むように俯いている。
「――わかりました」
「ん?」
セスナが唐突に顔を上げる。その顔は自信に満ち溢れており、胸に手のひらを置くとケイトのことをまっすぐに見つめる。
「私がケイトさんの『先輩冒険者』になってあげましょう!」
「先輩冒険者?」
既に先輩だろうと思ってケイトが再び首を傾げると、シエラがわざとらしく咳払いをする。
「このギルドの制度の一つです。本来冒険者は自身のランクに合ったクエストしか受注できませんが、先輩冒険者がいると先輩冒険者のクエストも一緒に受けることができるようになるんです」
「報酬も二人分になるし、実戦経験とか実績が積めるからランクも上がりやすくなるんですよ!」
「でも、結局貰える報酬もランクも同じなんだから意味なくない?」
「そんなこと言ったら教えてあげませんよ。危険な場所とか危険な人たちとか」
「うぐっ……」
自身の無知を人質ならぬ無知質に取られ、ケイトは何も言い返せなくなる。
「それじゃ決まり! シエラさん登録しといてー」
「承知しました」
「いや待て待て待て! 俺にメリットはあってもそっちにメリットがないだろ! そこまでしなくたって俺は一人でも――」
「ダメです!」
セスナは頬を膨らませ、怒ったような顔でケイトのことをじぃっと見上げる。
「知ってる人が知らず知らずのうちに危険な場所に行くなんて私には耐えられません! 私のメリットはケイトさんのことを心配しなくてよくなることです!」
セスナは人差し指をケイトの唇に当てて優しくほほ笑む。それは否定しようがないほどに可愛らしく、ケイトは頬を赤らめて何も言えずにそっぽを向く。
セスナはその様子を見て、ケイトが反論を諦めたのだと思い、うんうんと頷く。
「そういうわけで、これからは私のことを『先輩』って呼んでもいいんですよ!」
「それはやめとく」
「なんでですか!」
「年下を先輩と呼ぶのは心にくるものがあるんだよ」
「年下とはいっても私は18ですよ。もう立派に――」
「え、ちょっと待って18って言った?」
「はい、それが何か――」
「同い年じゃねぇか!!」
「同い年!?」
混じりあった驚愕の声がギルドに響く。




