人類初の恋から始まる物語
コンビニの雑誌コーナーで、ふと目に入った記事。
『人類の起源、新説が浮上 ─ アダムとイヴの時代を探る』
「へぇ」
なんとなく手に取って、立ち読みをする。人類最初のカップル。最初の愛。最初の別れ...か。
スマホが震える。彼女からのLINE。
「今日も残業…ごめんね」
「気をつけて帰ってきて」
何気なく打った返信の後で、画面を見つめながら考える。
もしかしたら、アダムとイヴもこんな風に、お互いの事を心配し合ったんだろうか。獲物を探しに行ったアダムを、イヴは不安な気持ちで待っていたのかもしれないな。
そんな事を考えながら、僕は雑誌を元の場所に戻してコンビニを出る。外はかなり冷えており、思わず着いた溜息は、白く色付きそのまま空に消えていった。
この前の休日、彼女と二人で見た映画のこと。お決まりのラブストーリー。「ありがち」って笑った彼女が可愛くて、思わずキスをした。
そんな幸せな記憶を思い出しながら帰路に着き、アパートに到着する。部屋に入って冷蔵庫を開けると、彼女が「ちゃんとご飯食べてね」と言って作ってくれた惣菜が沢山あった。
テレビをつけると、相変わらずのニュース。不況だの、戦争だの、暗い話題ばかり。だが、そんな暗い世の中でも、人々は昔から、誰かと出会い誰かを愛して、支えあって生きて来た。それはいつの時代も変わらない。
「今帰り」
彼女からのメッセージ。
「お疲れ様。今日の晩ご飯、作りすぎちゃって」
嘘をつく。本当は、これからご飯を作るところだ。でも、こう言えば....
「ほんと? じゃあ、行く」
と、すぐに返事が来る。最近は忙しかったため夜を過ごす頻度も少なくなっていた。今から高揚感が止まらないあたり、僕も子供だなと思う。
それから時間は経ち、玄関のチャイムが鳴る。
ドアを開けると、疲れた顔の彼女。でも、笑顔。
「ただいま」
「おかえり」
世界で最初のカップルから続く、ありふれた言葉。
でも、その言葉の重みも、何も変わっていない。
台所から味噌汁の香りが漂う。
「今日は何作ったの?」
「適当に色々と」
「嘘つき。ほとんどが私が作った作り置きの惣菜じゃん。なんでさっき見栄張ったの?」
そう言って彼女は笑った。
アダムとイブも、きっとこんな風に笑い合ったんだろう。
そして、きっと喧嘩もした。
考えてみれば、僕らも同じだ。
時には喧嘩して、でも仲直りしてまた愛し合う。
それは僕らが生まれる前から、ずっとずっと続いている事。
アダムとイブの時代から、人はこうして傷つけ合い、そしてまた愛し合ってきたんだ。
僕らもその物語の続きを生きている。これからも、この物語を途切れさせる事無く二人で紡いでいこうと、僕は、彼女の分の味噌汁を掬いながらそう思った。
[完]
私の好きな曲を元に書いた小説です。