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8話 初仕事

 4人は現在、都市を出て右にある、崖の近くの洞窟に来ている。


「なんか、いかにも洞窟って感じですね?」

 思わず声が漏れる。いざ目の当たりにすると意外と怖いものだ。


「ここの洞窟は今までに何回か潜ったことあるけど、枝分かれしてる道も無くとにかく1本道なんだ」

「うん!中で迷う事がないから安心だよね!」

「ここは洞窟とは呼べないくらい1本道。歯ごたえがなさすぎる。もはや落とし穴」


 ホープとマナは余裕そうな上、コガネに関しては落とし穴扱いとは。


「確かにね!コガネの故郷と比べるとこの洞窟なんてただの落とし穴かもね!」

「あれ?皆さん、ここが故郷じゃ無いんですか?」

 てっきり全員ここの同郷かと思っていた。


 まぁ少し考えれば、年の近い若者3人が危険なことをして稼ぐのを、発展した国や都市が許すかどうかの答えはすぐわかりそうだが。


 そこまで余裕なんてないし。


「あぁ違うよ。俺とマナは“カンナギ”って言う田舎町出身なんだ」

「カンナギ」

 なんか町の名前がカッコいい。巫女でもいるのかな?

「私はタール出身」

「……」


 は?タバコですか?


「コガネ!ちゃんと説明して!もぅ!」

 コガネさんに頬を膨らますマナと、

「ごめん……」

 拗ねた口調で謝るコガネ。

「……」


「えっと、タールって町があるんだけどね、そこが谷間に沿って栄えた町なんだ!」

 コガネの代わりにマナが教えてくれた。


「うん、自然の地形を利用した町。産業は発展していないけど、多くの自然に囲まれているから空気が綺麗。雨水がそのまま飲める」

 さらにドヤ顔で説明するコガネ。


 なんだ、説明できるじゃん……って、

「え!?それめちゃめちゃ綺麗じゃないですか!雨水がそのまま飲めるって!」

 かなりすごい。前世じゃありえない、というか前世にいた世界じゃありえない話かもしれない。


「もしかして、前○前世くらい前なら?」

「ん?全然……何?」

「いや、なんでもないです、全然、はい」

 何故かマナが喰いついてきた。そこ喰いつくポイントじゃないだろう。


「いつかでいいので皆さんの故郷にも行ってみたいです!」

 軽い願望を口にすると、

「いつでも歓迎」

 ウェルカムなコガネに対して、

「まぁ……うん。そのうち……ね?」

 マナは言葉を詰まらせた。

「「??」」

 その様子にタクマとコガネは揃えて首を傾げる。


 故郷で何かあったのだろうか。見る限りだとコガネも事情を知らなさそう。


「はいはい!続きは依頼が終わってからな!」

 頃合いで手をパンパン叩き、話を中断させる。


 こうゆう時ちゃんと指揮取れる男はカッコいい。


「うん。早く終わらせて昨日買ったローブを着てみたい」

 せっせと洞窟に入っていくコガネと、

「コガネ待って!」

 待ってと言う割にはゆっくり洞窟に入っていくマナ。


「……」

「どうした?」

「いや、平和だなーと思いまして」

「これから平和じゃなくなるから、今のうちに平和を堪能しておけ」

「わかりました」

 タクマもホープと共に洞窟に入った。





 入ってすぐは狭い道に湿った空気。

 しかし、そんなに歩かないうちに開けたら空間に出る。


 らしい。


 暗くて見えないから全くわからない。


「今日は新人さんがいるから明るくするね!」

 真っ暗の中声だけが聞こえ、


【火の魔力よ、その炎の光で我らの道を照らせ、灯火】


 マナが詠唱を1つ。


 すると、マナの持っていた杖先から赤い光を放ちだし、洞窟内を照らす。


 詠唱のせいで顔が熱くなったり胸が痛くなったような気がしたのは気のせいであってほしい。

「大丈夫だ。僕はもう厨二病じゃない!それより洞窟だ」

 というか、

「僕がいなかったら真っ暗のまま進んでたんですか?」

「「「うん」」」

 3人の声が揃って帰ってきた。

「マジか」

 3人のヤバさに目を背けるように、照らされた洞窟を見渡した。


 確かに広かった。何もないのが寂しいくらいに無駄に広い空間だった。


 そして奥はまた細い穴になっている。

 その穴の奥からは高い鳴き声が聞こえてくる。


 どうやらこの奥にオークがいるらしい。


「行こう」

 たった一言だが、ホープの声色はいつに無く真剣な声をしていた。


 それもそうだ。

 簡単な依頼とは言っていたものの、相手は魔物。小さな油断がいつ死に繋がるかわからない。


「ちょっと気を引き締めるか」

 心に言い、腹をくくる。

 灯りを灯しているマナを先頭に洞窟の奥に向かう。





 さっきの広い空間から結構歩いた。そして、恐らく最奥地だろう場所についた。


 目の前にはこちらの気配に気づき、威嚇をする大人のオーク2匹と、泣きわめく子供、と言うより赤子の方が正しいと思える程の小さいオーク2匹がいる。


 大人のオーク2匹は攻撃してこようとはしない。

 まるで「来るな!」と言い続けるように、威嚇しかしてこない。


 当然といえば当然。ここで戦えば子供に飛び火がかかるのは目に見えている。


「いたね」

 オークを見ながら呟くコガネに

「うん」

 とだけ返すマナ。

「……」

 何も答えないホープ。


 かなり重い空気が漂っている。


 警戒する大人オークや、泣きわめく子供のオークもそうだが、それらをこれから殺さなくてはいけないタクマ以外の3人の心構えの重さの方がこの場の空気を重くしている。


 腹くくったつもりだったんだけど。

 所詮つもりだったらしい。


 その証拠に、

「本当に……殺すの?」

 反射的に、思わず3人に尋ねてしまった。

「あぁ、殺すよ」

 決意と殺意に満ちたホープが答える。


「ここで殺しておかなくちゃ。被害が出てからじゃ遅いからね」

 タクマを諭すように続けるマナ。

「でもー」

 思わず口を挟もうとした時、

「でもじゃない。私達がやらないといけないの。私達はもう、自分の甘さで誰かを失いたくない」


 タクマの言葉を遮るコガネ。

「……」


 言葉が出てこない。


 被害が出てからじゃ遅い。

 誰かを失いたくない。


 オークがどんな被害をもたらすのかはわからない。コガネが誰を失ったのかわからない。

 けど、そんな風に言われたら、納得せざるを得ない。


「辛かったら見なくて良いんだよ」

 背中越しに声をかけるホープ。かなり心配してくれているのだろう。

 しかし、

「大、丈夫……です」

「わかった。無理するなよ」

 正直、気が狂いそうな程怖い。身体が恐怖で震えてるのがはっきりわかる。


 でも、ここでホープの優しさに甘える訳にはいかない。


「じゃあ、2人とも、お願い」

「「わかった」」

 2人揃って返事をすると、マナさんが左右に、コガネが正面に魔法陣を生成し、詠唱を始める。


【火の魔力よ、その熱を込めた一矢で敵を貫け、ファイアアロー】


 1つ詠唱を唱えるマナ。

 そして、魔法陣から真っ赤な矢が放たれる。


 が、オークも子供を守るために体を張って対抗する。見た目が銀色になり、まるで鉄の塊だ。

 しかし、

「無駄【音の魔力よ、その強さを持って、矢が放つ熱と力を上げよ、フォルテ】」

 今度はコガネが詠唱を唱える。


 すると、一気にマナの放ったファイアアローの熱が強くなった。

 そして、

「「「!!!」」」

 オーク2匹の胸を貫く。

 血を吐くオークに追い打ちをかけるように、体中が燃え出す。

 大人オークの叫び声が洞窟中に響く。

 肉の焼ける焦げ臭さが全員を覆う。


 やがて、大人オークの叫び声と命が洞窟内からなくなり、未だに泣きわめく子供オークのところにホープが向かう。

 そして、剣を振りかざすと、『ズシャッ』という鈍い音とともに、子供オークの鳴き声がやむ。


 その瞬間は反射的に目を閉じてしまって見ていなかった。


 しかし、子供オークの鳴き声がやむ瞬間が耳にこびりつき、見てもいない光景を何度も頭の中で再生する。


 何もしていない、疲れてもいないのに呼吸が荒くなるのがわかる。


 怖い。怖くてたまらない。相手が人間じゃなくてもこんなに怖いなんて。


 そしてはっきりわかった。これが、この世界の示す冒険家なんだって。


 相手が魔物であっても、命を奪う瞬間は残酷だ。下手したらトラウマになりかねない。

 誰だって平和に生きたい。汚れたものなんて見たくない。


 どれだけ都市や人々を守るための行為でも、皆んなの役にたっても、声援や応援ではこの恐怖は落ちないだろう。

 最初にゴブリンが焼け死んだ時を見た甘い自分とは、まるで違う。


 これが、死だ。


 3人とも、それを重々承知で冒険家をやっているんだ。タクマみたいに、つもりの覚悟なんかじゃない。


「終わったよ」

 静かに告げるホープ。

「タクマ、大丈夫?」

 コガネの心配の声に、

「……はい」

 なんとか答えた後、濁り切った空気を思い切り吸い、

「すみません、覚悟していたつもり……だったんですけど、甘かったみたいです」

 頭を下げて3人に謝る。

「気にしなくていい。最初は誰だってそうさ」

「情けない……です。自分の情けなさに……うんざりします」

 いつのまにか涙を流していた。


 これが、1番簡単な依頼。これ以上が沢山あるなんて、想像したくない。

「すごいシリアスな中悪いんだけど、子供のオーク、片方、まだ生きてるよ」

 マナが気まずそうに声をかける。

「あぁ、すまん」


 ホープが息がある子供オークに向かい、剣を振り下ろそうとしていた。


 頭の中が真っ白で考える元気がない。まだ頭の中では子供オークの鳴き声がやまない。もう怖くてしょうがない。


「待って!!?」

 その時、反射的に声を荒げていた。

「どうした?」

「僕が、やります!」

「でもー」

 マナが何か言おうとしたが、

「正直怖いです!甘い気持ちで依頼を受けたなと思ったのも本当です!でも!無理している訳じゃないです!なんか、僕もやらなきゃと思って……!」


 正直自分で何言ってるのかわからない。呼吸は荒いし、頭は回らないし。泣きじゃくって情けない。


 でも、ここでやらなきゃいけない。


 確かに、そう思ったんだ。


「わかった。トドメは任せたよ」

「はい」

 ゲイルから貰った剣を引き抜き、生きている子供オークの前に立つ。


 少しだけ唸っている。意識があるのかないのかの狭間の状態だろうか。


 これ以上苦しい思いはさせたくない。ただのエゴだが、せめてもの情け。


 手が震え、剣先が定まらない。

 だから、オークの喉元に剣尖を置き、さらに一呼吸置く。


 考えたり、念じたりするとますます怖くなるから、何も考えず、でも、子供オークのことはちゃんと見て、剣を。


 刺す。


 オークを刺した感覚がしっかりと手に伝わる。生き物を刺した鈍い、『グジャッ』という音も聞こえた。


 地面には今刺したオークの血が流れている。


 当然、死んだ魔物は粉々になって消えたりなんかしない。経験値にもならないし、宝箱も落とさない。


 これが、命を奪う感覚だ。

 恐怖しか感じない。


 しかしその瞬間、先程まで頭の中で繰り返されていた光景がピタリと止んだ。手の震えも収まった。


 それでも、涙は止まらない。

 吐き気も治らない。


 洞窟の中には、オークの泣き声は一切聞こえなくなり、代わりにタクマの泣きじゃくる声が響いていた。





 涙が枯れ、心が落ち着きを取り戻した頃合いに、一呼吸置き、涙をぬぐい、

「終わりました」

 と3人に告げる。


「あぁ、お疲れ様」

 優しい声で告げるホープ。

「頑張ったね!」

 マナも優しい笑顔で笑う。

「大丈夫?」

 コガネも淡白だが優しい心で心配する。

「はい、皆さんのおかげで……!」


 こうして、初めての依頼はなんとか成功で幕を閉じた。

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