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6話 申請

 おはようございます。

 ここは、一体。


 どっちを言うのが正解だ?


 見知らぬ天井があった場合はここは、一体の方がいい。

 でも天井は知らないけど、どこにいるかは知っているからおはようございますなのか。


 なんて超くだらない事を考えているうちに、扉の向こうから足音が近づいてくる。

「……」

 とりあえず起きてる事だけ知らせようとベッドから身体を起こすと、ゆっくりと扉が開いた。


「おう!おはよう!すまん、ノックしなかった」

 なんとなくまだ寝てたら申し訳ないという気持ちは伝わったが、寝起きドッキリかと勘違いしそうになる。

「い、いえ、全然大丈夫です。おはようございます。それよりここは一体?」


「ここは、俺らの家の2階の部屋」

 優しい声で答えるホープ。

 よかった、ここで「家」の一言だけとかだったどうしようかと… 。


 いやコガネじゃあるまいしな。


「昨日は泣き噦っちゃってすみません。それと、ありがとうございます」

 謝罪とお礼を同時にし、軽く頭を下げる。

「全然いいよそれくらい!それより下に降りてきな。今マナが朝食作ってくれてるから!」

 と言い残して部屋から去る。


「いくらなんでも優し過ぎでしょ……」

 今タクマはきっと行き過ぎた親切への苦笑いか、それでもなんだかんだで嬉しい微笑みかわからない妙な顔の引き攣りしているんだろうな。


 どうにかベッドから起きあがろうとするが、

「うわ……身体重っ」

 精神的疲労からなのか、マジで身体が動かない。

 いや違う、

「学生服のままじゃん……」


 明らかに全部この服のせいだ。結局、昨日1日学生服で過ごしていた。


 無理矢理身体を起こし、階段を下りリビングに行くと、

「は!おはよう!」

 キッチンで鼻歌を歌いながら料理をするマナの姿があった。

「おはようございます!昨日はありがとうございます!」

「いいよいいよ、それくらい!」

 緩い笑顔で両手を振るマナ。


「それより体洗ってきて、シャワー室そこにあるから」

「ありがとうございます!」

 そこがどこか分からないが、とりあえずリビングを出るこ、

「あ、おはようございま……?」

 後ろにいた女性が1つの部屋を指差して「ん」と一言。

「………」

 少しの沈黙の後、

「タクマ?」

「……あぁ、はい!ありがとうございます!」

 一言お礼を言い、指された部屋に入っていく。

「……コガネさんだよな?なんだあの爆発し切った寝癖」


 なんだ笑いよりも呆れがくる寝癖。


「というか……至れり尽くせりだな」

 既に中は着替えが用意されていた。色々言わなきゃいけないお礼が多いが、とりあえずシャワー浴びるか。





 リビングでは調理音とマナの鼻唄が響いている。

「いつになくご機嫌だね、鼻歌2階まで響いてるよ?」

 降りてきたホープが扉の前で佇む。

「まぁね!」


 満更でもなさそうな笑顔と声音のマナ。


「それにコガネもご機嫌だよ!」

 椅子に座っているコガネの足は、机の下で愉快に振れている。


「これだけ冒険家は優遇されているのに全然人が集まらない。だけど、タクマがが私達のパーティに入ってくれる。嬉しくなるのも当然」


 淡々と述べているが、相当嬉しいのかマナの鼻歌に合わせて小刻みに頭も揺れ出した。


「そうだな、みんなでちゃんとフォローしてなんないとな!そして今度こそ、守ってやらないとな……」

「うん」

 どこか懐かしさと悲しさを思い出し、ホープとコガネの顔が少し俯く。


 いつのまにかコガネの足は止まり、マナの鼻歌も止まっていた。


「こんな空気が漂っている事を一切気づかずに呑気にシャワーを浴びている新人がいるそうですよ?」

「「マナ……」」

「だってこんな重い空気嫌じゃん!忘れちゃいけないけど、ずっと思い詰めるのも良くないよ!」

 静まった空間に再び鼻歌が響き出した。


「すみません、ありがとうございます!」

「遅いぞ!」

 既に3人が席についており、タクマを待っていてくれたようだ。


「さて、4人揃った事だし、食べるか!」

 タクマが席についたところで声を上げるホープ。


「あの、聞きたいことがあるんですけど」

「ん、どうした?」

「この家って、どうやって買ったんですか?未成年3人買えるような代物じゃない気が?」


 絶対今心配する事ではないが、冒険家の給料や家のローンなど、いきなり広い家に暮らすとなると色々考えてしまう。


 いや前世なら一切考えなかったことだが、これから働く身だ。自分で考えなくてはならない事だ。


「私達冒険家は、人数が少なく貴重から優遇されている」

 タクマの質問に、聞こえる程度にボソッと呟くコガネに、

「この家もギルド、えっと、冒険家を管理しているところなんだけど、そこが用意してくれた家なんだ!」

 マナが続ける。

「勿論、家賃とか払わなきゃいけないけど、それでも俺達3人のお金の3分の1程度、要は1人分のお金で暮らせてるんだ」

 さらにホープ続ける。


 冒険家がどれくらいお金貰えるのか知らないが、この広い家、他の家の2倍くらいしそうなこの家が若者3人で払っていけるくらいには冒険家は給料が高く、優遇されているらしい。


「つまり……!」

「依頼料から天引きだから俺らにはわからんが、俺ら3人でどうにかなる程度の金で済んでるってことだ」

「成る程」

 正直全くピンと来てないが、3人で払えるくらいに格安になっているんだろうという一点だけは明確に理解できた。


 冒険家すげー。





 朝食を終え現在、都市の中心に位置する城にいます。

 昨日マナが言っていた“申請”を出す為に手続きをしている最中。


「はい、登録完了しました!これからタクマさんを“造花”の一員として認めます!」

 受付人の女性が言う。

「よっしゃ!改めてよろしくな!」

 ホープが差し出してきた手を取り、

「よろしくお願いします!」

 と一言言葉を交わす。


「あと、“造花”って何ですか?僕らのパーティ名ですか?」

「うん、そうだよ!いい名前でしょ!」

 マナが胸を張って答える。

「……」


 なんか、なんで造花なんだ。


「ん?どうした?」

「あぁいや、パーティ名が気になって」

「造花は枯れないから、私達の意志も」

 今度はコガネが胸を張って答える。


 うん、良いグループ名だ!


「ところで、この都市のパーティってどれくらいいるんですか?」

 と受付人に尋ねてみると、

「8パーティです。」

 即答でした。


 調べるまでもなく即答だった。


 少ない、少な過ぎる。2桁も行ってない。そんなに人気がない職なのか冒険家というのは。


「あれ、以外と多いね?てっきり5くらいかと思ってたよ!さすがネオン、優秀!」

 口を丸くして手をパチパチ叩くマナ。


 ってかいや多いのかよ。


 たった8グループだよ?全て3人の最小グループでも合計24人しかいないんだよ。人気ないなんてレベルじゃないよ。


「それはそうと、訓練所行こうぜ!タクマに剣を教えなきゃだしな!」

 声を上げ、張り切るホープ。


「おっけい!先向かってて、私達は着替えてから向かうね!」

 それだけ言い残してせっせとその場を去る女子2人。


「着替え?更衣室でもあるんですか?」

「あぁ、ギルドに所属している冒険家パーティは1人ひとりに小さな個室を用意してくれているんだよ。」

「まじかよ……」

 こんな大きな城に自分専用の個室が存在するって。どんだけ優遇されてんだよ、エリートかよ。


 ってか、これだけ優遇されてるのに不人気な冒険家って。


「さ!俺たちも行こうぜ!」

「へ?もう僕の個室あるんですか?」

「いや違うよ、訓練所!俺もタクマも剣士だから、今着てる服で充分だから!」

「まぁ、確かに?」


 鋼鉄の鎧とか着て全然動けない、攻撃が当たらない、よりはずっとましなのだろう。

 だとしても軽装過ぎる。言ってしまえば布切れ1枚の服。もうちょっと欲しい。


 そんなこと思っていると、

「おーい!早く行くぞ!」

「あぁ、すみません!」

 急いでホープに駆け寄る。





 訓練所に着いた。昨日行った場所とはまた別の場所っぽい。今回の場所は、THE 体育館って感じの場所だ。


 何でも訓練所は3つあるらしい。

 昨日行った魔法のための場所、今いる剣や槍などの前衛のための場所、そしてまだ行っていないチームで模擬戦をするための場所。


 たった8グループの冒険家のためにある施設。


 いや〜、優遇されてんな〜!


 そしてここの体育館的場所で魔法の使用は極力控えるようにとのことらしい。


「取り敢えず俺と戦ってみるか!一撃でも当てたらタクマの勝利でいいよ!」

 倉庫から持ってきた2本の木の剣の内、1本を受け取り、

「わかりました」

 取り敢えず剣を握った。取り敢えず握ったはいいけど絶対やばい。


 木の剣。


 ゲームや漫画じゃ最弱の剣扱いが多いけど、人間のどの部分より硬いのだ。当たったらひとたまりもないだろう。


 絶対超痛い。


 出来ることなら当たりたくないな〜、なんて苦笑いし構えるが、

「よし!どこからでもかかって来な!」

 ホープは非常に真剣な表情で構えていた。


「……」

 というか本物の武器を本気で振りかざす勇気なんて持ち合わせていない。


 特に最初は抵抗がやばいし、本気で振るって考えるだけで手が震えそうだ。


 なんか冒険家が人気のない職って理由がわかった気がする。


「大丈夫だ。剣道やってたし、その感覚でいけば。怪我しない程度に当たるだろう」

 なんて浅はかで生ぬるい考えは一瞬で捨てることになった。


 軽いステップを踏みながらホープに近づき面をつき1本取るつもりだったが、簡単にあしらわれた。

「まじか、本気で振らないとダメか……!」


 すかさず胴に向けて剣を“本気で”振るが、これも防がれる。しかもまた片手。


「今、本気でやったんだけど……」

 なんかすんごい悔しい。


「片手で持った方がやりやすいよ!」

「片手、ですか?」

「あぁ、両手で持つのは槍か重い武器くらいだ。こうゆうあまり重くない武器は片手で扱った方がやりやすいよ!」

「わかりました」

 そうだよ、ここは異世界。


 元いた世界の考えが通用しない世界。剣道感覚でやるのはやめよう。そうだ、僕はゲームの中の剣士だ!


 1度深呼吸をして、ホープに向かって走り出す!

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