68話 ユグドラシル
「えっと、ユグドラシルってなんですか?森の神とかですか?」
「そうよ」
「さいですか」
適当に言ったが、当たってしまった。
「全ての植物の神、の方が正しいかな?ここだけ妙に木々が密集して森になってるのは、ここにユグドラシルが眠っているから」
「……」
確かに、ネオンの南も砂地だし、ネオンに被さる森の一部にも存在するゴツゴツした岩地。
ネオンの北の平地はなんとか緑があるが、もしも森がなかったら、ネオンは砂漠の国になっていたかもしれない。
「でも、ユグドラシルを起こすために、なんで魔物をちまちま操ったりなんかしてるんですか?」
「そうだね……例えば、タクマが学校で嫌がらせをのような偶然で、大事なものが壊れたとするよ?」
「はい」
大事なものとは結構フワッとしているが。
「もし、毎日毎日大事なものが偶然、まるで本当に嫌がらせのように続いたらどうする?」
「それは……いやですね。大事なものによりますけど、最悪不登校になりますね」
まぁ2年前のタクマなら
「貴様は私を怒らせた」
とか言っているだろうが……。
「ってなんで僕は今自ら黒歴史掘り返した?」
「ようはそうゆう事!彼らはユグドラシルの寝床にちょっかいかけて、怒らせようとしてるの。どんなに些細な出来事でも、鬱憤は溜まっていくからね」
「なんかすげー理解できました。出来たけどそれでいいのか神様よ……」
神様にもネチネチした嫌がらせは応えるんだな。
「自然の生存競争ならまだしも、無理に争いを引き起こして、封印が緩むのを待っているんだよ」
「封印……ですか?」
「そう、封印を解くには、ユグドラシル自身の力を増幅させて、外から封印を解きやすいようにする必要があるんだ」
淡々と語り出したが、そんな大事な事を話していいのだろうか。
そんなタクマの心内を見透かしたように、
「大丈夫だよ、こんな事にならない限り、本来封印の場所なんて特定出来ないんだから」
しかし「こんな事」が現状起きてしまっている。
「それを阻止するために、元凶の2人を始末してほしいのね」
ずっと黙って聞いていたコガネさんが結論を述べた。
「そうゆうこと。ユグドラシルが目覚めたら止める方法ないから早急に見つけて殺ってほしい」
一刻を争うのか、まだまだ時間があるのか、それすらもわからないが、対処は早いに越した事はない。
「というかこの世界の神様活発過ぎません?普通見守るとか姿を見せないとかでしょ、ドライアドさんといいガイアといいユグドラシルといい…」
神様って言葉に価値が無くなりそうな世界だ。
「そんなのどうでもいいから!毎日森のどこかに現れてるし、明日には戦うことになるはずだから、しっかり準備しといてね!」
「わかった、また明日」
依頼書をコガネさんに渡し、
「本当に、頼んだよ」
ドライアドさんの強張った声を背に、3人はギルドを出た。
その直後、
「タクマ、本当にこんな無茶いいの?」
コガネから妙に強張った声で尋ねられら。
どれだけ感情がこもっていても、フワッとしている聞き方がコガネらしい。
そして、この質問の意味も、コガネらしい。
「よくないに決まってるじゃないですか!このまま依頼始めたら僕もコガネさんもシルフィも多分死にます!僕はまだ死にたくないです!」
そう、そもそもこの依頼は臨時パーティじゃなくて造花に対する依頼。
ドライアドが造花にしか頼めないと言っている以上、実績信頼正義感より、強さをとっているのは明白。
造花は、ホープとマナがずば抜けて強いだけ。
タクマとコガネが弱いと言えば大嘘だが、恐らくこの依頼をこなせるほどの実力は持ち合わせていない。
「でも、以前コガネさんはこうゆう無茶とかタブーを通して2人を動かしたんでしょ?なら、テコでも動かない2人を似たような方法で動かすしかないじゃないですか?」
不名誉なことに、このやり方で3人はリラの死を乗り越えたのだ。
「案外、誰でも思いつくやり方ですよ!やる勇気がないだけで」
子供が親に目を惹かせるには、悪戯や怪我のように、人的被害があるものが相当効果がある。
それが、命に関わることなら尚更。
「タクマ、意外と悪だね」
「悪知恵だけ回るみたいなレッテルだけで勘弁してください」
軽口を叩くくらいには心に余裕がある。
しかし、横から聞こえるシルフィの鼻歌には、それ以上に余裕を感じられた。
「シルフィごめん、巻き込んでしまって……」
「ん?いいよいいよ!私は死にかけても逃げ切れる自信あるし!」
成る程、タクマは死ぬかもしれないという前提で話していたが、シルフィはそもそも死ぬ気がないんだ。
「この妖精生意気だから置いて行かない?」
「どこが生意気なんですか……ってかダメですよ!シルフィも立派な戦力です!」
◯
「ただいま」
何も悪い事してないはずなのに、家の中には息苦しい静けさが漂っていた。
しかし2人はいなかった。
「僕らも意外と気が滅入っているんですかね?」
あまり自覚がしていないが、普段からしっかりしているホープや、天真爛漫なマナが、こうも感情を面に出して怒る光景は、2人にも刺さったようだ。
「……」
特にコガネは当事者なわけだし、強がっているように見えて、今は誰かにもたれていないと倒れてしまうかもしれない。
「よし!」
「どうしたの?」
両手でほっぺを叩き、気合を入れた。今はタクマがしっかりしないといけない。
「コガネさん!」
「?」
「少し遊びに行きませんか?」
「両手でほっぺ叩いて気合入れた矢先に、それ?」
「……」
まぁ確かに、なんか違うよな。
「マナさんともホープさんとも出かけた事あるけど、コガネさんとどっか行くことないなって思いまして、今親2人いませんしどうせなら」
言い訳がましい言い方になってしまったが、別に嘘はないし、色恋的な感情もないし、子供っぽく笑って言ってみた。
「たしかに、いいよ」
特に感情の起伏なく、考える事なく即答してくれた。多分タクマの思った事全部伝わったのだろう。
「じゃあ、楽器屋行こう」
「いやです、世界樹見に行きましょ」
「………わかった」
やけに長い沈黙があったが、
「シルフィ、案内お願いしていい?」
「勿の論よ!」
特に気にせず歩き出した。
「世界樹ってどこにあるの?」
意外と興味があるのか、コガネさんから話題を振ってきた。
「町の端っこです!妖精の許可がないと見れないらしいですが、今はシルフィがいるので!」
「イエス!見せちゃうよ!世界樹!」
早く見せたいと言わんばかりにどんどん進んでいくシルフィ。
「???」
対してコガネさんはこいつら何言ってんのみたいな表情をしている。
まぁ今の言い回しだとそうゆう反応になるよね。
「まぁ行けばわかります!」
◯
「これが世界樹だよ!観れるなんてレアだよ!」
なんでもない会話をしながら、いつのまにか町の端まで辿り着き、ちゃんと世界樹隠しの魔法は抜けたようだ。
「……」
そんなレアな世界樹を、コガネはじっと見ている。
そして、
「なんで埋まってるの?」
第一声がそれですか。
でもまぁ、そうゆう反応になるよね。
「ドライアドさん曰く、地上に創ったら養分全部持ってかれちゃうから!らしいです」
くそ似てない声真似を使って説明した。
「似てないけど納得」
「でも、そろそろ地上に出すらしいですよ?」
「どうやって?」
「さぁ?」
「無知」
「うざ」
タクマとコガネの2人の空間になると口数はかなり少なく沈黙も多いが、どこか居心地の良さを感じていた。
「なんかいいね2人!気のおける仲って感じがする!」
シルフィは2人のやり取りに目を輝かせていた。
「まぁこんな風に話せるのはタクマしかいない」
優しい風に髪を揺らしながら、緩い声で返した。
コガネもそれなりに居心地の良さを感じているみたいだ。
そんな雰囲気をぶち壊すように、
「あれあれ!コガネさん、もしかしてツンデレですか?そうゆうキャラで攻めるんですね!」
タクマはジト目でコガネさんのほっぺをつついた。
その瞬間、コガネが杖を取り出し、タクマの足元に魔法陣を生成し、
【音の魔力よ、その重さを持って憎き、憎き、憎っくき敵を潰せ、ぺサンテ】
「痛っ!?ギブギブ!?」
詠唱を唱え、タクマを地面に叩き潰した。
「絶対許さない、末代まで恨む」
「末代の意味わかってますか?!」
そんな2人のやりとりを見て、
「本当に仲良いね!羨ましい!」
本当に羨ましそうに呟いた。
この状況で微笑めるシルフィも相当だよな。




