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4話 冒険家

「本当にいいのか?」

「はい、絶対魔導師にはなりません!」

「いやそうゆう事じゃなくてだなー」

「もう決めた事です!」

「いやだからな」


 たとえホープになんと言われようと絶対に意志は変えない。魔導師になったら2度目の人生も即終了したいくらい気持ちが落ち着かなくなりそうだ。


「勿体ない」

 コガネは余程残念なのか、あからさまにしょぼくれている。

「折角全属性適正だったのに剣士になるなんて〜、なんでぇ、ねぇどうして?」

 マナはマナで駄々っ子みたいなことを言っている。

「いや俺が気になるのはそこじゃなくてー^_^

「色々教えて下さったのにすみません。でも、魔導師はちょっと……」

 申し訳ない気持ちが凄いが、心の安全の方が優先だ。


「いやマナもコガネもちょっと待てって!」

 慌ててホープが2人を止めようとするが、

「いいじゃん、タクマ君が剣士になるって言ってるんだし!」

「いや絶対話噛み合ってないから落ち着けって!」

 マナとホープの言い合いが気にならないほどえげつないショックだけど、腐っててもしょうがない。


 それでも多分数日は凹む。


「って今どこ向かってるんですか?」

 そういえば行き先を聞いていない。

「鍛冶屋」

「あぁ、武器か」

 不貞腐れたコガネの一声で全部察した。ついに本物の剣に触れる事ができるのだ。


「結構、楽しみかも」

 鍛冶屋はゲームやアニメによってまちまちなので、結構楽しみである。


「うん。新しい防具買いたいし」

 どうやら防具も売っているらしい。


「私はそろそろ杖買い変えないとかな?どうせなら特注品頼もっかな!」

 どうやら頼めば作ってくれるらしい。


 欲しいものを本人の希望で作ってくれるのは、ゲームの世界とは圧倒的に違いそうだ。


「あとタクマ君は、その格好も何とかしないとね!」

 タクマの服を摘んで話すマナ。

「不思議な格好」

「あはは……ですね」

 確かにこの服は何とかしなければいけない。なにせ学生服だ。早く着替えたい。


 それにあまり意識していなかったが、かなり浮いている気がする。


「やばい、意識しだすとだいぶ恥ずかしい」

「大丈夫!ちょっと特徴的な服だけど気にしすぎる方が不自然だし!普通に歩いてれば問題ないよ!」

 マナが色々察してフォローを入れてくれたが、一度意識し出すとそうはいかなくなってしまうものだ。


 とはいえ多少気持ちは楽になった。


「さっきから色々ありがとうございます」

 マナにお礼をすると、

「全然いいよ」

 何故かコガネが答えた。


 あんたじゃないって突っ込みたいが、コガネにもお世話になったのも事実だ。


「うん!!3人とも本当にありがとうございます!」

 もう勢いで、半ばヤケクソだったが全員にお礼を言った。


 3人は顔を見合わせると、嬉しそうに笑い出す。見てて凄い和む。


 なんかこっちまで嬉しい気持ちになった。


 あの時行商人を守ってくれたお礼、と続けて言ってくれたが、間違いなくそれ以上のものを貰っている。


 いつになるかわからないが、いつかこの恩はちゃんと返したいものだ。





 そうこうしているうちに目的の武具店に到着した。2階建てで白壁に黒ドア。

 両サイドに窓、看板は『weapon shop』と書いてある。

 タクマの想像する武具店とは大きく外れ……って

「『weapon shop』兵器店!なんて物騒な名前!?」

 もうちょっとなかったのか、外装と名前のギャップが凄い。


「やっと着いた」

 淡白な口調だが、声音の中から「歩き疲れた」と聞こえてきそうだ。


「タクマ、本当にいいのか?」

 ホープは先ほどから何か心配そうだが、

「何がですか?」

「……まぁ後で話すよ」

「……?」


 後で聞けるならいいかと流し、武具店の扉を開けると、

「らっしゃぁせぇ!!」

 と、ゴツい声が店内に響く。


「こんにちは、ゲイルさんお久しぶりです!」

「お久しぶりです」

「お久しぶりです!」

 軽く頭を下げるホープとコガネとマナ。


「おぉ!久しぃな4人と……も?4人?」

 とタクマを見て、しかめっ面になる店主。

「初めまして、タクマと言います」

 簡単に自己紹介を済ませると、

「おぅそうか、お前がタクマか、俺はここの防具店の店主のゲイルだ!よろしクゥ!」

 いかつい声で自己紹介してくれる店主のゲイルさん。


 外装に似合わず、内装は結構イメージ通りの武具店。木の壁に飾られる剣や槍や杖など。

 そして商品棚には小道具など。


 そしてゴツい声にゴツい体格の店主。


 うん!良い店だ!


 初めて予想通りのものを見た気がする。


「で、ホープさんよ、タクマはお前んところの新入りか?」

「違いますよ、説明すると長いのですが、ちょっといろいろあって同行してます」

「そうか、まぁ、ゆっくり見てってなぁ!」

 それだけ言い残し、カウンター奥の扉に消えていった。カッケェ!


 コガネは挨拶した後一目散に2階に行ってしまった。


 マナ曰く1階が武器、2階が防具が揃っているらしい。





 とりあえず1階を一通り見て回ったが、本当に凄い。まさに理想的な武具店。


 数はそんなに多くないが、シンプルな武器から派手っ派手な武器、大きな鞄や、マナも使っていた杖やホープの剣など。


 しかしコガネのあの武器は見つからなかった。特注なのだろうか?

「ってあんな白い棒置いてあってもな……」


「そういえばちゃんと聞いてなかったけど、タクマ、本当に冒険家になるつもりなのか?」

「冒険家?」

 聞き覚えのある単語だが、この世界では初めて聞く単語だ。


「やっぱ説明してなかったか……」

 頭を抱えるホープ。

「あはは、やっぱ説明しないとだね。有名だけどちゃんと知っとかないといけない職業だし……」


 知っとかないといけない、どういう事だろう?


マナの表情の曇り具合を見るに、あまり説明したくない事だろうというのは想像つく。


「そうだね、もし本当に冒険家になるならちゃんと内容は知っておいた方がいいしね。1人じゃ出来ない仕事でもあるし」


「冒険家っていうのは、多分タクマが想像している通り、依頼を受けて仕事をするものだよ。物探しみたいな都市内での仕事、護衛や魔物退治みたいなの都市外の仕事まで幅広くやっているんだ。都市内の仕事はぶっちゃけないに等しいな、自警団がいるから冒険家がいなくても対応が追いつくし」


 ホープが一区切り説明し終えた後に、

「問題は都市外の仕事だね、都市外の仕事は今言った通りの護衛や魔物退治なんだけど、うーんとね……えぇっと……」

 マナが説明を続けようとするが、相当歯切れが悪い。

「いいよマナ、俺が全部説明するから無理するな」

「ごめん」

 2人とも少し寂しそうな表情をしている。


「男子からしたら明らかに人気がありそうな職業ですよね?剣や魔法を派手に使う職業ですし?」

 と問いかけてみると、

「確かに男子からしてみれば一見、夢の詰まっている職業だな。幼い子供は特に冒険家になりたいって言う子が多いらしいし」


 武器を持って大地をかけて戦うのは、この世界でも憧れの的になるらしい。


「でも実際、最初から魔物と渡り合える剣士は一握り程度、実践を積んで強くなろうとしても、その実践が常に死と隣り合わせの状態。それに、弱い魔物の殆どは集団で行動する魔物ばかり。1対1で勝算があっても、1対1の状況なんてまずありえない」


「魔法だって同じ。魔法の発動は魔力は当然、説明した通り絶対に魔法陣と詠唱が必要なの。でも、誰だって最初は魔法の出し方がわからない。タクマ君がそうだったように。仮に魔法が使えるようになっても、緊迫した状態で瞬時にイメージと詠唱が両立できる初心者なんていない」

「……」

 今の2人の話には思い当たりがある。3人と出会う前の、4体で行動するゴブリン達と遭遇したのがつい数時間前の出来事だ。


「それに魔法陣が生成出来たとしても、詠唱して魔法を撃つまで絶対に時間がかかる。その間にやられちゃうね」

 付け加えるように続けるマナ。


「だから、ギルドが最低でも前衛2人と魔導師1人の3人1組以上のチームを作らないと冒険家になれない規定を定めた。1人で突っ走る人を無くすため、少しでも生きて帰って来られるため。それでも、即席で組んだチームが連携なんて出来るはずがない。だから、弱い魔物の集団でもすぐにやられちゃう」


 2階から降りてきたコガネが付け加えて説明する。


「1人じゃ出来ない仕事って、そういう事なんですね……」

 1人だとあまりに危険過ぎるから、みすみす死にに行くようなもの。

 だから絶対に、誰か3人と組まなきゃいけない。


 正直考えもしなかった。冒険家が人気のない職業ってことも、冒険が、はたまた依頼が内容次第では非常に危険なものだなんて。


 この世界の冒険家は遊び感覚でできるものじゃない。


 ゲームみたいにステータスがなければ、死んでも復活出来るリスポーン地点もなく、親切に待ってくれる敵もいない。


 最強主人公みたいな強力な力があっても詠唱が必要不可欠で、ガンガン魔法が撃てるものでもない。


 ようやくちゃんと理解した。ゴブリンを倒してもらった後、コガネが勇敢な行動と称えた理由。


 冒険家でもない人が身を呈して商人を守ろうとした行動。

 自分の命より他人を優先するなんて、確かに勇敢な行動だろう。


「そう……ですか」

 そう答えるのが精一杯だった。


 凄く空気が重くなっているのを感じる。


「なんかゴメンね、魔力が凄いって理由で連れてって、無理やりいろんなところ周らせちゃったかな?」

「いえ、そんな事ない、です……」

 空気の重い沈黙が続いたが、

「でもまぁ、やりますよ、冒険家」

「「「え!?」」」

 綺麗に3人の声が揃った。


 確かにかなり甘い気持ちだった。死と隣り合わせで人気のない冒険家に、転生特典も黒歴史を思い出させるような物だし、もう予想外だらけで意味がわからない。


 例え甘い考えでも、誰かの為に戦うなんて、カッコいい。

 不純な動機でも、真っ当にやれば胸を張れるのではないか。


 それに続けていく内に、もっといい理由が持てるかもしれない。


「本当に辛い職業だけど、いいのか?」

 言葉と裏腹に明らかに嬉しそうに聞き返すホープ。

「勿論です!よろしくお願いします!」

「よかったぁ〜、もう絶対冒険家にならないかと思ってたぁ〜!」

 安堵からか、胸を撫で下ろすマナ。

「そんなに喜ぶ事なんですか?」


 説明聞く限りでは確かにヤバそうだけど、それでもロマンを追う男子は多そうだと思うのだが。


「当然。冒険家人口はかなり少ない。だから新米でもベテランでも1人ひとりか貴重」

 相変わらず淡白な口調のコガネだが、明らかに嬉しそうな声色だ。


「そうか、あんたも冒険家になるのか。気をつけな!」

 店主が扉の奥から出てくる。


 そして、

「そんな新米冒険家にささやかながらプレゼントだ」

 店主が1本の剣をタクマに差し出す。

「へ!?いいんですか!?」

「構わないよ。新米冒険家の誕生記念と、弟を助けてくれた礼だ」

「弟ですか、助けた記憶がないのですが……?」


「商人をやっている弟だ!今日襲われたところをあんたらに助けて貰ったって聞いてな!4人いたって言うもんだから間違いかと思ってたら、あんたらがこいつを連れてきたもんで、すぐにわかったよ!」


「あの人のお兄さんの!確かに似てる!?」

 今になってようやく気づいた。すげー似てるわ。図体や目つきが特に。


 どおりで3人がお礼お礼言う訳だ。当然3人は知っていたんだ。助けた商人が店主の弟だってことを。


「だからその礼もしなきゃいけねぇから、受け取ってくれ」

 力強い目でタクマを見る店主。

「わかりました!ありがとうございます!」

 と礼をし、剣を手に取るタクマ。

「……あれ?」

「どうしたぁ?」

「いえ何も!」

 見た目以上に軽かった。もっとズシッとくるものかと思っていた。


 腰にかけるにも背にかけるにもできないため、両手でしっかり握りしめる。


 誰でも想像出来るような、両方に刃があるシンプルな形の剣。

 しかし刃は鋭く、剣身を見ると鏡のように自分の顔が反射している。


「ありがとうございます!大切に使わせてもらいます!」

 と再び店主に頭を下げてお礼を言う。

「気にするな、頑張れよ!」


 他の3人の買い物も済ませ、武具店を後にした4人。結局2階に行くことはなかったが、また来るだろう。


 気づけば空は暗くなっている。結構武具店に長居していたらしい。

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