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19話 vsワーム


「いた……」

 タクマが木陰に隠れ小声で呟く。


 蛇、というより深緑のミミズのように見える。顔にはエリを巻いていて、目を閉じていてもわかる、流石ドラゴンの子と言うべき鋭い顔つき。


 寝ているのか知らないが、微動だにしない。


 バレないように気配を消す3人と、気配の消し方がわからないから必死に息を止めるタクマ。


「デカすぎだろ……」

 思わずといった感じで呟くホープ。

「あんなに成長しているのに気づかなかったなんて」

 コガネも思わずといった感じで呟く。


「今見つけてよかった!ドラゴンになったら厄災物だからね!」

 笑いながらも警戒するマナ。


「ドラゴンになったらどれくらい不味いんですか?」

 必死に声を届けようと小声で叫ぶタクマに、

「ワームがゴブリン1匹なら、ドラゴンはホープくらいの強さかな?」

「分っかりやすい例えありがとうございます」

 マナのわかりやすすぎる例えでなんとなく察した。


 要は、もう手がつけられないということだ。


 なぜ気付かなかったのか不思議なくらい強大な魔力。なぜバレなかったのか不思議なほど巨大な体。かなり不可解だ。


 が、そんな事を考えるのは後だ。


「これ、僕逃げた方がいいですかね?」

 逃げたい訳では無いが、足手まといにしかならなそうな感じがする。

「いや大丈夫、一気に終わらせるつもりだから、戦えそうならここに残っても大丈夫だ」


 つまり、夢うつつなワーム程度なら、タクマが手を出してもギリギリ大丈夫という事。


「分かりました、足引っ張らないよう気をつけます」


 非常に怖いが、身体は震えていない。自分の恐怖と上手く向き合えている。


「魔法は殆ど効かないからマナとコガネは足止めや陽動、俺ら2人でとにかくどうにかする、いいな」

 作戦とも言えない作戦を伝える。

「うん!」

「うん」

「はい!」

 3人の返事が揃ったところで、

「でもタクマは無理するな。特に今回は、俺らから見ても異例な大きさだから、俺の予想してる強さより強いかもしれない。だから、やばいと思ったらとにかく逃げろ。絶対逃げろ」


 ホープはタクマに念押しするのを忘れない。


「足手纏いになりそうならすぐ逃げます」

 そしてワームとの戦いがが始まる。





 意気込んだが、だいぶ姑息な手段で戦闘開始だ。


 ワームのエリと、身体の間に斬撃を叩き込んで、怒ったところをマナとコガネで動きを止め、タクマとホープが隙を見て一気にトドメを刺すという、とても冒険家がやりそうにない悪質な手口である。


 本来ならこんな事しないが、今回は最初にこれくらいやっておかないとタクマ込みでの戦いに勝ち筋がないらしい。


 かなり成長したとはいえ、幼虫ですら最初の奇襲が必要なのだ。


 ドラゴンが相手だとどうなっていたことやら。


「じゃあ、いくよ!」

 ワームの上に乗ったホープが雷を帯びた剣を突き立てる。


 こうゆう時の為の無いよりマシの力だ。


 雷の力を剣尖に込め、エリと胴の間に突き刺す。

 雷の魔力は遮断されるが、それも表面まで。身体の内側はちゃんと脆く、傷付いた隙間から、雷の突きの威力はワームを貫通する。

「!!?」

「よし!」


 ホープは急いで離れ、ワームが暴れ出す。

 マナとコガネが詠唱を唱え出す。


【火の魔力よ、捲き上る黒煙で敵の視界を塞げ、スモッグ】


 マナの詠唱で、ワームの顔に黒煙が立ち込め、


【音の魔力よ、急激にリズムを崩し、敵の速度を落とせ、リテヌート】


 コガネの詠唱で、ワームの行動速度が徐々に遅くなる。

「急いで!あんまり長くは持たないよ!」

「わかりました。マナさん、コガネさん!いつでも行けます!」

 マナとコガネに合図を送るタクマ。


 そしてマナが再び詠唱を唱える。


【風の魔力よ、その力で彼を空の世界へ誘え、フライ】


 タクマの下に生成された魔法陣から出た強烈な突風で空に打ち上がる。


「やばい!体勢が!」


 空中で足掻くが全く整わない。


「落ち着け!ゲームなら、アニメの主人公ならどうする!考えろ考えろ考えろ考えろ!」


 やがて勢いがなくなり、頂点に達する直前、

「これだ!せい!」

 下に向かって風の力を纏った剣を一閃し、無理矢理体勢を整わせる。

「よし」

 まさか上手くいくとは思わなかったが、今はとにかく、

「コガネさん!!」

 下にいるコガネに合図を送る。


 そして、


【音の魔力よ、進むたびに強くなるその力で、その一矢を極限まで高めよ、クレッシェンド】


 コガネの詠唱が聞こえた直後、


「せぇぇい!!」

 風の力を纏った剣でワーム目掛けて一突きする。


 クレッシェンドの効果のおかげで、距離が増す程に力が増す。


 スモッグのおかげでこちらの攻撃には気づかない。


 地上の3人のお陰で空は完全に死角。

 遮られる木々も存在しない。

 放った突きは勢いを増し、ワームに直進。


 そして、

「!!!」

 ワームに巨大になった突きが刺さる。

 身体をピクピクさせるだけで動く元気はなさそうだ。

「やった!」

 空中でガッツリポーズするタクマと、

「よし!」

 下でガッツポーズするホープ。

「やった〜!」

 マナも飛び跳ねる。


 本当に一瞬で決着がついた。


 しかし、

「え、待って、これ、どうすんの!落ちる!」

 勢いそのままで、その後を全く考えていなかった。

「あはは!頑張って!」

 マナは下で笑っており、

「大丈夫、受け止めるから」

 コガネは下で魔法陣を生成している。

「安心して落ちてこい!」

 ホープまで悪ノリ気味だ。

 完全に勝利の余韻に浸っている。


 思ったより呆気なかった。


 そう思っていたのがいけなかったのだろう。

 誰もが全員完全に油断していた。


 仕留めたと思っていたワームが、空中のタクマに向けて尻尾を振るい、はたき落とす。


「な!タクマ!!」

 思わず叫ぶホープ。

「嘘!まだ生きてる!?」


「なんで、あんなの喰らって生きてるなんて……」

 思わずワームに振り返るコガネ。

「!!!」

 血だらけの体を畝らすワーム。

「マナ!コガネ!2人は急いでタクマの治癒に当たれ!」

 2人に急いで指示を出すホープ。

「でも、ホープは,」

「俺1人でどうにかする!時間稼ぎくらいは出来るから、早くしろ!」

 と動揺するマナに叫ぶホープ。

 そして、ワーム相手に、たった1人で牽制する。


【音の魔力よ、途切れなく続く力の負荷を減らせ、スラー】


 ホープに魔法をかけし、急いで倒れているタクマに駆け寄るマナとコガネ。


「タクマくん!」

 焦るマナ。


 叩き落とされた衝撃で地面に窪みが出来ており、タクマは血だらけ。


 しかし、

「大丈夫、まだ死んでない、とにかく回復を急ごう。」

 と焦りながらも冷静に話すコガネ。


【治癒の力よ、その安らぐ暖かさと強大な癒しの力を持って、愛する友を救いたまえ、ハイパーヒーリング】


【音の魔力よ、その音色を繰り返し、再び同じ音を響かせよ、リピート】


 マナの回復魔法、コガネの音楽の魔法を使い、何度も回復を繰り返す。


 傷は深い。魔法が強力なだけあって1回1回の回復のペースは早く、確実に回復していっている。

「コガネ、ホープのサポート行ってきな、タクマは私が見てる」

 心配そうにホープを見るコガネに声をかける。

「うん」

 コガネは簡単に返事をして立ち去る。


「マナ、タクマを呼び捨てにした」

「コガネだって呼び捨てじゃん?あ、でもコガネには本命が……って痛い!」

 マナの頭を叩いて、そのまま行ってしまった。


 重い空気を蹴っ飛ばしてくれた。


「もう大丈夫だよ、ごめんね、無理させちゃって」

 意識が戻らないタクマに話しかけるマナ。

「私たち、また同じミスするところだったよ……」

 泣きながら、虚しく呟く。





「ホープ!」

「コガネ!タクマは!?」

「マナが見てくれてる。もう大丈夫、それより」


 先ほど怒り狂ったワームは既に瀕死だ。


「時間稼ぎ……?」


 時間稼ぎどころか、ホープに怪我はなく、一方的にだったのが目に見えて分かる。


「もう死にかけだ。トドメを……」

「ダメ。痛めつける」

「コガネ、俺らのミスでタクマが危険な目に合ったんだ。これ以上生かしておいてもまた被害が出るかも知れない」

「……わかった」


 納得していない様子だが、諦めた。


【氷の魔力よ、天より落ちる巨大な氷柱で敵を貫け、アイシクル】


 コガネが詠唱を唱え、ワームの頭上から巨大な1本のつららが落ちてくる。

「……」

ワームは喚く事なく息絶えた。

「終わった」

「お疲れ」

 ホープとコガネがワームを討伐した。


 タクマが意識を戻した時にはワームとの戦いが終わってすぐだった。

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