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1話 ファイアボール

 光が止み、意識が引き戻された。


 恐る恐る目を開くと、目の前には広大な草原が広がっている。

 奥には円形に発展した、王都を思わせるような巨大な都市。

 後ろを向けば、鳥の鳴き声やよくわからん生物の呻き声響く壮大な森林。

 左を向けば小川が流れ、その奥は、落ちたら最後の断崖絶壁。

 右を向けば街に向かうために灰色のレンガで整えられた道。そこを森林方面に馬車で駆ける行商人と荷台。


「うぉ…異世界だ、マジですげぇ……!」

 幾度かアニメやライトノベルで読んだ事あるけど、いざ自分がこっちの立場に立つとありえん興奮する。


 自分が転生の立場はゴメンだとか言ってたくせに、非常に都合がいい男である。


「これは…無双劇開始か?なにせ…魔法への適正最大だっけか。とにかく今の僕はチートモードだ。しかも3年ちょい剣道もやってたし、剣技もそこそこの筈だ!」


 さっきまで泣き喚いた癖に、その事を忘れて浮かれに浮かれまくる青年がそこにいた。


「うわー!!助けてくれぇぇ!!」

 右から悲鳴。反射的に振り返ると、さっきの馬車が襲われてる。

「めちゃテンプレな展開、マジ待ってましたよこの展開!」

 喜びながらも謎の人型生命体、恐らく魔物でゴブリンに襲われている行商人を助けるべく馬車に向かって走る。


「おじさん、大丈夫ですか!?」

 馬から落ちたおじさんに必死に声を駆ける。見たところ擦り傷や切り傷と、転落だけではつかない怪我が幾つかある。

「だ、大丈夫じゃよ。それより…荷物が!」

 自分より荷物を心配する商人。

「あの荷物はこれから…王都に運ぶもの…なのじゃ。だから、ゴブリンなんぞに…奪われる…訳には……」

 仕事への熱意を残したまま気を失った。


 森に潜んでいたゴブリンに待ち伏せされて襲われたのだろうか。


 いやそんな知能あるのだろうか。


「って考えるの後!」

 どう考えても助けるのが先だ。

「ここにいるゴブリン…だよな、全員追い払えばいいのか!どうせなら魔法を使って追っ払ってやるか!」

 馬車を襲っているゴブリンは4体。今は僕を警戒して荷台を襲う気配はなく、しかも4体全員固まっている。

「これはチャンスだ!初めての魔法、威力や範囲など諸々の確認込みでゴブリンに撃ってみたい!」





「せっかくだけど、一気に行かせてもらうよ!」

 某魔法少女のセリフ言い放ち、右手をゴブリンの方に向け、

「行くわよ!ティロ・フィナー…」

 馬鹿か。落ち着け。まだ死にたくない。


 というかふざけている場合じゃない。


 チュートリアルとは言え、命の危機を遊びで済ませるな!

 もう一度!


「喰らえ!ファイアボール!」

「……」

 しかし何も起こらない。

「あれ?おかしいな?」

 首をかしげる青年と、地面に棍棒叩きつけて威嚇するゴブリン4体。


「今度こそ!ファイアボール!」

「……」

 やはり何も起こらない。


 おい魔法が発動しないんだが?


「はっ、そうか、頭の中でイメージしないといけないんだ!考えるんだ僕、イメージするんだ僕、ファイアボールを撃つんだ僕!」

 イメージは出来た。ゴブリン目掛けて手の平から放たれる炎の塊。


 目をカッと見開き再び言い放つ。


「喰らえ!ファイアー!ボール!!」

 そして突き出した右手の前に火が集まり、やがて火が球状に回り出し、バスケットボール並みの大きさになったところで、4体のゴブリンに向かって一直線に火の玉が放たれ…!





 なんて事にはならずに何も起こらない。


「なんでさぁぁァァ!!魔法適正最大じゃないの!!?おかしいよぉぉぉ!!ファイアーボールー、サンダーストーム、グレェトバリアリィフ!なんで何も起こらないのさぁぁ!!」

 そこには打って変わって喚き叫ぶ青年がいた。


 ずっと警戒していたゴブリン4体。しかし相手が他愛もないと分かったのか元気になり、挑発気味に襲いかかってきた。

「まずッ!?」

 咄嗟に商人に覆い被さり、身体を丸くする。

 転生した矢先にこれか!そんな事考える間もなく僕の今世は終わりを…


【ファイアボール】


 右側から球体の炎の塊がゴブリン目掛けて飛んでくる。


「「「!!?」」」

「……え?」

 思わず身体を起こして悲鳴の聞こえる方を見ると、ゴブリン4体が炎に包まれていた。

「……いやこれ僕じゃない…よな?」


「そこの君、大丈夫かい?」

 腰に剣を差している男性が青年と商人に駆け寄ってきた。

「おーい大丈夫かい、君?」

「……」

「そこの君!生きてる?」

「……あぁ!はい、大丈夫…です?」

 焼けるゴブリンに釘付けになっていた。


 感動と混乱を同時にしながらも、再び焼けたゴブリンに目をやる。

 本来なら彼が魔法で商人助ける予定だった、なんて言えないよな。何もしてないんだし。


「……って!それよりあのおじさん!」

 倒れて気を失っている行商人を見て慌てふためく。

「大丈夫、気を失っているだけだよ」

「……本当だ」

 少し落ち着いて見ればちゃんと指がピクピク動いている。

「怪我自体は大きなものじゃないかな?回復してあげる!」

 男性の後ろから駆け寄ってきた金髪の女性が、長い杖を商人にかざす。

 倒れている行商人の下に魔法陣ができ、次の瞬間。


【癒しの力よ、この者の傷を治せ、ヒール】


 と一言唱えた。

 次の瞬間、魔法陣は光を放ち、行商人の傷が塞がっていく。


 厨二病が治りたての人には、治癒の対象が自分ではないにも関わらず、今の詠唱で全身が妙にこそばゆくなる。そして勝手に顔が熱くなる。

 だがそれ以上に、そんな事も忘れてしまう程に治癒の魔法の光に見入っていた。


「うぅ……ここは…?

 体を起こし、右手で頭を抑える行商人。うん、アニメで見た光景だ。

「ここはネオンから森に続く道だよ!」

 簡単に答えながらも魔法を止めない金髪の魔導士。

「そうか…そうじゃ!そうじゃった!儂はこれから王都に荷物を、はっ!?」

 色々理解が追いついたのか、急いで起きて荷台を確認する行商人。

「よかった、なにも盗まれておらん。ありがとう、雇ってもおらん儂なんかを助けてくれて!ささやかな物じゃがこれを受け取っておくれ!」

 深々と3人にお礼をし、この世界のお金らしき銀色のチップを3人に1枚ずつ渡した。それを遠慮なく受け取る3人。

 そして馬に跨り、簡単に別れを済まし、王都に向かうために再度出発した。


「僕何もしてないのになんかお金貰っちゃった…」

 まぁラッキーでいいか。


「さて、とりあえずネオンに戻るか!」

 先程無謀な青年を助けてくれた剣士、冒険家を連想させる軽い装備で赤髪の男性が言う。

「そうね!もう疲れたし、早くシャワー浴びたい!」

 金髪の魔導師も伸びをして、ふわりと空気に倒れ込む。

「…浮いてる」

 なんというか、魔法ってすげぇ。


「そういえばコガネは?」

「コガネはあそこ」

 赤髪の男性が指差した先に、森からのんびり出てくる女性の姿。

「…うぇ!?」

 思わず変な声が出てしまったが許してほしい。コガネと呼ばれた白髪の女性の頭上に、大量のゴブリンが呻きながら渦巻いていた。

「げぇ…コガネ何してるの…?」

 金髪の女性も若干、いや結構引きつった声を上げた。

「群れ見つけたから始末しといた」

「まだしてないじゃん…早く倒しちゃいな?」

「わかった…」

 簡単に返事した後杖をかざし、3人に聞こえないくらいの小声で何やらぶつぶつ呟いた。

「なっ!?」

 すると、渦巻いていたゴブリンを包むように光出し、ゴブリン達が悲鳴を上げながら崩れて消えていった。


 なんというか、残酷だ。


「終わり。お腹すいた、夕飯どうする?」

 気怠そうに一言呟いて何事もなかったかのように会話を切り出す。


 なんか、完全にいないものとして扱われている気がする。どうすればいいのこれ?


「夕飯より先に、助けてくれた青年の所在を確認しないと」

 赤髪の青年が、商人を庇った青年をじっと見てくる。

「あぁ、はい!ええと…ですね!」

 急に振られたからどう返せば良いのかわからない。


 まぁ、自己紹介からだよな。

「僕は……タクマっていいます。この辺り来るのは初めてでちょっと道に迷ってまして…」

「迷うもなにもネオンあそこ」

 ゴブリンを消滅させた女性が困惑気味に隣の都市を指さす。


 苦しい言い訳が砕け散った。


「ネオンが目的地じゃないから迷ってるんだろ?この辺りで迷うって言ったらフォレストじゃないのか?なにせ森の中にある町だし?」

「……そ、そう!そこです!フォレストです!もう森が広くて、殆ど何も持たず家でちゃったので、あはは……はい」

 赤髪の男性のフォローに死ぬ気で乗っかって嘘っぱちを加える。


 ってか何も持ってないとかそんなレベルじゃないだろこれ。手ぶらに学生服って初期装備相当終わってる…。


「なら今からフォレストまで案内する…?」

 ゴブリン消滅少女もといコガネと呼ばれている人が案を出すが、

「不賛成!」

 その優しさを金髪の女性が清々しいほどのたった一言大声で一蹴した。

 正直今のタクマには非常に有難いが、なんて酷い。

「なんで?」

「お礼が先だから!」

「成る程」

 納得したらしい。

「お礼?なんでですか?僕何もしてませんが…?」

 ようやく口を挟めるタイミングが出来た。むしろ銀貨、多分この世界の金を貰っただけのただの寄生虫なんだが。


「商人守ってくれた」

「えっと、え?」

 記憶にございませんが?

「何も持ってないのに、度胸だけで商人をゴブリンから守ろうとしてくれただろ?そのお礼だよ」

「あぁ、そうゆう事!」

 赤髪の青年の説明でようやく理解した。

「じゃあ、お言葉に甘えます!」

 まぁ魔法の実験のために突っ走ったなんて言えないし、そうゆう事にしておこう。


「改めて、僕はタクマです」


「私の名前はマナ!見ての通りの魔導師!よろしくね!」

 最初に答えたのは商人を癒した金髪ショートボブの女性。白いローブに、見た目と声通りの元気な女性って感じだ。


「私はコガネ」

 一言で済ませたのは頭上でゴブリンを消し炭にした白髪ロングヘアの少女。メンヘラチックな見た目をしている。


「そして、俺はホープ!一応3人のリーダーを務めている剣士だ!よろしくぅ!」

 勇ましく言い放つ赤髪の男性。そこまでゴツい見た目はしてないが、理想の男子って身体をしている。モテそうだな…。


 それにしてもホープとはまぁ1人だけ名前っぽくないが、突っ込むのは野暮だよな。


 というか、とても個性豊かな髪色だな。流石異世界といったところか。


「タクマ、だっけか?取り敢えず都市に行くか!俺らもギルマスに報告事項とかあるし、お礼もしたいし!いいか?」

「もう是非!お願いします!」

 頭を何度もブンブン下げる。もう願ったり叶ったりだ。


「私も行く」

「え、珍しいね!コガネが報告ついて行くなんて!?」

「行くのはギルドの中まで。報告は行かない」

「コガネェ…」

 女性2人の一連の流れを聞き終えた後、コガネがずっとタクマを凝視している。

「あの…何か?」

「タクマだよね。貴方の事が少し気になる。意味不明な服装もだけど、それ以上にその魔力の量、明らかに普通じゃない」

 目を赤く光らせて凝視し続けている。比喩じゃなくて、ちゃんと目が赤く光ってる。

「言われてみれば確かに凄い魔力の量!どうやってそんなに手に入れたの!?」

 マナも目を赤く光らせてタクマを凝視する。魔法か何かなのかな?にしても結構怖い。


「私の知る限りじゃ君より上いないよ?魔法に対する適正がどれだけあるのか凄い気になるね!」

 ウキウキしながら話すマナ。


「そんなあるんですね、よくわかんないけど楽しみです!」

 適当に返したが、魔法の適正最大はチートもとい前情報で得ている。どうせ全属性使えるだろうし、驚いた表情を見るのが楽しみだ。


「はい3人とも会話は後、取り敢えず戻るよ!」

 ホープが手をパンパン叩いて1人都市に戻ろうと足を進める。

「はぁい…」

 マナは若干不貞腐れ口を尖らせタクマとコガネを残してホープを追った。


「ギルドに着いたら私についてきて」

「わかり…ました?」

 まるで睨んだような興味の目でタクマを見るコガネ。

 コガネの無意識の圧に立ちすくんでいたら、

「「お〜い!早くしろよ〜!」」

 遠くからホープが2人に叫ぶ。

「すみません!」

「今行く」

 ホープの声に応じて逃げる様に、マナとホープの下へ走る。


 道中出会った3人、ホープとマナとコガネに案内され、ネオンと言われる都市に行くことになった。

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