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16話 散策


 ギルドに入り中を見渡す。


 相変わらずホテルのエントランスみたいな内見をしている。

「前世の僕だったら、ここが血生臭い冒険者ギルドと言われても絶対信じないだろうな……」


 なんて感傷に浸りつつ中に入ろうとすると、

「自動ドア!?」


 あまり気にしていなかったが、入口はガラス張りの自動ドア。


「改めて思うんですけど、全然ギルドに見えないですね……」

「え、そう?割と何処もこんなものでしょ?逆にどんなの想像してた?」

「なんというか、酒場っぽいような、ちょっとアンティークというか……」


 めちゃ漠然としたイメージだが、少なくともこんなホテルみたいなイメージはない。


「あー、フォレストのギルドみたいなイメージかな?あそこちょっと渋い感じのギルドだから!そういえばタクマ君が行きたい場所だっけ、こんなのんびりしていいの?」

「あー、全然大丈夫です、はい」

 そういえばそんな事言ってたわ。


「そっか、なら良かった!じゃ、案内するね!まずは……ここっ!」


 両手一杯広げて今いるホールを包む。


「ここはね、冒険者の受付意外にも売店があるんだ!」

 マナが普段使っているタブレットを少し弄りタクマに見せてくる。

「おぉ…!」

 そこにはパンやおにぎり、お菓子といった、まさに購買の食べ物の写真が写っていた。

「食べたいものをタッチすれば運んできてくれるって感じ!」

 マナが適当な菓子パン1つタップすると、

「……」

 何も起きない。

「あの、マナさん?」

 すると、ガチャという音と共にタブレットが暗転。

「おおぉぉ!!?!?」

 そして、

「お待たせしました」

 というアナウンスと同時に頼んだ菓子パンがタブレットから出現した。


 文字通り、タブレットから、現れたのだ。


「これ、ホログラムとかじゃないですよね?本当に食べれるんですか?」

 本当にいきなり現れたとしか表現しようがない菓子パン。


 流石に疑うよな?


「まぁまぁ食べてみればわかるよ!」

 ニコニコした表情で待っている。


 この時点できっと食べれるんだろうなと想像できるが、なんというか、流石に実際に食べるまで信じれないな。

 恐る恐る手を伸ばしてみると、

「……掴めた」


 すげぇ、掴めたよ!ホログラムじゃなかったよ!

 驚きを隠せないまま封を開けて1口。


「食べれたよ!」

 食べれることに感動っていうのも変な話だが、ちゃんと食べれたよ。


 しかも変な味とかもせず、ちゃんと菓子パンの味だ。


「うわーこれ日本に欲しかったな!部活帰りにスマホからパン出せたら最高じゃん!」


 部室で駄弁りながら秘密裏にパンを食べるなんて、楽しい以外の何者でもない。


「あれ、ここにも出入り口あるんですね?」

「まぁ都市の中心にある建物だからね!因みに東西南北全部に出入り口受付あるけど、全部同じ役割ね!」

 それだけ説明して、今度は4階へ移動する。

「あれ?2階と3階は?」

「2階と3階私達は利用しないからね、そもそもギルマスから呼ばれない限り入れないし!」


 曰く、政経を担う人達の為の場所らしい。


 前世で言う国会議事堂みたいなところかな?


「と言うわけで4階到着!」

 エレベーターを降りたら見覚えのある場所が広がっていた。

「あれ、ここって!」

「どうしたの?」

 初めてギルドに来た時に、マナとコガネが魔導紙、というかパッチを買ってた場所だ。

「いえ、なんでもないです」


 まぁ折角案内してくれるし、知らないふりしておこう。


「そう?まぁ続けるね、ここは食堂!隅っこにちょっとした雑貨店あるけど、多分微妙に隙間があったから詰め込んだんでしょ、気にしないで!」

「……」

 思い出の雑貨店を気にしないでで一蹴されてしまった。


 まぁこうゆうこともあるか……。


「食堂は主にここの職員だったり、1日に何個も依頼をこなす冒険家がよく使うかな!私達にはあまり関係ないかな?」

「はぇ……」


 食堂が関係ないって……。

 まぁ確かに使った記憶がないが。


「次は5階行こう!」

 マナに連れられ今度は5階へ。


「ここは私達冒険家専用の場所!って来た事あるよね!」


 訓練所が3つある場所。

 ついでに個室もこの階にあるらしい。


「ここは特に説明いらないかな?でもちょっとだけ見て回ろっか!」

「わかりました!」


 そんな感じで雑談しながらうろうろする2人。


 何やら体育館らしき訓練所でドタドタ聞こえるが、誰かいるのだろうか。


「あれ、リリィじゃん!おーい!」

 マナが中を覗いて手を振る。


 中には4人の剣士やら格闘家やらの接近戦士達がいた。


「お、マナか、それと、誰だ?」

 青髪剣士の青年がこちらを凝視する。


 その瞬間、

「隙ありぃぃ!!」

「ぐぉ!?」

 格闘家らしき女性に蹴り飛ばされる青年。

「うわぁ、痛そう……」

 容赦なく隙をついて青年を気絶させる女性がいた。


 最低最悪の第一印象が根付いてしまった。





「この子はタクマ!私達の期待の新人君だよ!とっても強いよ!」

「どうも、最初の自己紹介でいきなりハードルを高く設定されて戸惑う青年ことタクマです」


 無駄に文字数の多い自己紹介になってしまった。


「私はリリィ、よろしく!」

 リリィと名乗った女性はかなり男勝りな体格をしていた。マナと頭1つ分くらいの差の身長はありそうだ。


 あと胸がでかい。


 全身筋肉みたいな見た目してるから多分筋肉で構成された胸だけど、でかい。


 というか、青年を蹴り飛ばした女性、の方が印象強い。


「で、あそこで泡吹いて倒れてるのがザザ、私らのリーダーさ」

 倒れているザザを指差し、半笑いで紹介されるリーダー。


「威厳皆無で倒れているリーダーさんかわいそう」

「試合中によそ見して油断する方が悪い」

 リリィは厳しい性格のようだ。


「というか、マナさんがさっき呼んだのリリィさんでしたよね?振り返ったのザザさんなのかよ」


 何してんだリーダー。


「で、リーダーを突いてる2人の、男がノウン、女がカナエだ」

 剣で突いている男ノウンと、槍で突いている女カナエ。

「リーダーの扱い雑ですね……」

 タクマたち4人こと、造花のリーダーの扱いも割と雑だったような。


 リーダーとはそうゆう宿命を背負っているのかもしれない。


 嫌な宿命だ。


「というか、魔導士がいない?」

 ここにいる全員紹介して貰ったが、魔導士が1人もいない。

「あぁ、魔導士達は今第2訓練所にいるよ。ここで魔法使うのは禁止だからね、あっちで暴れてもらってる」


 第2訓練所はタクマが魔法適正検査をしたバッティングセンターみたいな場所である。


「というか、あの人本当に大丈夫なんですか?」

 ザザは意識が戻るどころかどんどん真っ青になっている。

「あぇ……流石に溝落ち蹴ったのはまずかったかな?」

「うわぁ……」


 めちゃ痛そう。


「マナ、すまん、頼めるか?」

 リリィが非常に申し訳なさそうにマナに助けを求める。

「しょうがないなぁ……」

 1つため息を吐き、嫌そうに杖を構え、詠唱を唱える。


【癒しの力よ、この者の傷を治せ、ヒール】


「うぅ……痛い」

 ようやく意識を取り戻すザザ。


 が、意識が戻っただけで全然痛みは消えていないらしい。


「すまん、ありがと」

 声を振り絞るように謝罪するザザ。

 相変わらずぐったりしている。


「あとは自分達でやってよね、本当はここで魔法使っちゃダメなんだから!それじゃ、タクマ行くよ!」

 少し頬を膨らまし、その場を後にするマナ。

「あぁはい!お邪魔しました!」

 タクマもマナを追うようにその場を去った。





「本当に大丈夫なんですかね?」

「ザザの事?大丈夫だよ、しぶといし!」


 なんか凄い嫌そうなのは気のせいだろうか。


「それより、ここが更衣室!男女で分かれてるから案内はここまで!中に入ると多分自分の個室見つかると思うから行って来な!」

 そう言ってマナは女性更衣室に入っていった。

「取り敢えず入ろ」


 中は学校の廊下程度の広さの幅と、一定間隔に設置されたドア。割と見やすい高さにネームタグ。


 直ぐに自分の名前を見つけ、扉を開ける。


「これマジで1人1人に設けてるのかよ!」

 中はシャワー室とベッドと簡素なクローゼット。そして洗濯機とお手洗い。

「ここで生活できるじゃん」


 ここまでされていると逆にドン引きである。

 あらかた中を見終え、さっさと更衣室を出て行った。


「あれ、随分と早かったね?」

 更衣室を出ると既にマナが待っていた。

「そうゆうマナさんはもっと早かったんですね?」

「私は杖預けるだけだったし、それより、今度は外案内するね!」

「あれ、地下は行かなくていいですか?」

 飛ばしていたから関係ない場所だろうと察しはついているが一応。


「あー、あそこはちょっとヤミーな場所だからね?」

「……美味しい場所?」

「あのタクマ君、そのボケ方は地下がどういう場所か察しててボケたでしょ……?」

「まぁ魔物の実験施設なんだろうなーって気はします」

「はい正解、さ、外の案内するね!」


 どうやら微塵も触れる気はないらしい。

 という事でギルドを後にした。


 今度は都市を案内してもらうことになった。


 概ね回ったが、さすが大都市、なんでもあった。

 デパート、レストラン、雑貨店など、逆に無いものあるのかと思うくらいに充実している。


「マジでなんでもありますねここ!」

「大都市って言われてるくらいだからね!他の町や村との繋がり……というか貿易がかなりあるし、住むには便利だよね!」


 人が多く出入りする分、冒険家みたいな魔物から人や都市を守る存在も大切にされやすいみたいだ。


「少し時間余ったけど、行きたい場所とかある?」

 概ね回り終えたが、いつのまにか空が茜色に染まっているくらいに時間が過ぎていた。


「行きたい場所、特には?」

「ないの?じゃあ行きたい場所あるからちょっと付き合ってもらっていい?」

「全然大丈夫ですよ、というか行きたい場所あったのに僕の方に時間割いちゃってよかったんですか?」

「うん、行きたいって言っても大して時間のかかる事じゃないし!」


 という事でついて行き先知らないままついていくことになった。





 着いた先は都会の雰囲気には似合わない古びた民家みたいな外装。

「……呉服屋?」

 と、看板に書いているから読み上げたが、呉服屋がなんなのかわかっていない。


「ちょっとここで待ってて、直ぐ戻ってくるから!」

 それだけ言って中に入っていく。

「その日を境に、マナさんの姿を見る人はいなくなった……」

「何言ってんの?」

 ちゃんと聞こえてやがった。


「……お待たせ!さ、帰ろ!」

 数分も待つこともなく、一瞬で大きい紙袋を持って出てくる。

「なんですかそれ?」

「うーん、秘密?」

 何故疑問系。何故秘密。


 そして、呉服屋に入ってから5分経たないほどで帰宅。


 どうやらここの呉服屋は自宅からそう遠くない場所にあったらしく、少し歩いただけで家に着いた。

「おかえり、オフは満喫出来た?」

 扉を開けるとホープとコガネが玄関にいた。


「ただいま!私は満喫したよ!」

 概ね案内してもらっただけで終わったが、満喫したらしい。

「殆ど歩きっぱなしでしたが、観光している気分で楽しかったです」

「そか、ところで俺らこれから出かけるんだが、来るか?」

 どうやら出かける直前に帰って来たらしい。


 もう夜なのにどこへ行くというのだろうか。

 ホテルか?いや、今のはちょっと不謹慎だったな。


「あー、だから2人ともオシャンな格好をしてるんですね?僕は遠慮しておきます、ちょっと歩き疲れたので休みたいです」

「私もパス、2人で行っておいで!私はタクマと家でのんびりしておくよ!行ってらっしゃい、ふあぁ〜」

 大きなあくびと共に2人を見送るマナ。


 よほど疲れているのだろうか。


「で、どうするタクマ君!」

「どうしましょうねマナさん。正直料理は得意じゃないのでマナさんに任せたいんですが、お疲れですよね?」

「え、何言ってんの、2人を追うんだよ!尾行!」

「……」


 何言ってんだこいつ。


「タクマ君は来ないの?」

「行くわけないじゃないですか、そんな元気残ってないです。さっさと夕飯食べて寝ましょ」

「……ケチ!」

「マナさん、それは性格悪いですよ?」

「ぐぅ……」

「今ので「ぐうの音だけは出た」って伝わる殆どいないですよ……」


 結局マナも行かなかった。


 そして残り時間は想像以上に暇していた。


「スマホがないと暇だ……」

 あの長方形端末がどれだけ暇つぶしに便利か身を持って思い知らされた。

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