13話 vsゴブリンの群れ
洞穴からゴブリンが出てくる。
思ったより多かった、ってかだいぶ多い。
数えるほど心に余裕はないが、間違いなく簡単に数え切れない数いる。
てっきり4、5体くらいかなって思ってた。実際この世界で初めて会ったゴブリン達は4体の群れだ。
それに棍棒、槍、杖など、様々な武器を持っている。これも予想外。
魔力感知で沢山いるのは見えていたはずなのに、最初の先入観に囚われすぎた。
だが、
「たった数日だけど、この異世界では常に裏切られた続けたんだ。これくらいで動じてたまるか!」
と自分に言い聞かせ、改めて剣を構える。
「じゃあ、行くよ!」
声を張り、後ろに下がるマナ。
それと同時に3人がマナの前に立ち、庇うように並ぶ。
そして、マナが詠唱を始め、呟きだした。
マナの詠唱に耳を傾けるほどの余裕はない。とにかく粘る。
しかし当然敵は待ってくれない。
杖を持ったゴブリンが後ろにいるマナに向かって詠唱を始める。
が、当然こちらも待たない。
「やらせない!」
ホープ雷を纏った剣で杖ゴブリンに斬りかかる。
しかし、詠唱を止め、かわされる。
そして槍ゴブリンがホープに突く。
それをかわし、コガネが詠唱を始める。
「【風の魔力よ、その鋭さを持って」
しかし棍棒ゴブリンの横槍で詠唱は、
「やらせない!」
タクマがコガネをカバーし、詠唱は止まずに済んだ。
「敵を切り裂け、カマイタチ】」
正面の杖ゴブリン向けて放たれる。
が槍ゴブリンが槍を回転させ防ぐ。
「ええぇ……マジ?弱い敵ってなんだよ!」
どうせ今ので倒れるだろ!みたいな考えはなかったが、まさか人間みたいに防ぐとは。
いや文句を言う暇はない。
「あと少しだ!粘れ!」
ホープが大声で叫ぶ。
危機を感じたのか、全ての杖ゴブリンがマナを狙うが、
「「させない!」」
ホープとタクマが杖ゴブリンを狙うが、槍ゴブリンが牽制。
【雷の魔力よ、その速度を持って我を転移せよ、テレポート】
杖ゴブリンの後ろに回ったコガネがいつのまにか槍サイズなっていた杖でゴブリンを薙ぎ払う。
が、薙ぎ払われなかった1匹のゴブリンの詠唱が終わる。
しかも別のゴブリンがコガネの後ろから棍棒を振りかざす。
「やばい!」
と思ったが、
「おっけい終わったよ、【サンドストーム】!」
先にマナの詠唱が全て終わり、魔法が放たれる。
「急いで離れろ!!!」
ホープが大声で叫び、速攻で跳躍。
タクマも全力で跳躍して離れる。
「コガネさんは!」
【雷の魔力よ、その速度を持って我を転移せよ、テレポート!】
いつの間にか詠唱して離れていた。
さっき3人がいた場所は、砂が混じった竜巻が起きている。そしてゴブリン達の悲鳴も聞こえてくる。
「なんだあれ……?」
「あれは砂と暴風の魔力を使ったマナの魔法、サンドストーム」
コガネがボーッと眺めながら答える。
「暴風?風じゃなくてですか?」
「それぞれの魔力にはもう一段上があるんだ。いわゆる覚醒ってやつだ。風の場合は暴風だね」
説明をくれたのはホープ。
「もう一段上の力……」
ホープとコガネ曰く、それぞれの上位の力、火なら灼熱、水なら氷、雷なら光、風なら暴風、砂なら岩石、癒なら闇、とオリジナル以外の魔法には、それぞれ上位があるとの事。
癒しの上位だけ闇ってのに非常に引っ掛かりを感じたが、なんか突っ込む気になれなかった。
どうせ祝福も呪いも対して変わんないとでも言いたいんだろい。
「なんで僕こんな不貞腐れてるんだ?」
「マナはすごい。テンペストの二つ名を持つ暴風使いの魔導師。他にも火も覚醒して灼熱になってる。癒し魔法も並じゃない」
憧れの先輩を見るような目でサンドストームを見るコガネ。
詳しく聞くと、マナは灼熱、暴風、砂、癒が使える、この世界でも珍しい2つ上位魔法が使える折り紙付きの強者なのだとか。
コガネも氷と光、風と癒で2つ上位魔法が使えるが、何より音のオリジナル魔法が強力らしい。
「……そんな凄い人達のチームだったとは」
普段の天真爛漫なマナからや、淡白なコガネからじゃ想像つかない。
「もしかして……ホープさんも」
恐る恐る尋ねてみる。
「俺はそんな大層な物は持ち合わせてないよ?」
「……」
絶対嘘だ。
その後、少し世間話をしたところで、
「止んだな、俺らも戻るよ」
魔法が止んだのを見計らい、マナの元へ戻る。
「わかりました!」
タクマも跳躍し、さっきの場所まで向かう。
周囲の木々は薙ぎ倒され、泉は無くなり、洞穴は上の岩が落ちて塞がっていた。
ここだけ砂漠だ。
「ふぅ、こんなもんかな!」
砂漠の中心で立ちすくんでいるマナ。
「マナ、おつかれ」
「うん!みんなもおつかれ!」
「いやぁ、やけに強かったな、今日のゴブリン達」
やっぱり強かったらしい。
「おやおや〜?天下の聖剣様がゴブリン相手に苦戦ですか?」
と煽り気味にホープに言うマナ。
「え?聖剣?」
と思わず復唱すると、
「あ、言ってなかったか。俺聖剣って2つ名持ちなんだ」
「大した事あるじゃないですか!?」
おいさっきの大層な物持ってないってのはなんだったんだよ!?
「ちなみに私はテンペスト、コガネはデスマーチの2つ名持ち!どう、すごいでしょ!」
褒めて褒めて!と言わんばかりに胸をはるマナ。
「2つ名って誰でも持ってたりするんですか?」
「う〜ん……どうなんだろう?2人名って自然と定着するものだから。多いのかな?コガネはわかる?」
「一応わかる。去年はそんなに、どころか全然いない。私達3人合わせても、世界で10人いるかいないかくらいだった。今年はまだ知らない」
「マジか……」
そう答えるしかない。
「というかそんなの調べる事できるんですね?」
「まぁな、強い人が1箇所に集まらないよう2つ名つけて、戦力をバラけさせるって目的があるらしい?又聞きだから詳しくはわからんが……」
世界で10人いるかいないかくらいの2つ名持ちが3人いる。ここに3人いる。
戦力ばらけさせる目的崩壊してません?
ヤベーチームに入ったもんだ。
本当にタクマ以外がチートだった。
「なんか、いいですね2つ名」
と力なく言い放つが、
「全然……良くない」
知らぬ間にコガネがしょげてる。
「え、なんでですか?2つ名って世界屈指の名誉っぽいですよね?」
「私、音楽好きなのに。なんでデスマーチなの…」
2つ名にご不満の様子だ。
デスマーチ、即ち“死の行進曲”
確かに好きなものに“デス”が入るなんてたまったもんじゃないな。しかもそれが名誉ある2つ名ときた。
自然に定着したものだから取り下げ申請なんてできるわけない。
なんというか、ご愁傷様だな。
「よしよし!」
コガネの頭を撫でるマナ。
こんな可愛い光景からは想像できないくらい2人とも強いのだ。
「さて、雑談はこれくらいにして、報告して……あちゃ」
ホープが埋もれた洞窟を魔力感知で見つめる。
「どうしまし……なんじゃあれ?」
タクマも埋もれた洞窟を魔力感知で見つめる。
見えたのは、真っ赤に光るでかい物体。
「こーゆうパターンって、だいたい主というか、ゴブリンキングというか……ですよね」
パターン入りました。
心の底から、本当に嫌だ。
「……」
いや逆に好都合か,
「あれ、僕にください!」
剣の握り手に手を添え。
「ダメだ、危険過ぎる」
ホープが速攻で却下する。
「1匹だけ貰うって約束でしたよね!」
今回は引き下がらないぞ。
「1匹かつ弱い敵なら任せると言ったんだ、あれはタクマから見たら全然弱い敵じゃない」
ホープも引き下がらない。
「タクマ君、ここはホープの言う通りにしといた方がいいと思うよ?」
マナもタクマを止めようとしている。
「でも……」
双方納得いかない状態で、
「いいんじゃない?」
横槍を入れたのはコガネだ。
「コガネ、待てって!見殺しには……」
ホープが半ば怒鳴り口調でコガネを諌めようとするが、
「別にタクマを見殺しにするつもりないんでしょ、だったら今のうちに痛い目見といた方がいいって」
どうやらコガネはタクマが負ける前提で話を進めている。
「コガネさんもこう言ってますし!」
タクマは既に剣を抜いていた。
「はぁ……わかったよ。そのかわり、少しでもやばいと思ったら直ぐ横槍入れるからな」
ホープは渋々答え、戦いの邪魔にならない程度にその場を離れる。
コガネもホープの後を追うように去る。
「本当は絶対にダメだけど、今回は特別、無理だけはしないで!」
それだけ言い残し、マナもその場を去り、2人の隣に並ぶ。
3人ともいつでも戦闘に参加出来る様に傍で準備はしていた。
「「「!!!!!」」」
岩で埋もれているはずなのに恐ろしい喚き声が聞こえてくる。
同時に手前の岩が全て吹き飛び、巨大なゴブリンが姿を表す。
さっき戦ったゴブリンがそのまま2mサイズになったような見た目だ。
少し違うのは、やけに立派なツノがあるのと、武器を持っていないという事。
多分拳で戦うのだろう。
「すげー演出……中ボス感ぱない」
軽口叩いている元気も無くなりそうなくらいの威圧を放ってくる。
「ふぅ……やるか!」
覚悟を決め、巨大なゴブリンに走り出す。