表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
政略結婚から始まる公爵夫人  作者: 水瀬
第4章 巡る季節と王都

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/97

87.賑やかな食卓

 その知らせを聞いたのは、屋敷に帰宅してからだった。


「リカルド様が?」

「はい。急遽ですが、本日はお屋敷で夕食を摂りたいとのことです」

「まぁ……」


 帰宅するとサマンサが出迎えてそんな報告してくる。急なことで少し驚いてしまう。

 曰く、王宮へ用があったリカルド様がついでにとシルヴェスター様に会いに行き、今日は屋敷で夕食を摂りたいと言ったらしい。

 その理由は、今日の夕食は自分の好物な気がするから、らしい。


「もう少し早く伝えていただけたら……。エストの出発後に連絡を受けて現在、大急ぎで料理人が準備しているのですよ」

「そうなの?」


 困ったように呟くサマンサに僅かに首を傾げる。確かに急に来たら困るだろうけど、今までも度々リカルド様が屋敷で食事を摂ることはあった。

 だけどサマンサの態度から今回はいつもと違う気がする。なぜだろう。


 その理由が分かるのはそれから少ししてからで、さほど時間はかからなかった。




 ***




 貴族の中でも頂点に位置する公爵家の食堂は、当然ながら広い。

 そのため、普段会話をしていても騒がしくならない。

 だけど、そんな広々とした食堂に、今は明るい青年の声が響き渡る。


「わぁ、やっぱりステーキだ! このソース、これ好きなんだよね」


 嬉しそうに、ニコニコと満面の笑みを浮かべてステーキを切っていくのはリカルド様だ。

 どうやら勘は当たったらしく、おいしそうに頬張る。


 それはいい。だけど──その食べる早さに瞬きを繰り返してしまう。

 食事を始めたのはつい先ほど。なのに、もう半分ほどステーキを食べきっている。


「おいしい……! ねぇねぇ、兄上。おかわりしてもいい?」

「好きにしろ」

「はーい! サマンサ、ステーキおかわり!」

「分かりました、お伝えするので少しお待ちくださいね」


 追加注文をするリカルド様にサマンサが料理人に伝えに食堂を出ていく。身体を動かす軍人だからか、よく食べるなと思う。

 そんな気持ちでリカルド様を見ていると、私の視線に気づいたのかシルヴェスター様と同じ、青い瞳がこちらを見る。


「義姉上、どうしたの? 何か顔についてる?」

「いえ……。ただ、食べるのが早いなと思いまして」

「あー、えへへ……。好物だからかな? いつもより食べるのが早くなるんだ」


 食べる早さについて触れるとリカルド様がはにかんだ様子で呟く。自覚はあるようだ。

 たまに屋敷に訪れては食事を摂っているけど……今日は特に早い気がする。食べるのが早いと得意気に話すけど、その次元が違う気がする。こうしている間もステーキの量はもう残り一口となっている。

 おいしそうに食べたステーキは、一体どこに消えているのだろう。


「異次元空間……」

「何が?」

「お前の胃の話だろうな。得意とは言え、早過ぎないか?」

「え!? え!? なんで違う生命体って思われているの!? 人間だよ!?」


 思わず口から零れた単語にリカルド様が反応し、そこにシルヴェスター様が付け加えてさらに賑やかになる。しまった、つい零れてしまった。


「も、申し訳ございません。その、びっくりして」

「人間だからね!?」

「分かってます」

「あ、兄上もだよ!?」

「ああ。知っている」


 念を押すリカルド様に頷き、シルヴェスター様も淡々と返事する。レナルドが口を抑えて笑いを堪え、エストに睨まれているけど何も言うまい。

 頷く私たちにようやく安心したのか、リカルド様が落ち着きを取り戻す。

 

「ならいいけど……。義姉上もたくさん食べた方がいいよ。全然食べてないじゃん」

「大丈夫です。これで十分です」

「えー、そう?」


 疑問形を含んだリカルド様にこくこくと首を縦に振る。私の量は決して少なくない。女性として一般的なはずだ。


「義姉上は今日はどうしてたの? お茶会?」

「いえ、今日は友人と一緒に歌劇に行ってました」


 自分のペースで食事をしているとリカルド様がこちらを見て尋ねる。なので今日のことを話す。

 

「へぇ、歌劇かぁ。もう随分観てないなぁ」

「リカルド様も歌劇に興味が?」

「うーん、好きでもないけど嫌いでもないよ。だから普通かな。でも小さい頃、家族で何回か観たよ。内容はあんまり覚えてないけど」

「途中でいつも寝ていたからな」

「あれ? そうだったっけ?」


 シルヴェスター様が静かに指摘してリカルド様が首を傾げる。本人は不思議そうにしているけど、なぜか想像できてしまう。

 そんな話をしているうちに給仕役の使用人が焼き上がったばかりのステーキを持って来て、リカルド様がおいしそうに食べ始める。


「それで、歌劇は楽しめたか?」


 味わいながら食事を続けていると、重低音の声で問われてそちらを向く。

 すると青い瞳と視線がぶつかり、その問いに微笑みながら答える。


「はい、とても。今日の歌劇はメデェイン王国の劇団だったので新鮮でした」

「メデェイン王国の劇団か。どんな感じだったんだ?」

「まず役者ですが演技力はもちろん、流暢にウェステリア語で台詞を話していて違和感を感じませんでした。あと、小道具は――」


 メデェイン王国の劇団について問いかけるシルヴェスター様に感じたことを口にする。

 私の話にシルヴェスター様は静かに、でも確かに相槌を打って聞いてくれて嬉しい気持ちになる。

 そしてその後もリカルド様を交えた賑やかな夕食は続き、無事に終わった。




 ***




「――よし、これでいいかな」


 最後の一文を書き終え、ペンを置く。

 リカルド様の突然の来訪から翌日。朝食を摂るとリカルド様は屋敷から軍の駐屯地へ向かい、シルヴェスター様もいつも通り王宮へ出仕するために出発した。

 そして私はというと、昨日購入した焼き菓子をベルンに贈るために手紙を書いていた。


「エスト、ロバートを呼んでくれる? 馬車の手配を頼みたいのだけど」

「分かりました」


 お願いするとエストが一礼してロバートを呼びに執務室を後にする。その間に封まで入れよう。

 手紙の内容を確認し、インクが乾いたことを確認して封に入れて蝋を押す。まだ朝だから今から贈れば今日中に届くはずだ。

 そうして数分待っていると、エストがロバートを連れて再び執務室へやって来る。


「お待たせしました、奥様」

「大丈夫よ。焼き菓子なのだけど、私の実家に贈りたくて。馬車の手配を頼めるかしら」

「エインズワーズ伯爵家へですね。本日中に届くように手配しましょう」

「ありがとう」


 今日中に届くように手配すると言われてほっとする。ベルンも母と一緒に今は領地から王都の屋敷に滞在しているからすぐに届くだろう。

 安心していると、ロバートが困ったような雰囲気で口を開く。


「奥様、少しよろしいでしょうか」

「どうしたの?」

「実は本日も各家から大量に招待状が届きまして。本日の分はこちらになります」

「え。こ、こんなに……」


 見せてきたのは十はゆうに超える招待状の束で思わず固まる。……昨日もシャーリーと出かける前に招待状の返信をしたのに。

 裏返せば、それだけランドベル公爵家と繋がりたいと考えている貴族が多いということだけど……その数に頬が引きつりそうになる。


「今日も多いわね……」

「申し訳ございません。お忙しいのなら代わりに代筆いたしますが」

「ううん、大丈夫よ。ロバートも忙しいでしょう?」


 提案するロバートに首を振る。嫁いだ当初から私を手助けしてくれるロバートだけど、彼は屋敷の使用人を統括する家令だ。統括以外にも業務は多岐に渡り、忙しいのは重々承知している。

 そんな彼に代筆など無理をさせて身体を崩されるのは困る。なので束になっている招待状を受け取って安心させるように微笑む。


「返信の方は任せて。だからロバートは自分の仕事をしてちょうだい」

「──かしこまりました。それでは馬車の手配をするので失礼いたします」

「ええ」


 平気だと再度告げると、ロバートも納得した様子で了承する。

 そして焼き菓子が入った紙袋と手紙を渡すと馬車の手配をするために執務室を立ち去る。私も返信作業に取り組もう。


 招待状に記された家名を見る。マリエル侯爵令嬢にハウゼン伯爵夫人、そしてストーン男爵夫人……いずれも同じ国王派に所属する女性たちだ。

 ペーパーナイフで封を切って内容に目を通して返信していく。私が夜会にあまり参加していないからか、夜会よりお茶会の招待状が多いなと思う。

 予定を確認して黙々と返信に勤しむ。中立派からも招待状は届くけど、やっぱり国王派の方が多い印象だ。

 ランドベル公爵家との関わり、主催者のお茶会の参加回数など、様々な点を含めて返信を進めていく。


「次は中立派ね。サーティス子爵令嬢にヴェルディルヌ伯爵夫人と……」


 国王派からの招待状への返信を書き終え、中立派からの招待状を手に取る。

 国王派はもちろん、中立派のお茶会に参加するかは私の自由だとシルヴェスター様から一任されている。

 そのため、今までは同じ派閥の国王派の女性が主催する集まりを中心に参加して交流を深めていた。


「……そろそろ中立派とも交友を広めましょうか」


 公爵夫人として社交にも慣れてきた。だからこれからは中立派の女性たちとも関係を築いた方がいいだろう。中立派にも、大臣を担う貴族や有力貴族がいるのだから。


「エスト、新しい便箋を用意してくれる?」

「かしこまりました」


 そしてエストに新しい便箋を頼み、再びペンを動かして中立派の令嬢や夫人に対して返信を(したた)めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ