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政略結婚から始まる公爵夫人  作者: 水瀬
第1章 始まりを告げる鐘
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9.王家からの招待状2

 馬車に乗ること数十分、王宮にたどり着くと先に降りたシルヴェスター様に手を差し出され、その大きな手に手を重ねる。 

 そして顎を引いて視線と背中をまっすぐにしてシルヴェスター様と共に歩いていく。

 

 王宮の夜会には両親と共に数回参加したことがあるので道順は分かる。

 シルヴェスター様の腕に手を添えながら進んでいく。もうすぐで、今宵の夜会の舞台である大広間だ。

 私たちに気付いた王宮を警護する近衛兵二名が礼をしてドアに手をかけて開いていく。

 ドアを開くと大広間のにぎわいが一気に感じ取れる中、シルヴェスター様と共に入場する。

 

 入場すると同時に会場である大広間に入場するとざわめきが起き、多くの貴族たちの視線が私たちへと降り注ぐ。

 さっと周囲を見渡すとこちらを見る人たちの双眸には嫉妬・敵意・羨望・好奇心と様々な感情が浮かんでいて、こちらへと突き刺さる。

 そんな中で背筋をまっすぐにして口角を上げて歩く。どう思われても、私がやることは一つ。それは不仲という印象を見せないことだ。

 多くの貴族は私たちを遠くから眺めていて私たちに近付こうとしない。多分、タイミングを図っているのだろう。

 

 結婚したと言っても美しいシルヴェスター様はやはり令嬢の視線を奪っていて多くの視線が感じ取れる。

 そうしてシルヴェスター様と一緒にいると私も知る人物たちが私たちの元へ足を進めてくる。


「ランドベル公、久しいね」

「フォーネス侯爵に夫人。お久しぶりです」


 シルヴェスター様の元にやって来たのは宰相閣下のフォーネス侯爵と奥方のサンドレア様だ。

 フォーネス侯爵は五十代後半になる父の直属の上司で、先代国王陛下から王家に仕える生粋の国王派のお方だ。

 その隣にいるサンドレア様は五十代前半になる気品ある美しい女性で、私に微笑む。

 

「アリシア、結婚式以来かしら。久しぶりね」

「はい。サンドレア様、お久しぶりです」


 サンドレア様が話しかけてきたので微笑みながらカーテシーをする。

 フォーネス侯爵夫妻は父の上司ということでデビュタント前はもちろん、私が小さい頃から面識がある。


「結婚おめでとう。突然で驚いただろうが慣れてきたかい?」

「はい、少しずつ。使用人もみんな優しくて快適に過ごしております」

「そうかい。それはよかった」


 はは、と笑うフォーネス侯爵の言葉に微笑んだまま返事する。


「青いドレス、とても似合っているわ。公爵の瞳の色なのね」

「はい。今回はお互いの瞳の色を使用しております」


 穏やかな声で微笑みながら褒めてくれるサンドレア様に失礼のないように丁寧に返事する。

 穏やかに見えるけどサンドレア様は社交界に影響力を持つ女性の一人でその存在感は大きい。失礼のないように気を付けないといけない。


「突然の結婚で戸惑うことが多いだろう。ランドベル公にエインズワーズ伯爵夫人はもちろん、うちの妻も頼りなさい」

「ええ。ぜひ頼ってね、アリシア」


 フォーネス侯爵夫妻の発言にピタリと固まりそうになるのを堪える。……遠くからざわめきが聞こえる。

「頼りなさい」──そうフォーネス侯爵夫妻がおおやけの場でこう発したのは国王派の重鎮であるフォーネス侯爵家は私を支持しているのを表したからだろうと冷静に考える。

 重くなりそうな口を無理矢理開いてフォーネス侯爵夫妻に礼を言う。


「──……ありがたいお言葉です」

「いやいや。ああ、そうだランドベル公、この前の議会だが──」


 微笑んで返事をしたら再びシルヴェスター様と話しかける。

 話しているのは今の国内の経済や産業などで静かに耳を傾ける。

 フォーネス侯爵とシルヴェスター様は同じ国王派の中でも特に発言力がある。仕事の分野は異なるも、議会などで顔見知りなのだろう。国内の色んな話題を話していく。


「おや、すまない。ずっと話していたらみんなに悪いね。では私たちはこれで失礼しよう」

「はい。ではまた後ほど」


 一通り話し終え、会話が終わってフォーネス侯爵がサンドレア様を連れて離れると、合図のように男性に女性と関係なく次々と色んな人たちが話しかけてくる。


「ランドベル公爵。ご結婚、おめでとうございます」

「本当に。おめでたいことですわ」

「ふふ、そうですわね」

「いやはや、急だったので我々も驚きましたよ」

「こんばんは、シルヴェスター殿。お会いしたかったです。私は──」

「お久しぶりです、ランドベル公爵閣下。覚えていらっしゃるでしょうか? 私は男爵家の──」

「いやしかし、実にお美しい奥方だ。公爵夫人、私は──」

「こんばんは、ランドベル公爵夫人。わたくしは伯爵家の──」


 国王派、中立派貴族の当主夫妻から子息や令嬢が集まって来ては挨拶してくる。シルヴェスター様と私に少しでも接触しようと順番に名を名乗ってくる。

 相手が名乗る度、記憶した家名と当主、派閥を頭から引っ張り出して微笑んで応対する。


「皆様、ありがとうございます。こちらは妻のアリシアです」

「こんばんは、アリシア・フォン・ランドベルと申します」


 シルヴェスター様が感謝の言葉を述べて淡々と私を紹介する。一方の私は優雅で美しい角度を注意しながらカーテシーを意識する。


 互いに挨拶を交わし、夜会やお茶会の誘いを受けるも明言はせず、上手く躱して話していく。

 参加するって言ったらあちこちの夜会にお茶会に行かないといけない。それは体力が持たないのでここでは明言しないでおく。

 挨拶を中心に国王派、中立派貴族たちとの顔合わせをしていく。

 微笑みを維持しながら会話を続ける私の側にはシルヴェスター様がいて、時折会話に入っては手助けをしてくれるので助かる。

 ほどなくすると顔合わせは終了してシルヴェスター様と共に隅へ移動して小さく息を吐く。とりあえず、失敗はしなくてよかった。


「大丈夫か?」

「はい。緊張しましたが、シルヴェスター様が助けてくれたこともあり大丈夫です。ありがとうございます」

「いいや。アリシアも特に言い淀むことなく話せていたと思う」

「本当ですか?」

「ああ、合格だ」


 シルヴェスター様から言われて改めて安堵する。よかった、合格らしい。


「あとは継戦派だな」

「そうですね」


 会場にいる国王派と中立派貴族とはほぼ挨拶はできたのであとは継戦派のみで、継戦派は対立しているので気を付けないといけない。


「継戦派の方ももうじき来るでしょうか?」

「いや、そろそろ陛下が来る時間だ。先に陛下に挨拶してから来るだろう」

「そうですか」


 シルヴェスター様に指摘されて時計を見る。

 見るとそろそろ夜会が始まる時間で先に陛下に挨拶してからこちらへ来るだろうと考える。


「公爵家だから先に陛下との挨拶は早めだ。さっきのようにできるか?」

「はい、大丈夫です」


 たくさんの貴族と挨拶して少し慣れたので問題ないと思う。シルヴェスター様は陛下のご友人だから私は微笑んで挨拶するくらいでいいだろう。

 それからも時折、挨拶に訪れた人に微笑んで挨拶をして時間を過ごすと会場がざわめく。


「国王陛下並びに王妃殿下のご入場ー!!」


 王家と王宮を警備する近衛師団の象徴である白を基調とした軍服を纏った近衛師団長が声高々に叫ぶ。

 師団長の叫びと同時に開かれて重厚な両扉からゆっくり入場するのはウェステリア王国を統治する国王夫妻だ。

 そして陛下が大広間を見渡して堂々とした声を張り上げる。


「──突然の夜会にも関わらず、みんなよく来てくれた。季節も日々暖かくなっている。四季を司る神々たちに感謝して、今日という日をぜひ楽しんでほしい」


 陛下が楽しそうに微笑んで発すると私を含めた貴族一同は(こうべ)を垂れる。

 数秒して頭を上げると陛下は再び周囲を見渡して王妃様と共に椅子に座る。

 それを合図に公爵家から順番に列に並ぶ。はっきり言って長蛇の列だ。

 

 最初に陛下に挨拶するのは陛下の叔父で、次にランドベル公爵家を始めとした公爵家が並んでいく。


「国王陛下、本日はこのような場に招待していただきありがとうございます」

「シルヴェスター、こうしてしっかりと会うのは結婚式以来だな。結婚おめでとう」

「ありがとうございます」


 陛下が笑うとシルヴェスター様も続いて微笑む。

 その微笑みが挨拶しに来た貴族と違うことから本当に仲がいいのが読み取れる。


 ちらりとシルヴェスター様と会話する陛下を観察する。

 赤みを帯びた金髪に黄金の瞳を持つのはヒューバート・フォン・ウェステリア国王陛下。二十五歳のウェステリア王国を統べる国王だ。

 シルヴェスター様と会話しているのをそっと聞きながら黙って控えておくと、話し終えた陛下がこちらへと話しかけてくる。


「ランドベル公爵夫人、結婚おめでとう。今日は来てくれてありがとう」

「こちらこそ、このような場に招待してくださりありがとうございます」


 カーテシーをして微笑んで挨拶すると、陛下が神秘的な黄金の瞳を細めてニコリと笑う。


「夫人は語学に堪能だと聞いてね。外交では語学が必要になるからね、期待しているよ」

「ご期待に応えられるように努力いたします」


 私の言葉を聞いて頷くと、今度は隣に座る王妃様に視線を向けてきた。


「夫人、知っているだろうが妻のテレーゼだ。テレーゼ、ランドベル公爵夫人だ。結婚式ではあまり話せなかったが今後は何かと関わることが多くなるだろう。改めて挨拶を」


 陛下の隣に座る王妃様に視線を向けると透き通るような美しい珊瑚色の瞳が少し揺れる。


「こ、こんばんは……、テレーゼ・エル・ウェステリアと申します。ご結婚おめでとうございます、ランドベル公爵夫人。よろしくお願いしますね」

「アリシア・フォン・ランドベルと申します。こちらこそよろしくお願いいたします、王妃殿下」


 目元を柔らかくして返事するとほっとしたのか、はにかんで微笑む。

 王族と貴族にはミドルネームが存在し、国によってそれは異なる。

 ウェステリア王国は「フォン」となっていて、ミドルネームによってどこの国から嫁いできたか分かるようになっている。


 そして私の目の前にいる貴人は隣国の海洋国家である大国・ソヴュール王国のミドルネームである「エル」を持っている。

 美しい亜麻色の髪に澄んだ珊瑚色の瞳を持つ女性はテレーゼ・エル・ウェステリア王妃殿下。同盟国・ソヴュール王国の第二王女で二十歳になる王妃様だ。

 三ヵ月前に陛下と結婚してウェステリア王国へやって来て、会うのは結婚式以来でこれで二回目だ。この様子からしてもしかして内気な人なのかもしれない。


 そんなこと考えながら一言二言、会話して挨拶を終えて次の貴族へ交代する。

 交代してシルヴェスター様と一緒に列を離れた際、ピリッと鋭い視線を列から感じた。

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