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政略結婚から始まる公爵夫人  作者: 水瀬
第3章 公爵領と冬の祝祭

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57.温室でのお茶会

「アリシアさん、一緒にお茶でもどうかしら?」

「お茶ですか?」


 滞在二日目、エストとお話ししながら部屋で過ごしているとお義母様こと、セレスティーヌ様がやって来てそう提案してきた。

 瞠目しながら復唱すると、優しい笑みを向けられる。


「ええ。昨日は忙しかったからあまりお話できなかったから。アリシアさんとはゆっくりお話がしたいと思っていたの」


 言われて納得する。

 確かに昨日は予定より遅れて到着してシルヴェスター様に本邸を案内された後は夕食を摂って終わってしまった。だからセレスティーヌ様ともあまり話せなかったのは事実だ。

 セレスティーヌ様とも良好な関係を築きたい。それに、せっかくの誘いだ。断るのも悪いため微笑んで応じる。


「嬉しいです」

「よかったわ。温室でお茶でもどうかしら?」

「ぜひ」

「じゃあ案内するわ。エスト、温室に行ってお手伝いしてくれる?」

「かしこまりました」


 エストが退室するとセレスティーヌ様が振り向いて微笑む。


「私たちもゆっくりと行きましょうか」

「そうですね」


 頷き、部屋を出てセレスティーヌ様の案内の元、温室へ向かって歩きながらお話しする。


「シルヴェスターから邸宅内は案内された?」

「主な部屋は案内してもらいました。もし分からなければエストに聞こうと思います」

「それがいいわ。エストなら邸宅内の間取りを知っているからね」


 ふふ、と小さく笑うその姿はたおやかな印象を与える。


「温室は案内されていないでしょう?」

「そういえば……教えてもらっていませんね」

「実はね、シルヴェスターには温室は案内しないでと言ったの」

「どうしてですか?」

「だってシルヴェスターはお花に興味ないから適当に説明するもの。お気に入りの場所を適当に説明されるのは許せないわ」


 断言するセレスティーヌ様に苦笑いを浮かべる。母親だからかリカルド様はもちろん、シルヴェスター様の性格もよく把握しているようだ。

 確かにシルヴェスター様は簡潔に話すところがある。興味もなく、詳しく知らないのならもっと簡潔な説明になっていた気がする。

 ちなみに、文句を言われているシルヴェスター様は父親であるヨハネス様と共に領地の報告書を確認するために執務室にいる。本人がここにいたらどんな顔していただろう。

 

 そんなやり取りをしながら温室に着くと、多種多様の色とりどりの花々が私たちを出迎える。


「あら、まだ早かったわね。お茶の準備をしている間、温室の説明をしてもいいかしら?」

「もちろんです」


 お茶の準備をしているエストや他の侍女たちを一瞥しながら頷く。

 広々とした温室には様々な花が咲いていて、今が初冬の十二月とは思えない。さすが公爵家だと思う。


「広いですね」

「そうでしょう? だからお気に入りの場所なのよ。この花は帝国でよく見られる花なのよ」


 そう言いながら説明するのは、故郷の伯爵領でよく見られた花で驚く。


「この花、伯爵領でも咲いていました。北部のランドベル公爵領でも見られるなんて……」

「エインズワーズ伯爵領は南の方だものね。北部はどうしても寒くて冬は花が咲きにくいから温室(これ)を建てたの。庭師が丁寧に育ててくれるおかげで色んな品種の花が咲いているのよ」

「冬でも花を見て楽しめるのは素敵ですね」


 周辺に咲く色とりどりの花々を見渡して頷く。 

 セレスティーヌ様の言う通り、庭師が丁寧に育てているのだろう。花の種類は多いのに美しい景観になっているのは庭師が育てる場所を考えているからだと思う。


「この花は西部によく咲く花なのよ。大きな花びらが特徴的で香りもいいのよ」

「そうなのですね。これは南部にはありませんでした」

「あら、そうなの? 種類の差はあるけどあちこちの地域の花を育てているのよ」

「一年中見ることできるのはいいですね」

「ええ。だからここでお茶を飲むのが好きなの」


 セレスティーヌ様が嬉しそうに笑う。花が好きな人からしたら温室(ここ)はとてもいいと思う。園芸が趣味のマリアンヌも喜びそうだ。


「お待たせいたしました、お茶の準備ができあがりました」

「ありがとう。アリシアさん、座りましょうか」

「はい」


 促されて着席するとエストが温かいお茶を置き、他の侍女も軽食を並べる。

 白いテーブルクロスが掛けられた上には湯気が立てられたお茶に加えて、一口サイズの軽食が並び、おいしそうな香りがする。


「ありがとう。みんな、向こうのベンチで待機してていいわ」

「かしこまりました」


 セレスティーヌ様の指示にエストたちが離れたベンチに向かう。あの距離なら私たちの姿は見えても私たちの会話は聞こえないだろう。


「急に誘ってごめんなさいね。でも聞きたいことがあって。緊張するかもしれないけど肩の力抜いてちょうだいね」

「────」


 ふわり、と笑う姿はリカルド様を彷彿させて息を止める。

 以前、リカルド様が自分は母親似と言っていたけどその笑みを見て実感する。確かに二人とも、緊張を解す笑みがよく似ている。


「はい」

「色々とお話したいことはあるけれど……今の生活には慣れたかしら?」

「ロバートにサマンサ、エストたちのおかげで。みんな、誠心誠意仕えてくれています」

「そう。ロバートを残してよかったわ。サマンサは私と同年代で昔は私の侍女もしていたのよ?」

「そうなのですか?」

「ええ。だから分からないことがあれば二人に聞けばいいわ」

「分かりました」


 助言してくれるセレスティーヌ様に頷く。

 セレスティーヌ様も突然の王命で驚いたと思うのに、こちらを思ってくれて優しいと思う。  

 

「ロバートたちがいてよかったわ。……シルヴェスターとはどう? 外交官と領主の仕事があるとは言え、仕事ばかりしていない?」

「シルヴェスター様ですか?」

「ええ。……シルヴェスターはリカルドと違って喜怒哀楽があまり出ないでしょう? 加えて口数も少ないから怖がらせてないか心配で」


 どこか憂いを帯びた声で問う内容に納得する。どうやら私が怖がってないか気になるようだ。

 確かに、シルヴェスター様とリカルド様は性格が真逆だと思う。

 実際、婚約の顔合わせの時に纏う雰囲気から冷たい印象を持ったけど──今は違う。


「確かにあまり表情は変わりませんね。……でも、シルヴェスター様にはいつも助けていただいています」

「あの子が?」

「はい。私の意見を聞いて、困っていたら手を差し伸べてくれて。何かと気にかけてもらっています」


 驚いた様子のセレスティーヌ様に微笑みながら紡ぐ。

 支えてくれるのは、私が年下だからかもしれない。

 それでも、外交官に領主の仕事と忙しいはずなのに気にかけてくれて感謝しかない。


 ここにはいないシルヴェスター様を思い浮かべながら告げると、セレスティーヌ様が安堵の表情を浮かべる。


「そう、そうなのね。結婚に興味がなくていつも仕事ばかりしていたから心配で。今も仕事三昧?」

「そうですね。屋敷でもよくお仕事しています」

「やっぱり。……そんなあの子が結婚だから気になってこうして直接尋ねたのだけど……私の杞憂だったわね」


 ほっとした表情を浮かべてセレスティーヌ様がお茶を口にする。……お茶をしようと誘ってきたのはこれを確認するためだったのか。

 私たちの結婚が政争が絡んでいるのは誰の目から見ても明らかだし、シルヴェスター様とエレオノーラ様の話は有名だ。

 だから気になっていたのかもしれない。私が、辛い思いをしていないか。


「ご心配いただきありがとうございます」

「いいのよ。勝手に心配したのは私だもの。──でも、困ったことがあれば頼ってね。私も旦那様もいくらでも力を貸すから」

「お義母様……」


 驚きを含んだ声で呟くとセレスティーヌ様が優しい笑みを向ける。

 領地にいるとはいえ、前公爵夫妻であるヨハネス様とセレスティーヌ様は未だ社交界に影響力を有している。その二人が味方になってくれるのは心強い。


「……はい、ありがとうございます」


 その気遣いに微笑むとセレスティーヌ様も穏やかな笑みを浮かべた。




 ***




「本当に温室ってすごいわね」

「私も久しぶりに訪れて思いました。庭師たちが丹精込めて手入れしているからでしょうね」


 セレスティーヌ様とのお茶会が終わり、エストと共に回廊を歩く。

 温室について話すとエストも感心した声で同意する。さすがは公爵家。私の実家はもちろん、シャーリーの侯爵家にも温室なんてない。

 改めてランドベル公爵家の財力に驚かされていると、後ろから聞き慣れた声が私を呼ぶ。


「アリシア?」

「シルヴェスター様」


 振り向くとシルヴェスター様が一人でいて、こちらへやって来る。


「その花は?」

「温室に咲いていたブルースターという花です。お義母様と先ほどまでお茶会をしていて」

「そうなのか」


 青い瞳が私が抱える花へ向いて答えると納得した声で呟く。

 穏やかなセレスティーヌ様は話し上手で、あっという間に時間が過ぎてしまった。

 そしてお開きの際にいただいたのがこの花で、部屋の花瓶に飾ろうと部屋に向かっていたところだ。


「温室はすごいですね。ブルースターはこの時期に咲く花ではないので」

「へぇ。いつ咲くんだ?」

「春から秋に咲きます。他にも春や夏に咲く花が温室にあって驚きました」

「あそこは色んな花を育てていると知っていたがすごいな」


 私の説明にシルヴェスター様が興味深そうに聞く。

 この様子は花にあまり興味がないらしい。だからセレスティーヌ様はシルヴェスター様に温室は案内しないでと言ったのだろう。


「レナルドは? ご一緒ではないのですか?」

「レナルドは騎士団の訓練に参加している。あいつも仕事が減っているから身体を動かすと言っていたな」

「そうですか」


 いつも後ろにいるレナルドがいないと思ったら訓練しているようだ。訓練に勤しんでいて意欲的だと思う。

 

「報告書はどうですか? トラブルなどはありませんか」

「元々父が殆ど処理しているから確認して少し話を聞くくらいだから順調だ」

「それならよかったです」

「書類は多いがあと二、三日あれば終わるだろう。──そしたら約束通り視察に行こうか」


 その発言に顔を見上げると美しい青い瞳とぶつかる。……シルヴェスター様と、視察。


「はい。まずはどこを視察する予定ですか?」

「まずは領民の生活を見たいから領都の中心部を見るつもりだ。結構歩くと思うが平気か?」

「大丈夫です」


 確認するシルヴェスター様に平気と伝える。どうやら最初の視察先は領都の中心部のようなのでエストに動きやすい服装を準備してもらおう。


「ならいい。ランドベル領(うち)は“北の商業都市”とも呼ばれる場所だから見応えあるはずだ」

「では楽しみにしておりますね」


 見応えがあると言われて微笑む。馬車から見た領都の市場は賑やかで活気のあるところだったから楽しみだ。

 そして仕事に戻るシルヴェスター様に挨拶し、セレスティーヌ様からいただいた花を花瓶に飾った。

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