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政略結婚から始まる公爵夫人  作者: 水瀬
第1章 始まりを告げる鐘
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5.最初の仕事

 ロバートを先頭にロバートとエストに公爵邸を案内してもらう。

 夜会が催されるダンスホール、来客対応する応接室、ピアノやヴァイオリンといった楽器が保管されている音楽室、色とりどりの花が咲いている庭園など、一つ一つロバートの解説付きで紹介される。

 そのどれもが広く、家具や調度品が一流の品物で息を呑みながら歩いていく。


「ここは?」

「こちらは図書室です。文学書や歴史書、経済書に天文学、芸術書に娯楽本など幅広い分野の本が保管されており、その数は約二千冊に上ります」

「二千冊も?」


 ロバートの言葉に驚いてしまう。

 入ってみた図書室は他の部屋よりも広い。だけど、まさか二千冊もあるとは。


「すごいわね」

「かつての当主が本好きだった影響で中には歴史的価値のある古書もあるんです」


 ロバートの説明にエストが補足するようにそう付け加える。

 よく見ると歴史書や経済書以外にも図鑑や語学書と様々な分野の本がずっしりと所狭しと並べられている。

 しかも今は発行されていない古書もあるという。さすが建国時からある公爵家だ。格が違う。


「公爵家の者なら誰でも自由に使えるので奥様もぜひご利用ください」

「ええ、一度ゆっくりと見てみたいわ」


 いつでも閲覧してもいいと言われたのでお言葉に甘えて近々見てみようと考える。

 公爵邸にある部屋を案内されながらすれ違う使用人たちに挨拶していく。

 執事に侍女、料理人に庭師、屋敷を守る騎士に御者と順番に挨拶をしていく。

 使用人はみんな好意的で、私が挨拶すると笑顔で挨拶を返してくれる。


 家によっては使用人との距離が遠い家もあるけど、どうやら公爵家は使用人との距離が近いようだ。

 実家の伯爵家も主人一家と使用人と身分があったけどその距離は近かったため、公爵家の使用人とも親しくなりたいと考える。仲が悪いより友好的な方がいい。彼ら彼女らの仕事の邪魔をしない程度に友好関係を結びたいなと思う。


「邸宅の案内は以上です。次は公爵夫人のお仕事ですが奥様、領主夫人の仕事はどこまで習っていますか?」


 ロバートが私の様子を見ながら尋ねてくる。

 夫が領地経営をするなら、妻も当然仕事がある。

 一般的に貴族の妻の仕事は邸宅の管理といった家に関する仕事だ。

 それ以外にも仕事はあって書類仕事に夜会を主催する場合は使用人に指示を出し、夫が夜会に来られない時は名代を務めることもある。

 あとは孤児院の運営と慈善事業も妻の仕事で、知識があれば夫の領地経営を手伝うこともある。

 夫ほどではないけれど、妻の仕事も責任の伴う仕事が多い。

 幼い頃から伯爵夫人としてそれらの仕事をしていた母を見ていたこと、また、母から一通り学んでいるため大丈夫なはずだ。


「一通りのことは母から学んでいるわ。邸宅の管理に書類仕事。夜会に孤児院の運営、領地経営も学んでいるから手伝うことも可能だと思うわ」

「領地経営もですか?」

「ええ。弟が生まれるまでは次期伯爵家の当主として教育を受けてきたから」


 今は当主教育を受けていないけど、ベルンが生まれるまでは伯爵家の一人娘として次期当主としての教育を受けていた。

 ベルンが生まれてからも万が一に備えて十三、四歳まで領地経営の勉強をさせられていたので領地経営に関する仕事もしようと思えばできる。


「なるほど。それでは、邸宅の管理をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「もちろん。資料があるのならほしいのだけどいいかしら」

「かしこまりました。それでは後日お渡しいたします」

「ありがとう」


 ロバートに頷いて返事をする。夜会関連はその時じゃないとできないので今はいい。あとは孤児院の方だ。


「邸宅の管理は分かったけど孤児院の方はどうしたらいいかしら? 公爵領を見ずに運営はやりにくいのだけど」

「孤児院の運営と慈善事業は旦那様の母君、大奥様がしています。それらは社交シーズンが終わり公爵領に来てからで構わないと承っています」

「本当? それならよかったわ」


 ロバートの言葉にほっとする。

 どうやら公爵領にある孤児院の運営はシルヴェスター様のお母様がやっていて、今はしなくていいとのこと。

 なら屋敷の管理に専念できる。まずは屋敷の管理をしっかりできるようにしよう。


「そろそろ昼食のお時間ですね。食堂へ行きましょう」


 ロバートに指摘されて時計を見る。時間は正午よりほんの少し早い時間。

 少し早いけど昼食にしよう。午後は忙しくて大変だろうから。

 しかし、昼食の前に午後の仕事の準備をしておきたい。


「その前にロバート、一ついいかしら」

「なんでしょう、何なりとお申し付けください」

「ありがとう。それじゃあ──」


 少々量が多くて面倒だけど必要なことなので、ロバートに頼み事をしたのだった。




 ***




 朝食同様に公爵家の昼食は素晴らしく、昼食を堪能した後、公爵夫人用の執務室へ向かう。

 執務室にはロバートが控えていて、執務をする執務机に椅子、そしてその前にある長テーブルが配置されていてシンプルな形になっている。

 そして執務机には予想通り、大量の手紙が山となっていた。


「奥様」

「ごめんなさいね。頼んで」

「いいえ。午後には奥様にお願いするつもりでしたので自ら言ってくれて助かりました」

「それならよかったわ」


 手紙の山を見ながら執務用の椅子に座る。執務机に置かれる手紙は大量でその量に辟易する。


「さすが名門公爵家ね。()()()()()()()が大量ね」


 目の前にあるのは公爵家に対する結婚祝いの手紙だ。

 国内の中でも上位に位置する公爵家の結婚だ。当然、内心どうであれ、祝いの手紙やプレゼントが届いてくる。

 祝いの手紙を無視するわけにはいかないので返信に勤しむつもりだ。


「旦那様の結婚は突然でしたから。婚約発表も結婚の直前だったので仕方ありません。本日から明後日までは同等の量だと考えた方がよろしいでしょう」

「そう。仕方ないわね」


 確かに婚約も結婚も突然でどの家も驚いただろう。当事者の私ですら二ヵ月後に結婚と聞いて驚いたのだから。

 王命で水の泡になったけど娘を公爵家に嫁がせようと躍起になっていた家もあったはず。正に寝耳に水だったと思う。

 

「奥様、王家からのお祝いの品が届いております」

「え」


 エストの言葉に目を見開く。

 祝いの手紙は来ていると思っていたけど、祝いの品があると聞いて一瞬固まる。王家から贈り物?

 差し出された箱からリボンを解くと、一目で分かる最上級のエメラルドを繊細にカットされたブローチがあった。


「ブローチね……。でも、この宝石……」

「王直轄の領地から採掘したエメラルドでメデェイン王国随一の宝石加工職人に作らせたようです」


 王家からの手紙を読むロバートの言葉に今度こそ固まる。王直轄は名の通り、国王所有の領地で最高品質の鉱山を保有している。

 保有していても国王所有ということで普段は厳重に管理していて滅多に採掘をしなければ加工することもない。

 それなのに目の前にあるエメラルドは国王所有の鉱山から採掘された宝石で、加工技術が優れたメデェイン王国一の職人に作らせた代物だという。……いくらしたのか考えるのも恐ろしい。考えるのはやめよう。


「……まずは王家に返信ね」

「はい。そうしましょう」


 ロバートと意見が一致する。まずは王家に返信しよう。

 王家、正確には陛下とランドベル公爵家の関係が密接なのは知っていたけど、まさか国王所有の鉱山の宝石を加工して贈ってくるとは。それだけ、ランドベル公爵家との関係が深いと考えるべきだろう。

 他の貴族はどうなのだろう。他の家もこんな贈り物していたら顔を引きつる自信がある。


「奥様、よければ返信についてお手伝いいたしましょうか」

「手伝い?」


 ロバートの言葉に聞き返す。何を手伝ってくれるのだろう。


「はい。初めての結婚祝いの返信で何を書くか悩むと思います。僭越ながら返信のお言葉を助言いたしましょうか」

「なるほどね」


 確かに初めての結婚祝いの返信で何を書けばいいか悩んでしまう。悩む時間が長いと量がどんどん増えていくし、ここはロバートの助けを借りるべきかもしれない。


「そうね……ならいいかしら?」

「はい。お任せください」


 そしてロバートの助言を元、まずは王家に返信をしたためていく。

 言葉遣い、国王陛下への感謝の言葉をロバートの懇切丁寧な助言を元に書いていき、どうにか書き終える。


「これでどうかしら?」

「確認します」


 渡すとロバートが読んでいき、待っていると頷いて視線をこちらへ向ける。


「大丈夫です。こちらは本日中にお送りします」

「ええ、お願いね。じゃあ次に行くわ」


 エストがペーパーナイフで封を切った手紙を受け取って家名を確認する。

 王家の次は宰相を始めとした大臣や主要な国王派、同じ公爵家と順番に返信していく。

 十件目の返信を終えるとロバートは自分の仕事をするために退室した。慣れてきたので了承して家名と贈り物を確認して黙々と一通一通、丁寧に返信し続けて本日届いた分の手紙を対処したのだった。

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